船橋市西図書館蔵書破棄事件 その後の出来事

船橋市西図書館蔵書破棄事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/04 13:42 UTC 版)

その後の出来事

事件後のA

Aは事件発覚後転属となり、教育委員会に配属された。2002年(平成14年)、Aは、事件後初の発刊として「ぬい針だんなとまち針おくさん」の韓国語版を発売した[30]。また2004年(平成16年)の児童向け雑誌「おおきなポケット : 10のはこ 2004年5月号」に著者の1人として名を連ねた[31]。2005年(平成17年)には、JBBY(社団法人日本国際児童図書評議会)で理事に就任している(任期:2005年5月 - 2007年5月)。2008年(平成20年)、Aは事件後初となる新規執筆書籍として、絵本『ててちゃん』(福音館書店)を公表して絵本作家としての活動を再開したが[32]、ネット書店等の評価欄には本事件に関する賛否両論のコメントが並んだ[32]。その後の執筆は確認できない。

船橋市の賠償金請求

2006年(平成18年)8月9日、船橋市は国家賠償法第1条2項に基づき、Aに対して市が負担した賠償金全額の2万4000円の請求を行い、即日納付されたと発表した(納付日は7月26日)[19]

Aに対する日本図書館協会の釈明要求

日本図書館協会は、2006年(平成14年)10月27日高裁での差戻裁判での判決確定を受けて、会員であったAに対して説明と釈明をするように求めたが、2006年11月2日にAより日本図書館協会を退会する申し出があったのみであった[19]。日本図書館協会は退会の申し出を保留として、改めてAに対して判決で事実認定された下記4点について「誠意を持って協会に説明するよう」に要望した[19]

  1. Aは「新しい歴史教科書をつくる会」会員らの著作を、集中的に除籍・廃棄したことについて、東京地方裁判所は、船橋市が事件の発覚直後に図書館職員に行った事情聴取記録を証拠として採用し、「本件除籍等は、原告つくる会らを嫌悪していた被告が単独で行ったものと認めるのが相当」であり、「周到な準備をした上で計画的に実行された行為である」とAの関与の事実を認定し、この事実認定は最高裁判決と確定判決に引き継がれた。この行為は、「図書館の自由に関する宣言」の前文、第1(資料収集の自由)の1項、2項、第2(資料提供の自由)の1項、2項に反し、また、「宣言」が示す図書館の社会的責任を自覚し、職責を遂行していくための自律的規範である「図書館員の倫理綱領」第1(図書館員の基本的態度)、第4(資料に関する責任)に反する。
  2. この行為は、図書館界全体の信頼を低下させ、また、図書館員の社会的地位の向上と図書館事業の進歩発展を図る日本図書館協会の活動を阻害するものである。
  3. 日本図書館協会図書館の自由委員会が、上記裁判が提起される前に行った面会調査において、A氏は除籍した記憶はないこと、また除籍はパソコンの操作ミスである可能性が高いことを強調した。しかし判決は「本件除籍等は、決して一時の偶発的な行為ではなく、周到な準備をした上で計画的に実行された行為であることは明らかであり、単にパソコンの操作ミスなどで誤って除籍されたものではない」と事実を認定している。
  4. Aは日図協の長期にわたる会員でありながら、総会決議文書「図書館の自由に関する宣言」と同「図書館員の倫理綱領」に反し、裁判所が違法と認定するまでに甚だしく逸脱した行為を犯した。日本図書館協会の社会的評価と信頼を低下させたものと言わざるを得ない。

2007年(平成15年)2月6日に、Aの代理人の弁護士2名の連署で上記文書に対する回答書が日図協理事長へ配達された[19]。Aは裁判所での事実認定について否定するとともに[19]、自身の権利と利益が侵害される恐れがあるとしてこの回答書を一般公開しないように求めた[19]

図書館運用規定の改善

事件の反省を踏まえて、船橋市では蔵書の除籍に関しての規約と運用を改めた[7]。除籍は複数人で判断するようにされ、図書館長の決裁を受けてから廃棄を決定されるようになった[7]。また廃棄はただちに実行されず、その後共同書庫に一時保管され他の図書館長との合同会議での承認を得てから廃棄されるようになった[7]


注釈

  1. ^ 廃棄された本のリストは、「正論」の平成14年6月号に掲載されている。なお、この「正論」の紙面を元に再構成した資料が、「ず・ぼん」2005年(平成17年)11月号に掲載され、こちらで公開されている
  2. ^ 2018年(平成30年)現在でもこのAの本は、船橋市図書館全体で19冊蔵書されているが、問題が起きた船橋市西図書館では1冊のみが残されている。2018年(平成30年)2月1日蔵書確認
  3. ^ 2018年現在でもこのAの翻訳本は、船橋市図書館全体で29冊も蔵書されている。2018年2月1日蔵書確認
  4. ^ 一方でAが図書館を離れた後の著書については1冊も収蔵されていない 2018年2月1日蔵書確認
  5. ^ 服部公一 「作曲入門」 私の創作現場から 講談社 現代新書 ISBN 978-4061456822 問題を指摘された報道ののちに再購入されている。2018年2月1日蔵書確認
  6. ^ この担当者がAであるかどうかは出典では明示されていない
  7. ^ 6か月にわたり給与の10%をカットするという意味
  8. ^ 坂本多加雄は一連の裁判の途中で故人となったために原告を8人ではなく7人とする出典もある
  9. ^ 東京地方裁判所は、Aが公衆の面前で原告らの本を積み上げて火を放つなどの方法で著書を処分していれば、公然性の高い行為なので原告らとAの関係においても違法性を問うことが出来るとも説明している
  10. ^ 適切な公費出費であったかというのは別の問題であるとしている

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 平成14年第2回船橋市議会定例会会議録(第4号・3)
  2. ^ a b 産経新聞(千葉版)2012年(平成14年)4月21日 船橋市西図書館大量廃棄 全容解明どこまで
  3. ^ a b c d e 【視点】船橋焚書事件 最高裁が初判断 図書館の公共性強調 産経新聞 2005年(平成17年)7月14日 大阪夕刊 14頁 第2社会 (全533字)
  4. ^ a b c d e f g h i j k 船橋焚書事件 「つくる会」逆転勝訴 最高裁差し戻し 独断廃棄は利益侵害 産経新聞 2005年7年14日 大阪夕刊 1頁 総合1面 (全1,124字)
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m 損害賠償請求事件 最高裁判所第一小法廷平成16年(受)第930号 平成17年7月14日判決 判決文
  6. ^ a b c d e f g h i 図書館問題研究会常任委員会 「船橋市西図書館の蔵書廃棄問題について(見解)」2002年5月28日 2018年1月30日閲覧
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 船橋西図書館の蔵書廃棄事件を考える」『ず・ぼん』2005年11月号、ポット出版。 
  8. ^ 国立図書館著者情報および著書での本人紹介文より
  9. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag 平成15年9月9日判決言渡 平成14年(ワ)第17648号 損害賠償請求事件 東京地方裁判所 判決文
  10. ^ 読書/“小さな生命”たちの瞳輝く21世紀へ/「子ども読書セミナー」開催/浜四津代行、講師の土橋さんら/読み聞かせの大切さ訴え/党プロジェクトチーム 2000年(平成12年)4月25日 公明新聞 2頁 (全885字)
  11. ^ a b 著書の筆者紹介文の内容より
  12. ^ 国立国会図書館サーチ参照(URLは敢えて示さない)
  13. ^ 読んで聞かせ、心の会話を A・図書館司書 朝日新聞 1989.06.28 東京朝刊 19頁 1家庭
  14. ^ 子どもに読書の楽しさ伝えよう/党子ども読書運動プロジェクトチーム この1年の取り組みから/多彩な活動に広がる共感の輪 2001.03.09 公明新聞 3頁 (全2,641字)
  15. ^ ウイメンズナウ/“女性の時代”へ大きく前進/頑張りましたこの一年 活動ピックアップ 2000.12.28 公明新聞 6頁 (全2,046字)
  16. ^ 図書館司書/Aさんの講演から/子どもに読書の楽しさを/本は成長の糧に、読み聞かせで出会いつくって 2000.05.02 公明新聞 4頁 (全2,154字)
  17. ^ a b (声)図書館の本を廃棄した心は 朝日新聞 2005.07.18 東京朝刊 6頁 オピニオン2 (全473字)
  18. ^ 『草原に雨は降る』(子どもの本だな) 1989.04.25 朝日新聞 東京朝刊 17頁 1家 写図有 (全1,575字)から 「出合い狭める対象年齢の表記」(子どもの本だな) 1991.04.03 朝日新聞 東京朝刊 19頁 1家 写図有 (全2,906字)まで
  19. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab 山家篤夫「船橋市西図書館の蔵書廃棄事件について(対応報告)」社団法人日本図書館協会図書館の自由委員会委員長 2007年5月20日 2018年1月30日閲覧
  20. ^ 西部、渡部両氏の著書68冊 市立図書館が廃棄 産経新聞 2002年4月12日
  21. ^ 2002年(平成14年)4月同図書館検索サービスで蔵書確認
  22. ^ a b 船橋市西図書館 実用書7日で除籍 産経新聞(千葉版)2002年(平成14年)5月6日
  23. ^ 産経新聞 2012年5月11日 船橋市西図書館大量廃棄 「女性司書の独断」 船橋市西図書館大量廃棄 「女性司書の独断」市が調査報告 明確な理由はなし
  24. ^ 船橋市西図書館著書廃棄 刑事告発を市長に要請 産経新聞(千葉版) 平成14年6月4日
  25. ^ 『焚書坑儒のすすめ エコノミストの恣意を思惟して』ミネルヴァ書房、2009年11月。ISBN 978-4-623-05621-7 
  26. ^ SAPIO 2002年(平成14年)5月22日号
  27. ^ ず・ぼん11 タイトル一覧
  28. ^ 小泉内閣メールマガジン 第46号(2002年5月16日付)編集後記
  29. ^ 船橋市西図書館の大量廃棄 抗議集会に市民80人 産経新聞(千葉版) 2002年4月21日
  30. ^ 国会図書館サーチ @韓国・朝鮮語の本−2437 2018年1月31日閲覧
  31. ^ 国会図書館サーチ おおきなポケット 2004年5月号 2018年(平成30年)1月31日閲覧
  32. ^ a b ててちゃん―おやこで あそぼう わらべうた (幼児絵本シリーズ) 福音館書店 ISBN 978-4834023374
  33. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 丹治則男『ジャーナリズムの課題』DTP出版 2007年 ISBN 978-4862110459
  34. ^ (社説)蔵書廃棄 自由の番人でいる重さ 朝日新聞 2005年(平成14年)7月15日 東京朝刊 3頁 3総合 (全1,086字)






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