ISO 639-3 批判

ISO 639-3

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/05 12:59 UTC 版)

批判

言語学者のモーリー、ポストおよびフリードマンは ISO 639-3 に対してさまざまな批判を提起している[26]

  • 3文字コード自身に問題がある。これらのコードは公式には恣意的で技術的なラベルとされているが、実際にはしばしば言語名の省略からなっており、そのうちいくつかは差別的である。たとえば、イェム語英語版には jnj が割りあてられているが、これは差別語の「Janejero」に由来する。これらのコードはその言語の話者を侮辱するものであるが、標準において割り当てを変更することができない。
  • 標準の管理に問題がある。SIL はキリスト教の宣教団体であり、透明性や説明責任において不適当である。何が言語としてコード化するに値するかの決定が内部で行われる。外部の提案は歓迎されたりされなかったりするが、決定自身は不透明であり、多くの言語学者が標準を改訂することを諦めている。
  • 言語に恒久的な識別子を与えることは、言語の変化と両立しない。
  • 言語と方言はしばしば厳格に区別できない。方言連続体はさまざまな区分が可能である。そのような区分はしばしば社会的・政治的要因によってなされる。
  • ISO 639-3 は人々の所属に関する決定を行う権力者によって誤解ないし誤用され、言語の話者が自分の所属を決めたり自分の言語が何であるかを決めたりする権利を奪いかねない。SIL はこのような問題に対して注意を払ってはいるものの、確立した標準には本質的にこの問題をかかえており、ISO や SIL の意図しない方向に使われる(または誤用される)可能性がある。

マーティン・ハスペルマートはこの指摘のうちの4つを認めたが、言語変化については認めなかった[27]。ハスペルマートによれば、どのような言語の記述もそれが何の言語であるかを同定することが必要であるし、言語の異なる段階を区別するのは容易であるから、言語変化に関する指摘は不当なものである。ハスペルマートは、言語学者は languoid レベルのコード化を行うことを好むだろうとする。「言語学者にとって、それが言語であるか、方言であるか、緊密な関係にある複数の言語であるかが意味を持つことはほとんどない」ためである。ハスペルマートはまた、ISO が言語の同定を行うことが妥当かにも疑問を投げかける。ISO は工業規格の機関であるが、言語の文献と用語は科学的な努力であるとする。ハスペルマートは言語コードの本来の必要性は「翻訳とローカライズの経済的重要性」にあり、ISO 639-1 と ISO 639-2 はそのために作られたことを指摘する。しかし ISO 639-3 によって提供されるような「狭いコミュニティーで使われ、全くないしほとんど書かれることのない、しばしば絶滅の危機にある、ほとんど知られていない言語」を含む包括的なコードが工業的に必要かどうかは疑問とする。


  1. ^ a b ISO 639-3 status and abstract(ISO 639-3 現況と梗概)”. iso.org (2010年7月20日). 2012年6月14日閲覧。
  2. ^ Codes for the representation of names of languages — Part 3:Alpha-3 code for comprehensive coverage of languages
  3. ^ Maintenance agencies and registration authorities”. ISO. 2012年6月14日閲覧。
  4. ^ Types of individual languages - Ancient languages”. sil.org. 2012年6月14日閲覧。
  5. ^ Aryawibawa, Nyoman I. (2010) Spacial refeerence in Rongga (ISO 639-3: ror), Balinese (ISO 639-3: ban), and Indonesia (ISO 639-3: ind). UMI, ProQuest.
  6. ^ Ethnologue report for ISO 639 code:zho on ethnologue.com
  7. ^ ISO 639-3 Macrolanguage Mappings” (英語). SIL.org. 2022年2月27日閲覧。
  8. ^ a b ISO 639-3 Code Set”. Sil.org (2007年10月18日). 2012年6月14日閲覧。
  9. ^ ISO 639-3”. sil.org. 2012年6月14日閲覧。
  10. ^ Scope of Denotation: Individual Languages(区別の観点)”. sil.org. 2012年6月14日閲覧。
  11. ^ Scope of Denotation: Dialects(区別の観点:識別子)”. sil.org. 2012年6月14日閲覧。
  12. ^ Scope of denotation: Macrolanguages”. sil.org. 2012年6月14日閲覧。
  13. ^ a b 完全なマクロ言語の一覧は以下を参照Macrolanguage Mappings”. sil.org. 2012年6月14日閲覧。
  14. ^ Scope of denotation:Collective languages”. sil.org. 2012年6月14日閲覧。
  15. ^ miscellaneous」に由来。
  16. ^ Field Recordings of Vervet Monkey Calls. Entry in the catalog of the Linguistic Data Consortium. Retrieved 2012-09-04.
  17. ^ Submitting ISO 639-3 Change Requests:Types of Changes”. sil.org. 2012年6月14日閲覧。
  18. ^ Scope of Denotation for Language Identifiers”. sil.org. 2012年6月14日閲覧。
  19. ^ Types of Languages”. sil.org. 2012年6月14日閲覧。
  20. ^ ISO 639-3 Change Management”. sil.org. 2012年6月14日閲覧。
  21. ^ Submitting ISO 639-3 Change Requests”. sil.org. 2012年6月14日閲覧。
  22. ^ : change request index
  23. ^ : candidate status
  24. ^ : candidate status change requests
  25. ^ ISO 639-3 Change Request Index”. sil.org. 2012年6月14日閲覧。
  26. ^ Morey, Stephen; Post, Mark W.; Friedman, Victor A. (2013). The language codes of ISO 639:A premature, ultimately unobtainable, and possibly damaging standardization. PARADISEC RRR Conference.
  27. ^ Martin Haspelmath, "Can language identity be standardized? On Morey et al.'s critique of ISO 639-3", Diversity Linguistics Comment, 2013/12/04
  28. ^ Languages in the Root:A TLD Launch Strategy Based on ISO 639”. Circleid.com (2004年10月5日). 2012年6月14日閲覧。
  29. ^ ICANN Email Archives:[gtld-strategy-draft]”. Forum.icann.org. 2012年6月14日閲覧。
  30. ^ Over 7,000 languages, just 1 Windows”. Microsoft (2014年2月5日). 2014年10月20日閲覧。





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ISO 639-3」の関連用語

ISO 639-3のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ISO 639-3のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのISO 639-3 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS