悪は存在しない(映画)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/31 23:04 UTC 版)
![]() | この記事と重複する内容の悪は存在しない (映画)に削除依頼が出ています。編集を進める前にWikipedia:削除依頼/悪は存在しない (映画)を確認し議論に参加してください。 |
『悪は存在しない』は、濱口竜介監督による2023年製作の日本映画。同年のヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(審査員賞)を受賞した作品で[1]、この受賞によって濱口監督は、アメリカのアカデミー賞と世界三大国際映画祭のすべてで主要賞の受賞を果たした黒澤明以来2人目の日本人監督となった。106分。
あらすじ
山奥の小さな集落「水挽町」で暮らす寡黙な男・巧(大美賀均)と、その一人娘・玲花(西川玲)。集落の人々は美しい森と澄んだ雪解け水に支えられて静かな暮らしを守ってきた。ある日、そこへキャンプ場建設の話がもちこまれる。キャンプ場は東京から多くの観光客を呼び込むかもしれないが、そこに置かれる浄化槽は、集落が誇りとする自然水を汚染するだろう。そしてこれはコロナ助成金目当てのずさんな計画らしい。ざわめきはじめる集落の人々。
住民説明会へやってきた事業側の男女(小坂竜士・渋谷采郁)に、集落の人々は理を尽くして反論する。この集落はもともと都会からの移住者ばかりだし、ここへ新たに加わりたいときちんと考えた計画なら反対する理由はなにもない。しかしその前に、この土地の人にとって自然水がどんな意味をもつのか、そこで暮らすことがどんな責任を負うことなのか、どうか一度よく考えてほしい。集落の人々のおだやかな姿勢に、事業側の男女は「地元の人は決して愚かではない」と態度を改め、計画のいいかげんさに気づくようになる。
しかし親会社は、コロナ助成金の申請期限が迫っているし、ガス抜きの説明会が済んだ以上、予定どおりキャンプ場設置をすすめればよいと方針を曲げない。説明会に出た男女は板ばさみとなって困惑し、集落から信頼を得ているらしい巧に協力をあおぐことを思いつく。そしてふたたび集落を訪ねるうち、森と山の自然が人間にとって善でも悪でもなく、ただ人間の世界とは別にそこに並立している存在だとかすかに気づき始める。そんな中、巧の娘・玲花の様子がしだいに変わりはじめる。
評価

この作品はヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞したのち、多くの映画祭に招聘される。
とくに2021年に『ドライブ・マイ・カー』がアメリカで高評価をよぶきっかけとなったニューヨーク映画祭は、『悪は存在しない』を「予測のつかない映画的体験をもたらす」と評して、ふたたび主要紹介作品のひとつに選び出した[3]。
イギリスの『ガーディアン』紙や、アメリカの 『IndieWire』誌は、都会と自然の対立という昔ながらの問題に安易な解決をゆるさない脚本と、濱口独特の不気味な物語技法があいまってつよい印象を残す、などと評した[4][5]。
また英国映画協会は、『ドライブ・マイ・カー』につづく本作で濱口は現代のもっとも偉大な演出者のひとりであることをふたたび証明したと指摘[6]。『ハリウッド・レポーター』誌や『バラエティ』誌も本作に描かれた自然と人間の関係に注目し、それをきわめて繊細・優雅に表現したところに濱口の独自性とすぐれた手腕が示されていると評した[7][8]。
受賞
- ヴェネツィア国際映画祭(2023年) - 銀獅子賞(審査員大賞)、国際批評家連盟賞
- サン・セバスチャン国際映画祭(2023年) - Lurraグリーンピース賞
- BFIロンドン映画祭(2023年)- 作品賞[9]
製作の背景
この映画は、濱口の前作『ドライブ・マイ・カー』で作曲をつとめた石橋英子の依頼から始まっている。石橋は『GIFT』と題する自身のライブ・パフォーマンスのための映像制作を濱口に依頼[10][1]。しかし濱口はそうした制作の経験がなく、石橋との協議をかさねるうち、抽象的なイメージ映像のようなものではなく、明確な物語映像を希望していることがわかり、しだいに物語が膨らみ始めたという[11]。
濱口は石橋の仕事場に近い八ヶ岳をたびたび訪れ、この映画の撮影も多くはそこで行われた。また濱口は集落の人々から森や動物たちについての実践的な知識を数多く習得し、それは劇中に盛り込まれている[11]。また映画に登場する開発計画も、一部は実際に八ヶ岳周辺で説明会が行われた計画からアイデアをとっているという[11]。
キャスト/スタッフ
- 巧:大美賀均
- 西川玲花:西川玲
- 高橋:小坂竜士
- 黛:渋谷采郁
- 梅村:菊池葉月
- プロデューサー:高田聡
- 脚本:濱口竜介
- 撮影:北川喜雄
- 編集:濱口竜介・山崎梓
- 録音:松野泉
- 音楽:石橋英子
関連項目
脚注
- ^ a b “Biennale Cinema 2023 | Aku wa sonzai shinai (Evil Does Not Exist)” (英語). La Biennale di Venezia (2023年7月6日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ “諏訪地域で撮影された映画『悪は存在しない』の第80回ベネチア国際映画祭「銀獅子賞」受賞を祝し、阿部知事からお祝いのメッセージをお贈りしました/長野県”. www.pref.nagano.lg.jp. 2023年10月15日閲覧。
- ^ “Evil Does Not Exist” (英語). Film at Lincoln Center. 2023年10月12日閲覧。
- ^ Bradshaw, Peter (2023年9月4日). “Evil Does Not Exist review – Ryu Hamaguchi’s enigmatic eco-parable eschews easy explanation” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077 2023年10月12日閲覧。
- ^ Lattanzio, Ryan (2023年9月5日). “‘Evil Does Not Exist’ Review: Ryûsuke Hamaguchi Retreats Post-‘Drive My Car’ Oscars Marathon Into an Eerie Eco-Poem” (英語). IndieWire. 2023年10月12日閲覧。
- ^ “Evil Does Not Exist review: a beguiling eco-drama” (英語). BFI. 2023年10月13日閲覧。
- ^ Kiang, Jessica (2023年9月4日). “‘Evil Does Not Exist’ Review: Ryusuke Hamaguchi’s Tale of Rural Gentrification Is a Tone Poem with an Atonal End” (英語). Variety. 2023年10月13日閲覧。
- ^ Rooney, David (2023年9月4日). “‘Evil Does Not Exist’ Review: Ryusuke Hamaguchi Follows ‘Drive My Car’ With an Unsettling Reflection on Man and Nature” (英語). The Hollywood Reporter. 2023年10月13日閲覧。
- ^ “Award winners announced at 67th BFI London Film Festival” (英語). BFI. 2023年10月15日閲覧。
- ^ “Gift, new film by 'Drive My Car' director Ryûsuke Hamaguchi, to world premiere at FFG with Eiko Ishibashi performing a…” (英語). World Soundtrack Awards. 2023年10月12日閲覧。
- ^ a b c (日本語) Ryûsuke Hamaguchi on Evil Does Not Exist | NYFF61 2023年10月12日閲覧。
- 悪は存在しない(映画)のページへのリンク