リアリズム法学 その後の影響

リアリズム法学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/05 05:02 UTC 版)

その後の影響

こうしたリアリズム法学の主張は、アメリカにおいて大きな論争を巻き起こして形式主義法学に対して変容を迫るものであった。そして、リアリズム法学は、論争の中で実際に一定の受容がなされ、折衷的に、1950年代から60年代にかけて力を持ったヘンリー・ハート(Henry Hart)らのプロセス法学(Legal Process)等に受け継がれることになる[23]

また、リアリズム法学は、戦後GHQの指導下にあったこと等から日本にも流入し、経験的事実の観察を重視する「経験法学研究会」設立の契機の一つとなった[24]。本研究会は、民法学者の川島武宜と法哲学者の碧海純一が中心となって、東京大学において設立したものであり、そこでの議論・人脈が後の日本の法学界に対して大きな影響を与えることになった[25]

こうして、「いまや我々は皆リアリズム法学者である(We are all legal realists now)」などと述べられるようになるが、1970年代後半になると、その継受が実質的に不徹底で歪められたものであることを問題視して、リアリズム法学の再興・再考を掲げる批判法学(Critical Legal Studies)が勃興し、新たに注目されるようになる[26]。また、経験的事実の重視という側面を強調し、最新の社会科学の知見を取り入れることでリアリズム法学の再興を図る「新リアリズム法学(New Legal Realism)」といった学派や[27]、批判法学とほぼ同時期に勃興し、リアリズム法学の継受を訴えた「法と経済学(Law and Economics)」といった学派も、盛んに論じられている。リアリズム法学の可能性は、まだ十分に検討され尽くしてはいないのである。


  1. ^ ただし、後述するように、リアリズム法学を運動や学派と捉えることには疑義が呈されている。
  2. ^ 本用語は、大屋雄裕(2014)「批判理論」同他編『法哲学』有斐閣、p.300より借用した。
  3. ^ 佐藤節子(1997)『権利義務・法の拘束力』成文堂、出水忠勝(2010)『現代北欧の法理論』成文堂
  4. ^ ミシェル・トロペール(2013)『リアリズムの法解釈理論』南野森編訳、勁草書房
  5. ^ Mauro Barberis (2017) "Genoese Legal Realism", in Mortimer Sellers and Stephan Kirste (eds.) Encyclopedia of the Philosophy of Law and Social Philosophy, Springer, pp.1–6
  6. ^ 菊地諒他(2023)「リーガル・リアリズムの(再)検討に向けて(1)」『立命館法学』408号、pp.26-29
  7. ^ Neil Duxbury (1995) Patterns of American Jurisprudence, Oxford University Press, chapter 2
  8. ^ ただし、ホームズをリアリズム法学者の一員として整理する文献もある(例として、佐藤正典「アメリカのリアリズム法学」『桜美林論考. 法・政治・社会』第5号、桜美林大学、2014年3月、27-34頁、ISSN 2185-0682NAID 110009957921  wiki上では、「プラグマティズム法学」と「リアリズム法学」の項目を別個に設けており、この区別を前提とする以上、ホームズは前者に属するものと考えるほうが自然である。
  9. ^ Oliver Wendell Holmes (2009) The Path of the Law and the Common Law, Kalpan Publishing, p.1. なお訳出は、戒能通弘「近代英米法思想の展開(4・完)ホームズ、パウンド、ルウェリン」『同志社法学』第63巻第1号、同志社法學會、2011年6月、631-717頁、doi:10.14988/pa.2017.0000013796ISSN 03877612NAID 110009843135  p.657 に依る
  10. ^ Roscoe Pound (1922) An Introduction to the Philosophy of Law, Yale University Press, introduction
  11. ^ Roscoe Pound (1908) “Mechanical Jurisprudence”, 8 Columbia Law Review 605, p.605. なお訳出は、戒能通弘「近代英米法思想の展開(4・完)ホームズ、パウンド、ルウェリン」『同志社法学』第63巻第1号、同志社法學會、2011年6月、631-717頁、doi:10.14988/pa.2017.0000013796ISSN 03877612NAID 110009843135  p.664に依る
  12. ^ Roscoe Pound (1931) “The Call for a Realist Jurisprudence”, 44 Harvard Law Review 697
  13. ^ 森村進(2016)「リアリズム法学は社会学的法学とどこが違うのか」同編『法思想の水脈』法律文化社
  14. ^ Lochner v. New York, 198 U.S. 45 (1905)
  15. ^ Adkins v. Children's Hospital, 261 U.S. 525 (1923)
  16. ^ ただし、こうした事実から、リアリズム法学の核心をニュー・ディール的な思考に還元することは正確ではないことにつき、中山竜一(2000)『二十世紀の法思想』岩波書店、pp.67-68
  17. ^ Karl Llewellyn (1931) “Some Realism about Realism-Responding to Dean Pound”, 44 Harvard Law Review 1222. ただし、ルウェリンの特徴付けもまた全体に受け入れらているわけではなく、批判の対象となっている。この点については、菊地諒他(2024)「リーガル・リアリズムの(再)検討に向けて(2・完)」『立命館法学』410号、pp.108-111
  18. ^ 森村進(2016)「リアリズム法学は社会学的法学とどこが違うのか」同編『法思想の水脈』法律文化社、pp.166-167。なお、森村による追加は10.であり、また誤記と思われる9.には変更を加えた(「プラグマティック」→「綱領的」)。
  19. ^ 様々な類型化がおこなわれているが、その概観として、菊地諒他(2024)「リーガル・リアリズムの(再)検討に向けて(2・完)」『立命館法学』410号、pp.78-87
  20. ^ ジェローム・フランク(1970)『裁かれる裁判所』古賀正義訳、弘文堂、ジェローム・フランク(1974)『法と現代精神』棚瀬孝雄=棚瀬一代訳、弘文堂
  21. ^ Karl Llewellyn (1931) “Frank's Law and the Modern Mind”, 31 Columbia Law Review 82
  22. ^ こうした側面を重視し、「ルール懐疑主義」という呼称をルウェリンの議論にあてるのはミスリーディングだと主張する文献もある。戒能通弘(2020)「<コラム18>ルール懐疑主義とルウェリン」同他『法思想史を読み解く』法律文化社
  23. ^ 大屋雄裕(2014)「批判理論」同他編『法哲学』有斐閣、pp.301-302
  24. ^ 長谷川晃(2004)「日本の法理論はどこから来たのか」角田猛之=長谷川晃編『ブリッジブック法哲学』信山社、pp.51-52
  25. ^ 経験法学研究会については、平井宜雄「主報告 「法的思考様式」を求めて--35年の回顧と展望」『北大法学論集』第47巻第6号、北海道大学法学部、1997年4月、115-154頁、ISSN 03855953NAID 120000954121 
  26. ^ 見崎史拓「批判法学の不確定テーゼとその可能性(1)法解釈とラディカルな社会変革はいかに結合するか」『名古屋大学法政論集』第276号、名古屋大学大学院法学研究科、2018年3月、199-224頁、doi:10.18999/nujlp.276.6ISSN 0439-5905NAID 120006454452 
  27. ^ 岡室悠介「アメリカ憲法理論における「法」と「政治」の相剋 : 新リアリズム法学を中心に」『阪大法学』第63巻第2号、大阪大学法学会、2013年7月、193-219頁、doi:10.18910/67935ISSN 0438-4997NAID 120006416518 


「リアリズム法学」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「リアリズム法学」の関連用語

リアリズム法学のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



リアリズム法学のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのリアリズム法学 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS