水晶振動子マイクロバランス
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水晶振動子マイクロバランス(すいしょうしんどうしマイクロバランス、quartz crystal microbalance: QCM 、または quartz microbalance: QMB、quartz crystal nanobalance: QCN)は、水晶振動子の周波数変化を測定することで、単位面積当たりの質量変動を測定する装置である。振動子表面での酸化物の増減や薄膜の堆積により質量が微小に増減すると、振動子の周波数が変化する。QCMは真空下、気相中(「ガスセンサー」としてKingが初の使用を報告[1])、最近では液体環境でも使用される。真空中の薄膜堆積システムでは堆積速度のモニタリングに使用できる。液体中では、分子(特にタンパク質)と、その分子を認識できる官能基を付加した表面との間に起こる親和性の強さを効果的に測定できる。ウイルスや高分子などの大きな分子体の研究にも使用される。QCMは生体分子間の相互作用研究にも使用されている。周波数は高精度で測定できるため、1 μg/cm2未満の質量密度も容易に測定できる。周波数そのものの測定に加え、振動子の周波数変化の幅に相当する散逸率を測定して解析に用いることもある。散逸率は、振動のQ値の逆数であり、Q-1 = ω/frである。これは系の振動減衰を定量化するものであり、試料の粘弾性特性と関連する。
概要
適切な形状の水晶振動子は交流の電流を印加すると厚みすべり振動(Thickness-shear-mode resonator)により、一定の周波数で振動する[2]。この周波数は水晶の厚みに依存し、薄いほど高周波数で発振する。1950年代に水晶振動子の電極上の物質の質量に応じてその周波数とQ値が変化する事象が報告された。水晶表面への物質堆積により厚みが僅かに増大した結果、振動数が初期値から減少するためである。いくつかの単純化した仮定を用いれば、この振動数の変化を定量化し、Sauerbrey方程式を用いて質量変化と正確に相関させることができる[3]。この水晶振動子の周波数変化を検出することにより、電極上での物質の質量変化を計測する方法を水晶振動子マイクロバランス法(QCM法)と呼ぶ[2][4][5]。
Sauerbreyの方程式
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インピーダンス解析にもとづく電気伝導曲線。測定の中心となるパラメータは、共振周波数fresと帯域幅wである。 リングダウンはtime-domain測定で同等の情報を与える。散逸率DはQ-1に等しい。 エネルギーの閉じ込め
水晶の縁に接触する水晶ホルダーによる振動エネルギーの散逸(振動の減衰)を避けるため、振動は水晶板小片の中心に閉じ込める必要がある(エネルギー・トラップ)。
高周波数(10MHz以上)の水晶の場合、水晶の前面と背面の電極は通常鍵穴様の形状となっており、それによって共振器は縁よりも中央の方が厚くなる。電極の質量により、変位磁場が水晶ディスクの中心に閉じ込められる[33]。振動周波数が5、6 MHz付近のQCM水晶は通常、平凸形状をしている。したがって、どちらの場合も、厚み-せん断振動の振幅は円盤の中心で最大となる。このことは、質量感度も中心でピークに達し、この感度は縁に向かって滑らかにゼロに減少することを意味する(高周波水晶の場合、振幅は小さい方の電極の外周のやや外側で消失する[34])。したがって、質量感度は水晶表面全体で非常に不均一であり、この不均一性は金属電極の質量分布(または非平面共振器の場合は水晶の厚さ自体)の関数となる。
表面弾性波は本来平面波であるが、エネルギーの閉じ込めによってわずかに歪むことになる。この平面的な厚み-せん断モードからの逸脱によって、変位パターンは屈曲寄与を伴うことになる。結晶を真空中で使用しない場合、この屈曲波は隣接する媒質に圧縮波を放出する。そして結晶と測定容器の壁(または液面)の間の液体中に定在圧縮波が形成され、この波が水晶振動子の周波数と減衰の両方を変化させる効果を及ぼす。
倍音
平面共振器は、一般に、結晶面に平行な節面の数で示される数の倍音で動作させることができる。奇数倍音のみを電気的に励起することができるのは、これらの倍音のみが2つの結晶表面で逆符号の電荷を誘起するからである。倍音は、共振器の平面に垂直な節面を持つ非調和サイドバンド(スプリアスモード)と区別される。理論と実験が最もよく一致するのは、光学的に研磨された平面結晶で、n=5からn=13の間の倍音次数である。低次倍音ではエネルギー捕捉が不十分であり、高次倍音では非調和的なサイドバンドが主共振を妨害する。
振幅
横方向の変位の振幅がナノメートルを超えることはほとんどない。より具体的には、変位は以下の式で記述される。
Butterworth-Van Dyke(BvD)等価回路. C0 は電極間の電気(並列)容量. L1は運動インダクタンス(質量に比例). C1C1は運動容量(剛性に反比例). R1は運動抵抗(散逸損失を定量化). Aは水晶の有効面積. ZLは負荷インピーダンス. 右の図はButterworth-Van Dyke(BvD)等価回路である。水晶の音響特性は、運動インダクタンスL1、運動キャパシタンスC1、運動抵抗R1で表される。ZLは負荷インピーダンスである。負荷インピーダンスZLは、一度の測定で求めることは出来なず、負荷がかかった状態と負荷がかかっていない状態との比較から算出される。この回路は「4要素ネットワーク(four element network)」とも呼ばれる。L1, C1, R1の値は(ZLが明示的に含まれていない限り)負荷の存在下で変化する。
小負荷近似
BvD回路は共振パラメータを予測する。周波数シフトが周波数そのものよりもはるかに小さい限り、以下の単純な関係が成り立つことを示すことができる(小負荷近似)。[8]
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