朝鮮民主主義人民共和国 歴史

朝鮮民主主義人民共和国

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/02 05:12 UTC 版)

歴史

朝鮮民主主義人民共和国成立以前

前近代における朝鮮の王朝の特徴は、各王朝の存続期間が非常に長いことである[26]。実態が未だ不明確な古朝鮮を除き、新羅、高麗、李氏朝鮮(大韓帝国)といずれの統一王朝も400年以上存続している[26]

朝鮮半島における国家としては、伝説的には箕子が朝鮮で建国した箕子朝鮮檀君が建国した檀君朝鮮があるが、実在が確かな最初の国家は紀元前5世紀から紀元前4世紀に中国人勢力が朝鮮半島北部に波及したことによる衛氏朝鮮である[27]4世紀には高句麗新羅百済加羅が朝鮮半島内で対立。

6世紀には加羅諸国は新羅などに併合され、高句麗、新羅、百済の三国が覇権を争った後、と同盟した新羅は663年白村江の戦いで百済と倭国の連合軍を破り、668年に高句麗王を投降させ、唐の支配力が衰えるとともに、677年に朝鮮に統一王朝を築いた[27]。その後、新羅の弱体化により892年に後三国時代が始まった後、918年に建国された高麗が936年に全土を統一した。高麗はモンゴル帝国の侵攻を受け弱体化し、1392年に高麗の武将李成桂恭譲王を廃位して国王に即位して李氏朝鮮を成立した。17世紀に清に服属した[28]。李氏朝鮮は19世紀近代化の波が東アジアへ押し寄せる中で弱体化していった。

19世紀末に至るまで、朝鮮の統一王朝は中国歴代王朝冊封国として臣事していたが[27]日清戦争の講和条約である下関条約において、日本の求めに応じて敗戦国のが朝鮮に対する冊封を取りやめたため、李氏朝鮮は1897年に完全な独立国家として国号を『大韓帝国』に改称したが、その後も、長年の従属国体制で染みついた事大主義体質や小中華思想を払拭する事は出来なかった。また日本により制限された自国の交易権を認めてもらうため、ロシア帝国に接近する動きを見せるようになり、日本との対立を深めた。

1903年龍岩浦事件がきっかけとなって、1904年に勃発した日露戦争[29] の勝利を経て、日本はロシア帝国の朝鮮に対する影響力を完全に排除した。日露戦争勃発後の1904年に締結された第1次日韓協約により韓国が外国と条約を締結するには日本政府との協議を要することになり、日露戦争後の1905年に締結された第2次日韓協約では外交権を接収され、内政も事実上日本の韓国統監府による統治を受ける保護国となった[30]

1907年には、皇帝高宗が第2次日韓協約の無効をオランダハーグで開かれた第2回ハーグ平和会議に認めさせようとハーグ密使事件を起こし、日本と対立を深め、高宗は譲位に追い込まれ、日本の傀儡としての純宗皇帝が擁立された[31]。直後の1907年に第3次日韓協約が締結され、韓国統監府による朝鮮統治、高級官僚の日本人の就任、韓国の軍隊を解散させることなどを認めた[30]。さらに1910年には韓国併合ニ関スル条約を締結し、名実ともに朝鮮は日本の植民地となった(韓国併合[32]

これ以降、35年間に渡って朝鮮は日本の朝鮮総督府による統治を受けた。その後1941年12月8日の太平洋戦争の勃発で、日本がイギリスアメリカ合衆国、ソビエト社会主義共和国連邦、フランスオランダ中華民国連合国との間で交戦になると、連合国の首脳は1943年のカイロ宣言から「朝鮮を解放、独立」を求めるようになる[33]第二次世界大戦末期の1945年8月9日ソ連対日参戦によってソ連軍は満洲国への進軍を開始し、朝鮮半島北部に侵攻。その後、9月2日に日本が降伏文書に調印したことで、日本の朝鮮統治は正式に終了した。

その後朝鮮半島は、北緯38度線以南をアメリカに、38度線以北をソビエト連邦に占領され、両国軍の軍政統治を受けた。当初米ソ両国は、ヤルタ会談に基づいて朝鮮を信託統治にする予定だったが、その実現方法を巡って決裂し、それぞれの支配地域で政府を樹立する準備を開始した。

その結果、アメリカ軍政によって1948年8月15日に李承晩を首班とする大韓民国が朝鮮半島南部単独で樹立され、朝鮮の分断が決定的となった。これに対抗して朝鮮半島北部でも独立準備が加速し、同年9月9日に金日成首相の下で、朝鮮民主主義人民共和国が建国された(なお北朝鮮では政治的権限は金日成首相にあったが、元首は最高人民会議常任委員会金枓奉委員長であった)。

1945年8月15日に、日本が連合国軍との間の戦闘を停止した後に、日本から行政を引き継ぐために設立された朝鮮建国準備委員会(建準)が、9月6日に「朝鮮人民共和国」の建国を宣言し、中央本部を「中央人民委員会」、地方の支部を「人民委員会」とした。しかし朝鮮人民共和国は、米ソ両国から政府承認を拒否され、アメリカ軍占領地域では人民委員会も解散させられた。だが、ソ連軍は占領地域の人民委員会を存続させ、ソビエト民政庁に人民委員会を協力させる形式で占領行政を担った。

ソ連は、各地の人民委員会を中央集権化させる形で1946年2月に北朝鮮臨時人民委員会を創設し、ソ連から帰国した抗日パルチザンの金日成を初代委員長に就任させた。朝鮮半島北部では、北朝鮮人民委員会の執政下で社会主義化が進み、1946年8月には朝鮮半島北部の共産主義勢力を糾合した北朝鮮労働党が結成され、1947年2月20日には立法機関として北朝鮮人民会議が創設された。

その後、北朝鮮人民委員会は独立のために最高人民会議を招集し、1948年9月8日に朝鮮民主主義人民共和国憲法を制定、翌9月9日に人民共和国の樹立を宣言して独立した。1948年12月にソ連軍は朝鮮半島から撤収したが、その後も強い影響力を残した。

朝鮮民主主義人民共和国成立後

初代最高指導者金日成
友好国、ドイツ民主共和国(東ドイツ)を訪問した際にエーリッヒ・ホーネッカー国家評議会議長と並ぶ金日成(1984年、東ベルリン共和国宮殿にて)

朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)建国の翌1949年6月30日に北朝鮮労働党は、韓国の李承晩政権の反共主義政策のために越北した南朝鮮労働党と合併し、朝鮮労働党が結成された。

南北朝鮮の両国は、互いに自らを「朝鮮における唯一の正統な政府」であると主張して対立を深め、武力による南朝鮮の「解放」を目指す朝鮮人民軍が、1950年6月25日に韓国に侵略したことで朝鮮戦争(祖国解放戦争)の勃発に至った。

当初分断国家朝鮮両国の武力衝突であった朝鮮戦争は、東西冷戦構造の中で突然の侵略を受け劣勢になった韓国側に立ったダグラス・マッカーサー元帥の下、アメリカやイギリス連邦タイトルコフランスベルギーなど16か国から構成される「国連軍[34] の参戦と、「国連軍」の朝鮮半島北上により北朝鮮の劣勢を受けて北朝鮮側に立った彭徳懐司令官率いる中国人民志願軍の介入により国際紛争へと拡大した。戦争は朝鮮全土を破壊した上で1953年7月27日の休戦を迎え、38度線に軍事境界線が制定され朝鮮の分断が固定化された。

朝鮮半島の分断は停戦状態のまま固定されており、朝鮮統一問題が北朝鮮の最重要課題となっている。休戦後、北朝鮮は「南朝鮮を解放」するため特殊工作員対南工作に力を入れ、しばしば韓国の情報機関に摘発されているほか、韓国や日本などの国民の拉致も行っている。また、正規軍同士による武力衝突も散発的に起きており、北朝鮮はしばしば休戦協定の無効化をほのめかす声明を行っているが、協定締結者である国連軍と中華人民共和国双方に受け入れられていない。なお、北朝鮮と韓国はともに1991年9月17日に国際連合に加盟している。

北朝鮮は金日成が1948年9月9日の建国当初から1994年7月8日の死去まで最高指導者の位置を占めた。1950年代から1960年代にかけて、金日成は同国の指導政党である朝鮮労働党から満州派と対立する勢力を順次粛清し、自身に権力を集中させた。まず、1953年の朝鮮戦争休戦直後から、戦争責任を問われて南労党派の党員が相次いで粛清され、1955年に主要人物の朴憲永死刑となった。次いで、1956年にはソ連スターリン批判の影響から8月宗派事件が発生し、金日成の追放を企てた延安派ソ連派の党員が相次いで党から姿を消した。最後に、経済政策や金日成の個人崇拝等を巡って満州派と対立した甲山派が1967年に粛清され、朝鮮労働党内から金日成・満州派と対立する勢力が一掃された。

延安派やソ連派の粛清に伴い、金日成は朝鮮戦争後の北朝鮮再建に影響力を持つソビエト連邦や中華人民共和国との関係を悪化させた。だが、満州派は1958年から千里馬運動を展開して国内の生産性向上による問題解決を図った他、1960年代から表面化した中ソ対立の際に中立的な立場をとって双方と軍事同盟条約を結んだことで両国との関係悪化を最小限に抑えた。その後、満州派は甲山派の粛清と同時に党の指導理念として唯一思想体系を導入し、1972年制定の朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法で公式な国家の運営思想として主体思想を明記した。更に、1974年には国民の行動規範として党の唯一思想体系確立の10大原則が制定され、金日成個人崇拝が進められた。

北朝鮮は国内の権力闘争の一方で、1953年7月27日の朝鮮戦争休戦直後より他の社会主義国から支援を受けながら経済を発展させ、1970年代までは韓国に対し国力で優位を保っていた(朝鮮民主主義人民共和国の経済史#朝鮮戦争の影響と復興)。そのため、東西冷戦期には北朝鮮から韓国に対して連邦制による南北朝鮮統一案が幾度か能動的に提案されている。最初の主な提案は1960年で、四月革命で韓国の李承晩初代大統領が退陣した直後の8月14日に「連邦制統一案」と南北両政府合同による「最高民族委員会」の樹立を提示している。次に提案があったのは、1979年10月26日の朴正煕暗殺事件を受け、翌1980年に5・17非常戒厳令拡大措置によって韓国に全斗煥将軍による軍事政権が樹立された直後で、1980年の10月10日に南北両政府の政治体制の相違を乗り越えた統一案として「高麗民主連邦共和国」創設を提唱している[35]

しかし1970年代後半から1980年代になると、北朝鮮の社会主義経済は効率性・生産性の欠如が進み(マルクス主義批判#共産主義体制への批判参照)、重工業軍事産業と比して軽工業が発展しなかったために民需品が不足するなど、経済発展の停滞が深刻化した。これは、経済問題に明るい甲山派が1967年に粛清されて経済政策に精通したテクノクラートが中央から姿を消したこと、唯一思想体系の導入で経済対策の中央集権化や官僚主義化が進んだことによるものといわれ、大安の事業体系青山里方式主体農法)といった中央政府の施策を教条主義的に全国へ導入したことで全国的な生産力の劣化や労働者勤労意欲の減退を招いたとされる。朝鮮労働党も三大革命赤旗獲得運動等で社会の活性化を目指したが経済状況は好転せず、本来は5年に一度の頻度で開くべき朝鮮労働党党大会も1980年の第6次大会以降は開けない状態が長く続いた。それどころか、1989年の東欧革命、及び1991年のソ連崩壊によって東側諸国との従来の経済交流が断絶し、特にソ連からの重油の供給停止が引き金となって、北朝鮮は1990年代に入ると今迄の社会状況を維持することすら困難となった。

1990年代半ばになると従来の計画経済は完全に崩壊して国全体の経済制度が破綻状態となり(朝鮮民主主義人民共和国の経済史#社会主義圏の崩壊と金日成の死去)、食糧等の生活物資の配給が止まったことで国内各地では食糧不足が深刻化し、各国の支援にもかかわらず、内陸の農村部を中心に餓死者が出る事態となった。それに伴い、多くの人々が食料を求めて中朝国境を越えて中国へと密入国し、脱北者問題が国際的に注目されるようになった(朝鮮民主主義人民共和国の経済史#大飢餓と深刻な経済難)。

1994年7月8日に建国以来一貫して国政を指導してきた金日成が死去すると、その実子である金正日が1997年に朝鮮労働党総書記へ就任した。本来、朝鮮労働党規約では党中央委員会総会で党中央委員会総書記を選出するとしているが、この際に党中央委員会総会は開催されずに各級党会議での「総書記推戴決議」という形式をとり、朝鮮労働党中央委員会総書記ではなく朝鮮労働党総書記という規約上存在しない役職に就任した。更に1998年には、憲法改正で国家主席制を廃止する[36] と共に、同年の最高人民会議で「国の全般を建設、指揮する国家の最高職責」(事実上の最高指導者)とされた国防委員長に金正日が再任され[37]、金正日国防委員長による新体制が成立した。

1998年当時の北朝鮮は独裁体制のもとで経済が低迷し、冷戦構造の崩壊によって国際的にも孤立した状態となっていた。そのため、北朝鮮政府は経済支援を引き出すために多くの西側諸国との間で国交樹立に向けた外交交渉に取り組み、その結果として1999年以降に相次いで国交を樹立した他、2000年には韓国の金大中大統領との間で南北首脳会談の開催と6.15南北共同宣言採択に成功した。その後、中国の経済協力や韓国の太陽政策などによって、破綻に瀕した北朝鮮経済は一応の安定をみせた。しかし、核兵器開発計画を巡って、アメリカ政府との間では緊張状態が継続した他、日本政府との国交締結交渉は、日本人拉致問題や韓国併合およびその統治に対する賠償などで意見が対立し、締結には至らなかった(日本統治時代の賠償に関しては、日韓基本条約により問題が更に複雑化している。当該項の北朝鮮に関する記述を参照)。

2011年12月17日に金正日総書記が死去し、三男の金正恩を首班とする新体制が発足した。金正恩第一書記体制下では張成沢を粛清し、前代からの国防委員を解任するなど、新たな権力体制構築が行われている。同時に、金正恩体制は北朝鮮経済の改革による経済発展を目指しており、チャンマダンによる市場経済拡大に伴い平壌のような都市部で生活水準の向上等の変化が見られている一方、貧富の差の拡大も指摘される[38][39][40][41][42]。ただ、核開発問題を理由に採択された国際連合安全保障理事会決議決議1718など)の経済制裁が有効なこともあり、経済政策の効果は限定的とみられている。韓国銀行による2014年時点のGNI推計値は138.8万韓国ウォン[43] で、経済規模は未だ1970年代の水準で停滞を続けている。

朝鮮民主主義人民共和国の主な歴史観

朝鮮半島には古代から自主独立の国があったとする独自の歴史観を掲げているため、漢四郡の存在を否定し、朝鮮半島北部をおよそ400年間支配した楽浪郡は遼東半島にあったと主張している[44][45]。また、平壌を中心とした大同江流域の古代文化を「大同江文化」と命名し、世界四大古代文明と肩を並べる「世界五大文明」の中の1つとしている。




注釈

  1. ^ 憲法には「委員長は国を代表する」とあり、これにより国務委員長は国家元首とされる。
  2. ^ 内閣総理(首相)は憲法で「政府の代表」と明記されている。
  3. ^ 常任委員長は対外的な国家元首として、外国使節の信任状および召喚状を接受する。

出典

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  23. ^ 1990年代以降における「高麗人」の表記は、「ソビエト連邦崩壊後の独立国家共同体(CIS)諸国の国籍を持つ朝鮮民族」を指す
  24. ^ 韓国は建国以来「合法な中国の国家」として中華民国を承認しており、台湾台湾国民政府を「正統な中国政府」としていた。そのため、1992年に国交を結ぶまで、韓国は北京の中華人民共和国を国家承認していなかった。詳細は台韓関係を参照のこと。
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  34. ^ 韓国を支援するため朝鮮戦争へ参戦した16か国の有志連合も「国連軍」を名乗っていたが、国際連合憲章第7章の規定に沿って派遣されたわけではないので、厳密には国際連合軍ではない。詳細は国連軍、及び朝鮮戦争を参照のこと。
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