トーマス–フェルミ近似
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/09 03:29 UTC 版)
トーマス–フェルミ近似においては、系は低温に保たれ、電子の化学ポテンシャル(フェルミ準位)が一定に保たれる(後者の条件は、実際の実験においてはグランドに対する電位差が常に一定に保たれるよう流体と電気的な接触を保つことに対応する)。化学ポテンシャル μ は電子を流体に追加するときのエネルギーと定義される。このエネルギーは運動エネルギー部分 T とポテンシャルエネルギー部分 −eφ に分けられる。化学ポテンシャルは一定に保つので、次のように書ける。 Δ μ = Δ T − e Δ ϕ = 0 {\displaystyle \Delta \mu =\Delta T-e\Delta \phi =0} 極低温においては、電子の振る舞いは自由電子ガスと呼ばれる量子力学的モデルに近づく。したがって、T を自由電子ガスに電子を追加するエネルギー、すなわち単純にフェルミエネルギー EF により近似する。フェルミエネルギーと電子の(スピン縮退度を含む)密度との間には次のような関係式が成り立つ。 ρ = 2 1 ( 2 π ) 3 4 3 π k F 3 , E F = ℏ 2 k F 2 2 m , ρ ∝ E F 3 / 2 {\displaystyle \rho =2{\frac {1}{(2\pi )^{3}}}{\frac {4}{3}}\pi k_{F}^{3}\quad ,\quad E_{F}={\frac {\hbar ^{2}k_{F}^{2}}{2m}}\quad ,\quad \rho \propto E_{F}^{3/2}} 一次の摂動まで考えると、次を得る。 Δ ρ ≃ 3 ρ 2 E F Δ E F {\displaystyle \Delta \rho \simeq {\frac {3\rho }{2E_{F}}}\Delta E_{F}} これを前述 Δμ についての式に代入すると次を得る。 e Δ ρ ≃ ε 0 k 0 2 Δ ϕ {\displaystyle e\Delta \rho \simeq \varepsilon _{0}k_{0}^{2}\Delta \phi } ここで、次のように定義した。 k 0 = d e f 3 e 2 ρ 2 ε 0 E F = m e 2 k f ε 0 π 2 ℏ 2 {\displaystyle k_{0}\ {\stackrel {\mathrm {def} }{=}}\ {\sqrt {\frac {3e^{2}\rho }{2\varepsilon _{0}E_{F}}}}={\sqrt {\frac {me^{2}k_{f}}{\varepsilon _{0}\pi ^{2}\hbar ^{2}}}}} これはトーマス–フェルミ遮蔽波数ベクトル(英語版)と呼ばれる。 この結果は電子同士の相互作用を無視する自由電子ガス模型の結果から導かれているため、トーマス–フェルミ近似は電子密度が低く、粒子間相互作用が比較的弱い場合にのみ有効である。
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