上昇と下降
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/04/27 14:59 UTC 版)
フレーズ上昇は鎖を「上向きの包含」によって拡張できるケースをいい、下降は鎖を「下向きの包含」によって拡張できるケースをいう。
主要な結果は Cohen-Seidenberg の定理 (Cohen–Seidenberg theorems) であり、これは Irvin S. Cohenと Abraham Seidenbergによって証明された。これらは上昇定理 (going-up theorem) と下降定理 (going-down theorem) として知られている。
上昇と下降
A⊆B を可換環の拡大とする。
上昇定理と下降定理は B の素イデアルの鎖であってその各メンバーが A の素イデアルのより長い鎖のメンバーの上にあるようなものが A の素イデアルの鎖の長さに拡張できるための十分条件を与える。
Lying over and incomparability
まず、いくつか用語を固定する。 と がそれぞれ A と B の素イデアルであって
であれば( は自動的に A の素イデアルであることに注意せよ)、 は の下にある ( lies under ) と言い は の上にある ( lies over ) という。一般に、可換環の環拡大 A⊆B が lying over property を満たすとは、A のすべての素イデアル P が B の素イデアル Q の下にあることをいう。
拡大 A⊆B が incomparability property を満たすとは、Q と Q' が A の素イデアル P の上にある B の相異なる素イデアルであるときにはいつでも Q⊈Q' かつ Q' ⊈Q であることをいう。
上昇
環の拡大 A⊆B が上昇性質 (going-up property) を満たす、上昇定理が成り立つとは、
が A の素イデアルの鎖で
(m < n) が B の素イデアルの鎖であって各 1 ≤ i ≤ m に対して が の上にあるようなときにはいつでも後者の鎖が各 1 ≤ i ≤ n に対して が の上にあるような鎖
に拡張できることをいう。
(Kaplansky 1970) において、拡大 A⊆B が上昇性質を満たせば lying-over property も満たすことが示されている。
下降
環の拡大 A⊆B が下降性質 (going-down property) を満たすとは、
が A の素イデアルの鎖で
(m < n) が B の素イデアルの鎖であって各 1 ≤ i ≤ m に対して が 上にあるようなときにはいつでも後者の鎖が各 1 ≤ i ≤ n に対して が の上にあるような鎖
に拡張できることをいう。
環準同型をもった環の拡大のケースの一般化がある。f : A → B を(単位的)環準同型であって B が f(A) の環拡大であるとする。このとき f が上昇性質 (going-up property) を満たすとは f(A) に対して B において上昇性質が成り立つことである。
同様に、f(A) が環拡大であれば、f が下降性質 (going-down property) を満たすとは下降性質が f(A) に対して B において成り立つということである。
A⊆B のような普通の環の拡大のケースでは、包含写像を考えればよい。
上昇定理と下降定理
上昇定理と下降定理の通常のステートメントは環拡大 A⊆B に言及する:
- (上昇) B が A の整拡大であれば上昇定理が成り立ち(したがって lying over property を満たし)、incomparability property を満たす。
- (下降) B が A の整拡大で B が整域であり A がその分数体において整閉であれば、(上記に加えて)下降定理も成り立つ。
下降定理には別の十分条件がある。
- A⊆B が可換環の平坦拡大であれば、下降定理が成り立つ[1]。
証明[2]:p1⊆p2 を A の素イデアルとし q2 を B の素イデアルであって q2 ∩ A = p2 とする。q2 に含まれる B の素イデアル q1 が存在して q1 ∩ A = p1 であることを証明したい。A⊆B は環の平坦拡大であるから、Ap2⊆Bq2 は環の平坦拡大であることが従う。実は、Ap2⊆Bq2 は環の忠実平坦拡大である、なぜならば包含写像 Ap2 → Bq2 は局所射だからだ。それゆえ、スペクトルに誘導される写像 Spec(Bq2) → Spec(Ap2) は全射であり Ap2 の素イデアル p1Ap2 に contract する Bq2 の素イデアルが存在する。Bq2 のこの素イデアルの B への contraction は p1 に contract する q2 に含まれる B の素イデアル q1 である。証明が完了する。 Q.E.D.
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