フィギュアスケートの採点法 過去に用いられていた採点法

フィギュアスケートの採点法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/24 08:45 UTC 版)

過去に用いられていた採点法

6.0システム

単に「6.0システム」といった場合は、6点満点で採点する何種類かの採点方法の総称となる。初期のものは1901年から採用された[14]。それ以前は1点刻みの5点満点で採点されていた[15]。2004年6月9日国際スケート連盟(ISU)総会で6.0システム廃止が決議され、来季からと、2006年トリノ五輪は新採点方式となった。2002年ソルトレークシティー五輪での不正採点問題を契機に採点方式の変更がなされた[16]

6.0システムのことを100年続いた採点法と表現する者もいるが、これは「6点満点で採点する」という観点だけに立った場合のことである。6点満点で採点するという観点以外では、時代や地域毎に様々な採点思想による採点がなされてきた。例えば、後述する「ショートプログラムの技術点の減点規定」や「フリースケーティングの評価の観点」の他、ルール違反に対する減点といった基本的な規定が明確化されたのさえ1998年以降のOne By One方式になってからである。

競技者の順位は、単純な総得点を比較するのではなく、席次(各審判員の採点から算出された各競技者の順位)を比較して決定していた[17]。1998年以前は席次数方式が、それ以降はワン・バイ・ワン(ObO;One by One)が、広く用いられていた。

得点

技術点(ショートプログラムではrequired elements、フリースケーティングではtechnical merit)とプレゼンテーションという2つの点数があり、それぞれ6.0点満点で採点する。採点の基準は、日本スケート連盟フィギュア競技規則によると以下のようになっており、小数点第1位までで得点をつけた[18]

0点 = 滑走しないもの
1点 = 非常に劣るもの
2点 = 劣るもの
3点 = 中程度のもの
4点 = 良いもの
5点 = 非常に良いもの
6点 = 傑出したもの
ショートプログラムの技術点の減点規定

行う要素の数と種類が定められているショートプログラムの技術点で、ミスの程度に応じた減点規定が定められた。そして定められた要素を、ミスなく高いレベルで実行できたものを6.0満点として、減点方式で採点するようになった。

男女シングルのショートプログラムの技術点の具体的な減点規定は、以下の通りである[19]

ジャンプ
通常の減点は0.1-0.4、要素が省略された場合の減点は0.5
減点 事由
0.4 離氷時または着氷時の転倒
0.4 必須回転数を満たさないもの
0.3 両足離氷または両足着氷
0.3 着氷時のステッピングアウト
0.2-0.3 回転が完璧でないもの
0.1-0.3 誤ったエッジからの離氷
0.1-0.3 ステップ/ムーヴィングからすぐにジャンプを跳ばないもの
0.1-0.2 フリーレッグまたは手をついたもの
0.1 ステップからのジャンプ要素でステップ・ターンが一つしかないもの
コンビネーションジャンプ
通常の減点は0.1-0.4、要素が省略された場合の減点は0.5
減点 事由
0.4 離氷時の転倒
0.4 ファーストジャンプでの転倒
0.4 両方のジャンプを両足着氷
0.3 ファーストジャンプでのステッピングアウト
0.3 セカンドジャンプでの転倒
0.3 ファーストとセカンドのどちらかが必須回転数を満たさなかったもの
0.2 セカンドジャンプでのステッピングアウト
0.2 どちらかのジャンプの両足離氷
0.1-0.3 誤ったエッジからの離氷
0.2 どちらかのジャンプの回転が完璧でないもの
0.2 ひとつのジャンプが両足着氷であるもの
0.1-0.2 フリーレッグまたは手をついたもの
0.1 2つのジャンプの間にスリーターンが入ったもの
フライングスピン
通常の減点は0.1-0.4、要素が省略された場合の減点は0.5
減点 事由
0.4 転倒
0.1-0.3 空中で姿勢がとれなかったもの
0.1-0.3 必須回転数を満たさないもの
0.1-0.2 正しくない離氷もしくは着氷
0.1-0.2 フリーレッグまたは手をついたもの
スピン
通常の減点は0.1-0.4、要素が省略された場合の減点は0.5
減点 事由
0.4 転倒
0.2-0.3 軸がずれたスピン
0.1-0.3 必須回転数を満たさないもの
0.1-0.2 フリーレッグまたは手をついたもの
コンビネーションスピン
通常の減点は0.1-0.4、要素が省略された場合の減点は0.5
減点 事由
0.4 転倒
0.2-0.3 軸がずれたスピン
0.2-0.3 必須姿勢を満たさないもの
0.1-0.3 必須回転数を満たさないもの
0.1-0.2 フリーレッグまたは手をついたもの
ステップ/スパイラル
通常の減点は0.1-0.3、要素が省略された場合の減点は0.4
減点 事由
0.3 転倒
0.2 正しくないパターン
0.2 半回転以上のジャンプ
0.1-0.2 つまづき
0.1-0.2 後退
0.1-0.2 3つのスパイラル姿勢をとれなかったもの
その他のディダクション
減点 事由
0.3 ソロジャンプもしくはコンビネーションの片方のジャンプの繰り返し
0.1-0.2 必須/規定に従わないもの
0.1-0.2 余分または繰り返されたもの
定められた要素の代わりに規定にない要素を行うことは、余分な要素をやったときの減点のうえにさらに0.1-0.2のディダクションが追加される。
フリースケーティングの評価の観点

フリースケーティングは行う要素の数と種類に自由度が高い。そのため、ショートプログラムのような減点方式で採られず、他の選手よりも難しい技を成功させること、よい演技をすることが求められ、以下のような観点から評価がなされた[18]

技術点の評価の観点
a) 演技のむずかしさ(失敗した部分は、加点の対象とはならない)
b) 変化に富んでいること。
c) 明確さと確実性
d) スピード
プレゼンテーションの評価の観点
a) プログラム全体の調和ある構成及び選んだ音楽との適合
b) スピードの変化
c) 氷面の利用
d) 音楽にあった楽な動作と確実性
e) 身のこなし
f) 独創性
g) 音楽の曲想の表現

順位決定法

席次数方式

席次数(プレースナンバー)方式は、1998年まで用いられた順位決定法で、絶対多数(過半数以上)の審判員が他の競技者より良いと採点した競技者が上位となるようにした方式である。 各競技者の順位は、絶対多数の審判員から得た順位(席次)が小さい競技者を上位とし、 同順位の競技者が複数いる場合は次の優先順で決定する。

  1. 支持された審判員の人数が大きい競技者が上位
  2. 支持された審判員の席次の合計が小さい競技者が上位
  3. 審判員全員の席次の合計が小さい競技者が上位

この方式は、ある審判員が極端な採点をしても、その採点が順位に及ぼす影響を少なくしている。

例えば、競技者が9名の審判員から1位を2名、2位を4名、3位を3名から得たとき、 支持された審判員の人数、絶対多数の審判員から支持された席次、支持された審判員の席次の合計、審判員全員の席次の合計は、 それぞれ2、6(=2 + 4)、10(=1×2 + 2×4)、19(=1×2 + 2×4 + 3×3)となる。下記の順位表では選手A行の右側の欄に「6/2, 10, 19」と記載している。

 フリースケーティングの順位表(6名の競技者A-F、9名の審判員J1-J9)
   J1  J2  J3  J4  J5  J6  J7  J8  J9               順位 順位点
 A  1   1   2   2   2   2   3   3   3   6/2, 10, 19   2     2.0
 B  2   2   1   1   1   1   1   1   1   7/1,  7, 11   1     1.0
 C  3   3   3   4   4   4   2   2   2   6/3, 15, 27   3     3.0
 D  4   4   4   3   3   3   5   5   6   6/4, 21, 37   4     4.0
 E  5   5   6   6   6   6   4   4   4   5/4, 22, 46  5     5.0
 F  6   6   5   5   5   5   6   6   5   5/5, 25, 49   6     6.0

最終的な順位は、1980年までは各種目の総得点に対する席次から順位を決定していた。 1980年からは順位点が導入され、各種目の順位に応じて順位点を与え、各種目の順位点の合計が少ない競技者が上位とすることによって最終的な順位を決定していた。

ワン・バイ・ワン方式

ワン・バイ・ワン方式では順位を得点の合計を単純に比較するのではなく、それぞれのジャッジがつけた点数をマトリクス化して(相対評価)決定する。具体的には次のような手順である[20]

  1. ジャッジはそれぞれ、自分がつけた「技術点とプレゼンテーションの合計点」によって選手同士を1対1で比較し、
  2. 高い合計点をつけたほうの選手の「支持するジャッジ=JIF(Judge in Favor)」となり、その選手に「PIF(Point in Favor) 2ポイント」を与える。
  3. さらに、「PIFのポイント合計」によって選手同士は1対1で比較され、高いほうの選手に「CP (Comparative Point) 2ポイント」が与える。もしPIFの合計が同じであれば、両者に1ポイントを与える。
  4. CPの合計の高いものから上位の順位となる。

そして、順位に応じて順位点(factored placement scores)を与え、各種目の順位点の合計によって最終的な順位を決定する。 6.0システムは、滑走順の早い選手に高い得点を与えてしまうと、後の滑走者がさらに良い演技をした場合に得点が飽和してしまうため、滑走順が遅い選手ほど高得点が出やすく、滑走順の早い選手には得点を抑えてつける傾向がある。しかし、得点の合計がそのまま順位に連動するものではないので、滑走順による得点の差が試合結果(最終的な順位)に直接影響するわけではない。


  1. ^ Text of Ottavio Cinquanta's Letter to the ISU Council - 一部をext of Ottavio Cinquanta's Letter to the ISU Councilより閲覧可能
  2. ^ Salt Lake fated by Skategate
  3. ^ ISU council votes to scrap skating judging system Archived 2002年2月20日, at the Wayback Machine.
  4. ^ Sports Briefing June 10, 2004
  5. ^ 新採点システム導入を可決 フィギュアで6点満点廃止 2004/06/09【共同通信】
  6. ^ a b ISU Communication No. 2334
  7. ^ ISU Communication No.2089
  8. ^ この規定によって無効要素となるジャンプがコンビネーションもしくはシークエンスに含まれている場合は、該当するジャンプだけが無効となる
  9. ^ 2007-2008シーズンまでは最大12名
  10. ^ ISU Communication No.2253 Single&Pair Skating Scale of Values Season 2019/2020. Replaces ISU Communication 2186.”. 国際スケート連盟. 2019年11月23日閲覧。
  11. ^ 国際スケート連盟コミュニケーション第2015号 Scales of Values, effective July 1st 2016
  12. ^ ISU : Statistics (Updated after each Grand Prix) Archived 2008年8月21日, at the Wayback Machine.
  13. ^ ISU : Statistics (Updated after each Grand Prix) Archived 2008年8月21日, at the Wayback Machine.
  14. ^ Scenes from SahuaritaEntertaining choices for music, comedy, winter sports
  15. ^ "A handbook of figure skating arranged for use on the ice" p.35
  16. ^ 2004年6月9日新採点システム導入を可決、フィギュアで6点満点廃止-47NEWS・共同ニュース2020年7月8日閲覧
  17. ^ 「順位の決定」長野オリンピック1998 スケート・フィギュアスケート 見どころ - JOC
  18. ^ a b フィギュア競技の見方”. 2003年11月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年7月19日閲覧。 2005年山梨国体(フィギュアスケート競技の紹介の中に日本スケート連盟競技規則に基づく旧採点方法の解説あり)
  19. ^ ISU Communication No.980(July 15, 1998) Archived 2008年8月21日, at the Wayback Machine.(旧採点方法のショートプログラムにおける減点に関する項)
  20. ^ ISU Communication No.997(October 30, 1998) Archived 2008年8月30日, at the Wayback Machine.(旧採点方法のマトリクス化と順位算出に関する項)


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