カットソー カットソーの定義の補足

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カットソー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/04 17:05 UTC 版)

カットソーの定義の補足

カットソーの対象となる衣服の範囲には、日本の関係者には様々な意見がある。場合によっては、「ちょっとオシャレなデザインのニットシャツ」という、あいまいな意味でも使われる[13]。 用語・用法の「あいまいさ」や「ぶれ」は、今後、概念のシンプルさ、もたらしうる価値、マーケットの認知、業界慣習、英語の原義との距離感などに影響を受けながら、次第に収束していくと考えられる。(その場合でも、他の意見が単なる「異説」というよりは、カットソーの発展を語る上で欠かすことのできない、歴史的に重要な見解であり続けることに、変わりはないであろう。)

また、最近注目度が上がっている「ジャージー素材」のアウターウェアについても、一般の消費者には紛らわしい点があるので、補足する

カットソーで用いられる生地の範囲

カットソーの定義の意見の差は、「おしゃれさ」の度合いよりも、用いられる生地の範囲にあることが多い。下記に典型的な立場を列挙した。(下にいくほど、限定が厳しくなる。)

a) 布全般: 編物の流し編みに加えて、布帛全般をも対象に含めて、それらの生地を裁断・縫製すること(英語の原義では、衣服そのものではなく、製造プロセスをさす。日本では通常この意味では用いられない。)
b) 編物全般; よこ編み(緯編み)に加えてたて編み(経編み)も含めた編物全般の流し編み生地から裁断・縫製して作られた衣服[注釈 1] (布帛生地のものは除外)
c) 丸編み全般: よこ編みの丸編み生地に限定 (たて編み生地のものは除外)
d) 平編みの丸編み: 平編(天竺メリヤス)の丸編みに限定し (フライス・スムースなど他の丸編み編地は除外)
e) 開反した丸編み: 上記 c) d) で、さらに丸編み生地を開反した後に加工した衣服に限定 (開反しないで加工したものは除外)

語源ともいえる米国では、もっとも広い a) の意味での利用が一般的である[14][15] が、 日本ではより限られた意味に使うことがほとんどである。

生地の範囲でいうと、編物は、よこ編み(緯編み)とたて編み(経編み)に大別される[16]。特によこ編みの流し編み製造法として、らせん状に編む丸編み[17] が主流であり、筒状に編み立てたものを切り開いて平面的な生地とし(これを開反という)、それを裁断・縫製して衣服とすることが多い。

カットソーで使う生地の対象として、定義 b) では、編物生地全般を含み、c) では、丸編み、そして d) では、そのうちの平編のものだけとする。(よこ編み生地には、 平編に加えて、フライスリブスムースなどの種類がある。一方、たて編み生地には、トリコットラッセルなどがある[18]。)

また、e) の立場だと、「カット」の意味を流し編み生地の裁断加工ではなく、丸編み生地の開反作業に限定している[19]。この立場の場合、丸編みの筒状の生地を開反することなく身頃に利用し、袖を縫い付け、首周り・裾を処理したTシャツは、カットソーの範疇に入らないことになる。


カットソー・Tシャツとして販売されていても、丸編み生地が常に利用されているとは限らない。衣服に高い機能性や「おしゃれさ」を求める場合、生地として他の選択肢が必要となることが多い。

たとえば、保温性が高いサーマルTシャツでは、しばしばワッフル地とハニカム地の生地が利用される[20]。このうち、ワッフル地は、よこ編みの一種であるが、ハニカム地は、たて編みのラッセル[21]である。したがって、上記 b) の立場だと両方がカットソーになるが、c) だとワッフル地のもののみが該当し、d) の立場だといずれもカットソーではなくなる。

「おしゃれさ」を追求する場合も、使える生地の多様性が求められる。たとえば、主に女性用衣料として、繊細ないしセクシーなテイストのカットソー(特に、ベアトップ、キャミソール、チュニックなど)では、別のインナーで透けを防止する重ね着スタイルでの着用を念頭に、トリコットラッセルチュール、パワーネットなど、丸編み以外のニット素材を用いて、肌合いの柔らかさ、透け感、光沢、華やかさ、しなやかさ、フィット感などを演出することがある。

実際、高機能なたて編み生地のアウターへの導入は急激に進んでいる。たとえば、あるトリコット生地製造メーカーは、伸縮性の高い独自のトリコット生地に特徴があり、糸を購入して製造する自社製品販売のうち、約70%が婦人アウター向けで、下着など他用途向けを大きく上回っている[22]

ただ、生地や仕立て方がカットソーと同様であっても、ショーツペチコートスパッツなどの下着は、カットソーとは呼ばない。一方、キャミソールのように、下着とインナーの両方の側面がある衣類は、インナーの視点からの商品説明として、カットソーと呼ばれる。

「ジャージー素材」のアウターウェア

最近、「ジャージー素材」のアウターウェア、と説明するカットソーの衣服が増えている。 非常に紛らわしいことだが、ジャージー素材という用語を、 本来の意味である「ジャージー編の生地」とみるか、それとも、より広い範囲の素材とみるかで、意味が大きく異なる。

ジャージー編(Jersey Stitch)とは、平編の別名である。 一方、高い機能性と快適さを求める現在のスポーツウェアのジャージでは、このジャージー編は、ほとんど利用されていない [23]

歴史的には、ジャージー素材とは、平編のみならず、「丸編機で編まれたよこ編み生地全般」をさしていた。現在は、衣料としてのジャージーの高機能化・多様化の影響もあり、ジャージー素材として、肌着用生地を除き、よこ編み生地に加えてたて編み生地も含む「流し編地全般」をさす使い方が広がっている [24]

「ジャージー素材」のアウターウェアは、多くの場合、広範囲の素材や編み方を含む後者の意味で、この言葉を用いる。 たとえば生地として、両面編 の モックロディや、ウール混紡のラッセルなど、張りや「しっかり感」のある、 アウターに適した、ジャージー編以外の生地が用いられている。


注釈

  1. ^ ミリタリーの流れをくむカットソーには、ラッセル編みが多い。たとえば、orcival ボーダーカットソーなど

出典

  1. ^ 東京ニットファッション工業組合 モノづくりの流れ [1]
  2. ^ Fashion Data Bank 企業カテゴリ [2]
  3. ^ 独自の研究開発で新境地開く 進化する北陸ニット産地. 繊維月報 Vol.613 (2011.5) [3]
  4. ^ 財団法人富山県新世紀産業機構 「高密度・高伸縮性を併せ持つニッティング技術と ナノテク融合による複合高機能性繊維用品の開発」 (2013.3) [4]
  5. ^ 丸編とトリコットの特徴を併せ持つ生地ができる編機「バランサ」, 繊維製造業 挑戦の軌跡,pp.104-105 平成19年度中小繊維製造事業者自立事業事例集」(SHIN-ZUI) 中小企業基盤整備機構, 2008 [5]
  6. ^ 吊機って何?, カネキチ工業 [6]
  7. ^ 04 吊り編み職人, 21世紀の「仕事!」論, ほぼ日刊イトイ新聞, (2011.4) [7]
  8. ^ クールな日本のあたたかなスウェットシャツ, 日経ビジネスオンライン (2008.11) [8]
  9. ^ 抄繊糸, ファッション用語集◆1000◆ [9]
  10. ^ 抄繊糸の表示の仕方について, 繊維検査協会 (2014.3) [10]
  11. ^ mastermind feat. A-GIRL'S 2015-16 Autumn Winter, Fashionsnap.com Collection (2015.7) [11]
  12. ^ 崔 裕眞 島精機製作所 ニット製品の最先端生産方式開発の技術経営史 [12] (2012.7)
  13. ^ ニットとカットソーの違いはなんですか・・・, ニッセンケン分室「思いつきラボ」 No.11 [13] (2014.2)
  14. ^ siccode.com NAICS (北米産業分類システム) Code 3152 Cut and Sew Apparel Manufacturing,[14]
  15. ^ Congressional Research Service: U.S. Textile Manufacturing and the Trans-Pacific Partnership Negotiations [15] (2014.8)
  16. ^ 繊維業界検索 ニットの知識 [16]
  17. ^ 第2部第4章 ニットの編成と編地, ニットアパレル I ニットの基礎知識, pp.97-118, 繊維産業構造改善事業協会 (1995.3) [17]
  18. ^ 繊維業界検索 編物・ニットの種類 [18]
  19. ^ 日本経済新聞 ことばオンライン Tシャツ・ドレス… みんな「カットソー」?[19]
  20. ^ magnetsco よ~く知りたい!サーマルて、本当はどう言うアイテム!? [20]
  21. ^ 旭化成 3次元立体編物「フュージョン 」[21]
  22. ^ 独立行政法人中小企業基盤整備機構 「ニット産地技術力強化調査」報告書  p.73 [22] (2008.2)
  23. ^ “ジャージ”って体操服のことじゃないの?・・・, ニッセンケン分室「思いつきラボ」 No.27 [23] (2014.10)
  24. ^ 1.5.2 編地の形態 (1) 流し編地(ヤードグッズ), 「ニットアパレル1」 ニットの基礎知識,繊維産業構造改善事業協会 (1995.3) 第二部 ニットアパレル製品、第1章ニットの概要 [24]


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