サケ 名称

サケ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/08 13:57 UTC 版)

名称

生鮮魚介類として流通する場合にはシロサケ、アキサケ、アキアジ(アイヌ語の「アキアチップ(秋の魚の意味)」に由来する[2]。)などの名称も用いられる[3]。このほかの別名としてイヌマス、サーモン、メジカ、トキシラズ、岩手県では南部鼻曲り鮭、ブナ(いずれも河川に遡上したものを指す)などがある。トキシラズ(時知らず)は産卵期以外の時期に取れる季節外れの鮭の呼称。産卵のために栄養が疲弊していないのでのものより美味いとも言われる。

上記呼称を含めて地方名も多く、アキザケとアキアジは北海道青森県秋田県、トキシラズとナツザケとラシャマスは北海道で使われる。なお、一部ではシャケとも称される[4]が、シャケとサケの関係については諸説ある。

「サケ」の語源については「サケ類」も参照のこと。

漢字では「鮏」の字が使われていたが、生臭いという意味があったため、明治時代になると「鮭」が使われるようになった[5]。中国で「鮭」はフグを指し、サケという意味は日本での国訓である[6]

生態

遺伝的には地域差より河川毎の差が大きく、同一河川での年級毎(年ごと)の差は小さい。これは、高い母川回帰性のため河川間の交雑が起き難く、回帰個体の年齢にバラツキがあり年ごとの交配が行われていることを意味する[7]

飼育下では標津サーモン科学館淡水でのメスの成熟にも成功し、次世代を得たことがあり、2009年(平成21年)には千歳サケのふるさと館が2例目の淡水でのメス成熟と産卵の成功例となった。また、2012年(平成24年)には富山県立滑川高等学校が国内3例目の成功例となる淡水でのメス成熟と成熟卵の抱卵を確認するなど、生態の研究が進められている。

分布

生息域は北太平洋ベーリング海オホーツク海日本海を含む)と北極海の一部[8]。 日本国内でサケが遡上する川として有名なのは石狩川や、豊平川などである。 日本近海のサケの圧倒的多数は、安定した漁業資源確保のために北海道東北地方を中心に人工的に採卵・放流される孵化場産シロザケが占めている。稚魚の放流が行われず、自然産卵のみのサイクルが維持されている河川も北海道、北陸近畿山陰地方にいくつか存在する。

日本で定常的に遡上が認められる南限の河川は、太平洋側は千葉県九十九里浜に注ぐ栗山川であり、「(サケ)は銚子(ちょうし)に限る」ということわざ語呂合わせから太平洋側の南限は銚子付近といわれる[9]日本海側は島根県江の川の支流濁川で、その他オホーツク海沿岸、北極海の一部、ユーラシア大陸側は朝鮮半島以北の日本海沿岸、ベーリング海沿岸、アメリカ合衆国オレゴン州の河川に遡上・繁殖する。

近縁のカラフトマスとは分布や産卵期が重複し、産卵床の至適条件が似ているため交雑が生じ交雑個体が捕獲されることがある。交雑個体はサケマスと呼ばれ外見は双方の特徴を併せ持っている[10]。産卵床が作られる河床環境は、カラフトマスよりも流速が遅く砂礫質で湧水のある河床が選ばれる[11]。また、サケの稚魚が日中移動するのに対し、カラフトマスは主に夜間移動することが報告されている。

日本でサケとして販売されている輸入品サケ類の一部は、元来は自然分布域ではなかった南アメリカ大陸チリで、日本の国際協力機構(JICA)の支援により養殖されたものがある[12]が、シロザケではなく海面養殖されたニジマスギンザケである[13]

生活史

日本での遡上は高緯度地域ほど早く10月から12月で、北海道・東北地方の川が主であるが、本州中部から西部の日本海側や関東地方の川にも遡上し産卵する。水温8では、60日程度かかって孵化し50日程度で腹部卵嚢の栄養分を吸収し終わると浮上する。浮上時は体長5cm程度でプランクトンを主とした捕食を開始する。浮上後から海水耐性が発達していて、3月から4月頃に日中に群れで移動し降海する[14]

日本系シロザケでは降海した当年魚は北海道沿岸を離れからには千島列島のごく沿岸かオホーツク海[15]水温8℃前後の水域を生活域とし、水温が5℃程度になると北西太平洋の限られた水域[16]に移動し越冬をする。越冬後はアリューシャン列島からベーリング海中部を餌場として表層から100m程度の水深まで分布し、秋には体長37cm程度まで成長する。水温が低下する冬期アラスカ湾を主な生活の場[16]としながら夏はオホーツク海から北部太平洋[17]回遊する生活を成熟まで繰り返す。河川生活期のはえり好みをせず、口に入る大きさのカゲロウトビケラなどの水棲生物を[18]、海洋生活期の餌は、稚魚期には主にウミノミ類、カイアシ類、オキアミ[19][18]、成長するとホッケ類、イワシ類(コヒレハダカ)、他のサケ科魚類の稚魚などと考えられている。なお、成長しても夏はプランクトン、秋はイワシ類と季節で変化しているとの調査報告がある[18]

1-6年の海洋生活で成熟した個体は、母川に向け回帰し産卵活動を行う[20]。南下回帰時のルートは千島列島沿いとされ、1974年の調査では水深 5m から20m 程度の浅いところを泳いでいた[21]。産卵期の成魚の全長は平均で70 - 80cmだが、大きい個体では90cmを超えることもある。なお、成熟速度が著しく高く(早熟)、海洋回遊2年で母川へ回帰するオス成魚は、50cmに満たない。親魚は川を上っている間、餌を食べない。オスはその間に体高が高くなり(背っぱり)、上下の両顎が伸びて曲がる(鼻曲がり)。産卵・放精後の親魚は、1か月以上生きて産卵床を守るメスの個体もあるが、大半は数日以内に寿命が尽きて死ぬ。また、産卵期になると寿命が近く免疫力が低下するため、遡上中のみならず、まだ海中にいるものでも水カビ病に感染し上皮が白く変色することがある。個体によっては一見すると、まるで真っ白な別の魚のように見えることもある。

食物連鎖

河川生活期は摂食可能な水棲生物を[18]、海洋生活期は周囲に生息する餌としやすい生物を利用している[18]。一方、サケ幼稚魚を捕食者としている生物は、汽水域でウグイ、海洋でホッケヒラメおよびカラフトマスが確認され[22]、サクラマスも捕食している可能性が指摘されている[23]。また、海鳥類のウトウウミネコは重要な捕食種と考えられている[22]。更に、河川遡上後のサケはヒグマの主要な食料と認識されているが、ヒグマの栄養源のうちサケが占める割合は北米沿岸部の個体群では栄養源全体の30%以上であるのに対し、知床半島に生息するヒグマでは栄養源全体の5%にすぎなくなっているとされ遡上減による生態系への影響が懸念されている[24]

漁獲

日本系サケと若干のマス類は、先史時代から漁獲の対象であった。

かつて山内清男縄文文化東日本でより高度に発達した理由をサケ・マス資源の豊富さに求める説を唱えた。この説に対し当初は批判が多かったが、その後の発掘調査において東日本各地の貝塚でサケの骨が発見されるにおよび評価されるようになった。なお、平安時代の「延喜式」にも日本海沿岸諸国からの河川遡上魚の献上の記事が載せられている。また、江戸幕府松前藩)によるアイヌ統治時代には、コンブとサケはアイヌ民族から和人への重要交易品目であった。後、サケの回帰性に着目した越後国村上藩(現在の新潟県村上市)の下級武士、青砥武平治は、宝暦13年(1763年)に「種川の制」を敷き、三面川にサケの産卵場所を設置した人工川を設けて、サケの自然増殖に努めた。

日本におけるサケの人工孵化と放流は、1876年(明治9年)茨城県那珂川で試験的に行ったのがはじまりで、1888年(明治21年)に千歳川に中央孵化場が建設され本格化した。回帰率は、北海道沿岸では概ね5%であるが本州太平洋側では3%、本州日本海側では1%程度、回帰数は1997年(平成9年)から2007年(平成19年)までの10年間の平均で年間6270万匹である。

漁法

日本による沖合漁業については、1950年代に発効した国際条約をきっかけに再開され、1970年代に漁獲量がピークを迎えたとされる。その後1990年代には「北太平洋における溯河性魚類の系群の保存のための条約」(1993年発効)により活動海域が日本とロシアの沿岸200海里以内に制限されることになり、2007年(平成19年)度の沿岸漁業での漁獲量は21万トンで、定置漁業権に基づいて行われる定置網での漁獲が90%以上を占め中心となっている。ちなみに、日本全体の定置網漁の38%がサケ・マス類である。なお、北海道の千歳川流域では、産卵のために川に上るサケをインディアン水車により捕獲しているが、これは稚魚の人工孵化を行うための親魚確保が目的であり、一定量の捕獲に限られている。

鮭児

けいじと読む。けんちと呼ばれることもある[25]。知床〜網走付近で11月上旬、中旬に漁獲されるあぶらののった若いサケである。通常のサケと見分ける箇所は幽門垂である。腹を開けて袋の下側についている幽門垂の数を調べることで、その数が220個程度あれば「鮭児」である場合が多い。卵巣精巣が未成熟である。漁獲量は普通のサケ1万匹に対して1 - 2匹程度しかなく、幻のサケといわれている。その身は大変に脂が乗っており(脂肪率が通常のサケの2 - 15%に対し、鮭児は20 - 30%である)、美味である。このため、高級食材として珍重されている。水産庁所轄の独立行政法人水産総合研究センターさけますセンター(現・水産総合研究センター北海道区水産研究所)の調査では、「鮭児」の遺伝子の解析結果より、日本の河川で生まれたものではなく、アムール川系のものであることが判明している[26]




  1. ^ Basic Report: 15079, Fish, salmon, chum, raw Agricultural Research Service , United States Department of Agriculture , National Nutrient Database for Standard Reference , Release 26
  2. ^ 『漢字百話 魚の部 魚・肴・さかな事典』大修館書店、1987年11月1日。ISBN 4-469-23045-6
  3. ^ 魚介類の名称表示等について(別表1)”. 水産庁. 2013年5月29日閲覧。
  4. ^ サケ(シロサケ)/サーモンミュージアムマルハニチロ(2018年1月31日閲覧)
  5. ^ フジテレビトリビア普及委員会『トリビアの泉〜へぇの本〜 1』講談社、2003年。
  6. ^ 沖森卓也ほか『図解 日本の文字』三省堂、2011年、52頁
  7. ^ シロサケ集団におけるIDHおよびLDHアイソザイムの地理的分布 日本水産学会誌 Vol.45 (1979) No.3 P.287-295, doi:10.2331/suisan.45.287
  8. ^ サケ(シロサケ)/サーモンミュージアムマルハニチロ(2018年1月31日閲覧)
  9. ^ 森田 保『千葉県 謎解き散歩』新人物往来社2011年ISBN 978-4-404-04079-4、P245-247
  10. ^ 市村政樹、柳本卓、小林敬典 ほか、北海道東部根室海峡周辺で採集された「サケマス」のDNA 分析による交雑判別 日本水産学会誌 Vol.77 (2011) No.5 P.834-844, doi:10.2331/suisan.77.834
  11. ^ サケとカラフトマスの産卵環境 (PDF) 独立行政法人 水産総合研究センター さけますセンター
  12. ^ チリ水産養殖プロジェクト JICA、2018年1月31日閲覧
  13. ^ 出村雅晴、魚粉価格の動向と養殖漁業への影響 農林中金総合研究所
  14. ^ サケ稚魚の生態調査(5)降海期に於けるサケ稚魚の行動について 北海道さけ・ますふ化場研究報告
  15. ^ 上野康弘、石田行正、日本系シロザケ幼魚の夏季の分布と回遊経路 (PDF) Bulletin of the National Research Institute of Far Seas Fisheries (33), 139-147, 1996-03
  16. ^ a b 浦和茂彦、日本系サケの回遊経路と今後の研究課題 (PDF) さけ・ます資源管理センターニュース, 2000, No.5
  17. ^ 島崎健二, 中山信之, 「北西太平洋における冬季のサケ・マス分布」『北海道大學水産學部研究彙報』 26巻 1号 p.87-98 1975年, 北海道大学水産学部。
  18. ^ a b c d e サケは海で何を食べているのでしょう? (PDF) 水産総合研究センター salmon情報第6号 2012(H24)年3月
  19. ^ 関二郎, 「北海道太平洋沿岸域におけるサケ幼稚魚の摂餌特性と餌料環境に関する研究」『さけます資源管理センター研究報告』 7号 p.1-104 2005年, 水産庁さけ・ます資源管理センター。
  20. ^ シロザケ 北海道立総合研究機構水産研究本部 (PDF)
  21. ^ 南千島、エトロフ島沖合における南下回遊期のシロザケ(アキザケ)の遊泳行動 (PDF) 遠洋水産研究所報告 昭和50年11月
  22. ^ a b 長澤和也、帰山雅秀、「日本沿岸水域における魚類と海鳥類によるサケ幼稚魚の捕食」『北海道さけ・ますふ化場研究報告』 1995, (45), p.41-53
  23. ^ 田子泰彦、「降海期サクラマス幼魚によるサケ稚魚の捕食試験」『富山水試研報』 15号, p.1-10(2004-03)
  24. ^ “知床ヒグマ“サケ離れ” 開発で遡上減響く 栄養源のわずか5% 京大院生ら実態解明”. 北海道新聞 (北海道新聞社). (2014年7月20日). http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/552322.html 
  25. ^ コトバンク鮭児とは[1]
  26. ^ 鮭児(ケイジ)とは
  27. ^ 独立行政法人水産総合研究センター さけますセンー (2007年5月11日). “さけますQ&A”. 2008年4月15日閲覧。
  28. ^ サーモン寿司30周年に際してのご挨拶”. 大日本水産会. 2020年7月19日閲覧。
  29. ^ 「鮭(サケ)」と「サーモン」。呼び方の違いを説明できますか?”. TBS Topics (2019年10月21日). 2020年7月19日閲覧。
  30. ^ プロテオグリカン応用研究プロジェクト弘前大学(2018年1月31日閲覧)
  31. ^ 萱野茂「アイヌ料理」154頁。
  32. ^ a b c サケ 北海道の食文化・サケ”. 国土交通省 北海道開発局. 2019年10月5日閲覧。
  33. ^ 北海道の釣具屋になぜ金属バット? 「サーモンメタルバット」の使い道にネット民が震える - ねとらぼ
  34. ^ 萱野茂「アイヌ料理」159-160頁。
  35. ^ 岩手県のマーク、花、鳥、木、魚などを紹介します。”. 岩手県ホームページ. 2014年7月17日閲覧。
  36. ^ 宮古市の花、木、鳥、魚”. 宮古市ホームページ. 2014年7月18日閲覧。
  37. ^ 高橋嘉夫,「DNAや白子を用いた レアアースの分離・回収:によるメカニズムの解明」 広島大学 研究助成金事業報告書 平成26年
  38. ^ 「サケの白子」でレアアース分離・回収 広島大とアイシン・コスモス研 SankeiBiz 記事:2013.5.18 閲覧:2015.6.18





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