精通 日本の統計における精通年齢の早期化と遅延

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精通

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/06 03:34 UTC 版)

日本の統計における精通年齢の早期化と遅延

日本において、精通を迎える年代の思春期の少年に関する統計調査は、全国の児童・生徒を対象に日本性教育協会が6年に一度行っている「『若者の性』白書」と、東京都内の学校に通う児童・生徒を対象に東京都幼・小・中・高・心性教育研究会が3年に一度行っている「児童・生徒の性に関する調査」が知られている。

どちらの調査においても、概ね2000年までは性的成熟の早期化と精通年齢の低年齢化を示していたが、2000年以降の調査では逆に遅延の傾向を示している。

以下、児童・生徒への調査に関しては、学習指導要領上、当該学年では使用しない用語について言い換えが行われている(セックス・性交→性的接触、射精→精液が出ること、等)。

精通年齢と射精経験率

精通年齢は戦後、身体的発育の早期化、いわゆる早熟化に伴って早まったが、1970年生まれより最近は延慢化している。特に15歳の射精経験率は1999年調査の74.6%(およそ4人に3人)から2011年には51%(半数)へと短期間で急激な低下をみせている。神戸市立西市民病院小児科の額田成、江口純治の調査でも、1950年代、1960年代生まれの約36%が小学生のうちに精通を経験しているのに対し、1970年代生まれでは約31%へと低下しており、平均精通年齢も遅延する傾向である[8]。女子の初潮年齢には大きな変化がないことから、額田、江口はその原因について、女性ホルモンと同様の作用を起こす内分泌攪乱物質(環境ホルモン)が影響している可能性を指摘している。

男子の精通の出生年代別推移[8]
出生年代 1940年代 1950年代 1960年代 1970年代
平均精通年齢 13.19±1.4歳 12.72±1.35歳 12.68±1.14歳 12.84±1.11歳
小学生で精通 23.08% 36.47% 36.49% 31.49%

[8]の表を引用。「中学以降精通」の数値については100%から「小学生で精通」を引いた残りであるため割愛。


日本性教育協会が6年に一度行っているアンケート調査の結果では比較的後の年代まで早熟化の傾向がみられ、1999年調査までは各学校種別における射精経験率が年々高まる傾向(早期化の傾向)を示しており、特に1999年の調査では中学生(1年生から3年生の在籍者)における射精経験者数は半数を超えるに至ったが、こちらの調査結果でも2005年、2011年に行われた調査では遅延化の傾向を示しており、2011年調査における中学校在籍者の射精経験者は全体のおよそ1/3と、1987年調査時の水準に戻っている。

射精経験率の推移[9][10][11][12]
0
50
100
(%)
経験率
大学生
高校生
中学生
1987
92.0
83.8
37.8
1993
91.5
86.0
46.7
1999
97.2
88.6
52.9
2005
97.2
86.6
44.4
2011
96.8
82.8
36.2
2017
94.1
84.1
37.2

(設問「あなたは、いままでに、射精(精液が出ること)を経験したことがありますか」に「はい」と回答した者の学校種別割合。調査対象に中学生を追加した1987年(第3回)調査以降の数値。)

同じ調査の結果を回答者の年齢別に集計したものでは、1999年調査の14歳の射精経験率が6割に達するのに比べ、2005年調査では13歳から15歳までの各年齢で1999年の経験率と比べ1割程度低下しており、6割を超える年齢、9割を超える年齢とも、1999年調査より1歳遅い15歳、18歳と遅延の傾向を示している。

2011年調査をみても、13歳の経験率が前回調査と同等水準であったほかは、12歳でおよそ5ポイント低く、それまで射精経験者が急激に増加していた14歳においても伸びが鈍く、前回調査比マイナス15ポイントと大きく下回っている。15歳でもおよそ10ポイント低い経験率を、16歳以降(高校生)で挽回する晩熟化の傾向がさらに強くなっている。

射精経験者の年齢別割合
年齢 12歳 13歳 14歳 15歳 16歳 17歳 18歳 19歳 20歳 21歳
1999年[9] 21.8% 39.6% 60.0% 74.6% 82.9% 92.1% 93.7% 89.3% 100.0% 99.2%
2005年[10] 24.6% 29.4% 52.2% 61.6% 80.0% 88.7% 94.2% 96.1% 95.6% 97.9%
2011年[11] 19% 30% 36% 51% 78% 88% 90%

(設問「あなたは、いままでに、射精を経験したことがありますか」に「はい」と回答した者の年齢別割合)

(註:2011年は年齢別集計表が添付されていないため、数値の記載されていないグラフ[13]からの読み取り値であり誤差を含む。参考程度にとどめられたい。)

(註:同一集団に対する追跡調査ではなく、各調査年におけるそれぞれの年齢の生徒・学生の経験率であるため、より高い年齢で経験率が落ちる場合があるが矛盾しない)


東京都幼・小・中・高・心性教育研究会が3年に一度行っている「児童・生徒の性に関する調査」でも、2014年調査では中学3年生の射精経験率が50%を下回ったことが報告されている[14]

小学生のうちに精通を迎えた者の精通時年齢については、精通をした年齢を問う設問によって明らかになるが、各調査年度とも6%から7%の者が10歳までに精通したと回答しており、概ね小学4年生以降に精通を迎えた場合には思春期早発症などを心配する必要は特にないといえる[注釈 3]。また、思春期遅発症については14歳までに精巣の発育の兆候がみられない場合に該当することがあるが、18歳でおよそ1割弱の者が射精を経験していないと回答していることからもわかるように、遅発症は精通の有無による判断ではなく、精巣(睾丸)の増大、陰茎の発育、陰毛の発生、陰部が赤みや黒みを帯びる等の第二次性徴特有の兆候がみられる場合には特に心配をする必要はない。

精通を経験した年齢
年齢 9歳 10歳 11歳 12歳 13歳 14歳 15歳 わからない/無回答
1999年[9] 6.7% 11.9% 33.2% 30.9% 9.0% 0.2% 8.1%
2005年[10] 7.0% 8.2% 31.6% 29.9% 12.3% 1.4% 9.6%
2011年[11] 0.2% 6.1% 10.2% 25.6% 29.1% 9.5% 1.0% 18.3%
2017年[12] 1.8% 4.8% 11.0% 30.9% 28.3% 10.9% 0.9% 11.4%

(射精を経験したことがあると回答した者に対する設問「はじめての射精があったのは、何歳のときでしたか」に対する中学生の回答。1999年と2005年は10歳までの回答を「10歳以前」として10歳の欄に計上)

(小学生のうちに精通を迎えた者の最新の統計を示すために中学生の回答結果を引用したが、12歳から15歳の割合については参考程度にとどめられたい。理由は、11歳までの数値については中学生は全員がその年齢を満了しており純粋な回想回答となるのに対し、12歳以上では12歳になったばかりでまだその年齢を満了していない者、その年齢にまだ達していない者が調査対象に含まれ、回想回答よりも低い値を示すためである。また、精通を経験したときの年齢を問う設問であり、上述した年齢別の射精経験割合(調査時の年齢)とは異なる値を示すことにも注意されたい。)

オナニーの経験率と開始年齢、頻度

日本性教育協会のアンケート結果では、射精経験率と同様、1999年までの調査では年を追うごとに中学生のオナニー経験率が高まる、オナニー開始年齢の早期化傾向を示していたが、その後は遅延する流れに転じている(オナニーの項を参照)。

オナニーの経験と射精経験の組み合わせについて集計を行った結果では、オナニー経験のない既精通者(夢精や遺精によって精通した者)の割合に大きな変化はなく5ポイント程度の変動幅であるが、オナニー経験のある既精通者の割合は18ポイント以上の大きな増減を示している。#精通の発現形態と精通年齢に示したように、オナニーによる精通では精通年齢が低くなる傾向があるため、1999年調査をピークとした精通経験率の増減は、おおむね自慰による精通経験の増減として説明できるとし、性的関心の遅延化と連動していると結論付けている[13]。つまり中学生の年代が以前に比べて性的なことにあまり関心を示さなくなった結果、オナニーをする者が減り、その結果として精通年齢が上昇した、ということである。オナニー経験率の減少とともに、別項思春期#性交渉への欲求の調査結果もその結論を補強しており、内分泌攪乱物質とは異なる社会的要因が絡んでいることを示唆している。

オナニー経験と射精経験の組み合わせの変化[13]
射精経験 射精あり 射精なし
オナニー経験 オナニーあり オナニーなし オナニーあり オナニーなし
1987年 25.1% 12.7% 4.9% 57.3%
1993年 29.8% 17.0% 3.2% 50.0%
1999年 37.5% 15.3% 4.0% 43.1%
2005年 26.1% 18.3% 2.0% 53.6%
2011年 18.8% 14.8% 2.5% 63.9%
オナニー経験者の年齢別割合
年齢 12歳 13歳 14歳 15歳 16歳 17歳 18歳 19歳 20歳 21歳
1999年[9] 13.8% 27.6% 46.3% 67.4% 80.6% 87.9% 93.7% 88.7% 98.6% 85.7%
2005年[10] 20.0% 15.1% 30.4% 48.9% 69.5% 83.0% 89.6% 92.2% 94.9% 93.8%

(設問「あなたは、自慰(マスターベーション、オナニー)をしたことがありますか。」に「ある」(2005年調査まで)、「1か月以内に経験がある」及び「経験はあるが、ここ1か月はしていない」(2011年調査)と回答した男子の年齢別割合。)

ソフト・オン・デマンドが首都圏の16歳から59歳の男女に対して行った2009年[15]および2012年[16]の調査によると、男性のオナニー開始年齢の平均は2009年調査で13.2歳、2012年調査で13.4歳で、オナニーを開始した年齢で最も多いのが2009年調査では12歳(約22%)、2012歳調査では13歳(約25%)で、2009年調査、2012年調査とも、11歳から14歳までの間におよそ6割がオナニーを経験したと回答している。

オナニーの頻度については、16歳~19歳で週4~5回以上オナニーをすると回答した男性は42.1%、週1回以上オナニーをすると回答した男性は89.9%に達する。

(設問「あなたの過去1年間のマスターベーション(オナニー、自慰)頻度はどのくらいですか」に対する16歳~19歳男性の回答)


注釈

  1. ^ 1910年2月、中華人民共和国 山西省に住んでいた9歳の少年、薛子道と8歳の少女、李福珍の間に男児、薛万春(Xue Wanchun)が生まれたという記録がある中国史上记载最小年纪爸爸仅九岁,儿子长大成人活到90岁” [中国史の記録、最年少の父親は9歳、息子は90歳] (中国語). 每日头条 (2018年12月25日). 2019年1月22日閲覧。
  2. ^ 青年期の定義には諸説あるが、MSDマニュアルでは青年期を「10歳頃から始まり10代後期または20代早期まで」と定義しており、ここでは「青年期の中期(12歳半~14歳頃)」という記述があることから、後期とは15歳以降のことを指す。
  3. ^ 日本小児内分泌学会による思春期早発症の定義[1]では、9歳までに精巣(睾丸)の発育がみられるものを思春期早発症の主な症状として挙げている。

出典

  1. ^ a b 日野林俊彦「男子精通現象について : 発達加速現象の観点より」『大阪大学人間科学部紀要』第9号、大阪大学人間科学部、1983年3月、ISSN 03874427 
  2. ^ a b c 嶋田博行「心身問題に関する心理学的試論 : Organismicdevelopmental アプローチと情報処理アプローチによる検討」『大阪大学人間科学部紀要』第12号、大阪大学人間科学部、1986年3月、ISSN 03874427 
  3. ^ 日本性教育協会『青少年の性行動 わが国の中学生・高校生・大学生における調査・分析(第3回)』日本性教育協会、1988年8月。 
  4. ^ Hirsch, M.; Lunenfeld, B.; Modan, M.; Ovadia, J.; Shemesh, J. (1985). “Spermarche--the age of onset of sperm emission”. J Adolesc Health Care. doi:10.1016/s0197-0070(85)80103-0. 
  5. ^ a b Janczewski, Z.; Bablok, L. (1985). “Semen Characteristics in Pubertal Boys”. Archives of Andrology 15 (2-3): 199-205. doi:10.3109/01485018508986912. PMID 3833078. 
  6. ^ 男児の思春期”. Merck Sharp & Dohme. 2020年1月15日閲覧。
  7. ^ 丘の上のお医者さん”. 2019年1月23日閲覧。
  8. ^ a b c 精通年齢(初めての射精年齢)の遅延傾向”. 額田成、江口純治 神戸市立西市民病院小児科. 2016年8月7日閲覧。
  9. ^ a b c d 日本性教育協会『「若者の性」白書 第5回調査報告』小学館、2001年5月。ISBN 4-09-837046-8 
  10. ^ a b c d 日本性教育協会『「若者の性」白書 第6回調査報告』小学館、2007年6月。ISBN 978-4-09-837047-4 
  11. ^ a b c 日本性教育協会『「若者の性」白書 第7回調査報告』小学館、2013年8月。ISBN 978-4-09-840147-5 
  12. ^ a b 日本性教育協会『「若者の性」白書 第8回調査報告』小学館、2019年8月。ISBN 978-4-09-840200-7 
  13. ^ a b c 「若者の性」白書 第7回調査報告 P.50
  14. ^ 東京都幼・小・中・高・心性教育研究会「児童・生徒の性に関する調査」『現代性教育研究ジャーナル』第45号、日本性教育協会、2014年12月。 
  15. ^ 「SOD Sex Survey 2009 ~日本人の性意識/行動の実態調査~ 調査報告書」、ソフト・オン・デマンド、2009年。 
  16. ^ 「SOD Sex Survey 2012 ~日本人の性意識/行動の実態調査~ 調査報告書」、ソフト・オン・デマンド、2012年。 
  17. ^ お父さん、出番ですよ”. 東京都心身障害者福祉センター 山本 良典. 2018年4月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年8月7日閲覧。
  18. ^ 旧優生保護法ってなに?”. NHK ハートネット (2018年5月30日). 2019年3月4日閲覧。
  19. ^ 知的障碍・発達障碍児者のための射精支援ガイドライン”. 一般社団法人ホワイトハンズ. 2016年8月7日閲覧。
  20. ^ 【射精介助】自力での射精行為が困難な男性重度身体障碍者の方へ”. 一般社団法人ホワイトハンズ. 2016年8月7日閲覧。
  21. ^ 「性介護」提供する非営利組織代表と頭固い警察とのやりとり”. NEWSポストセブン (2012年6月20日). 2016年8月7日閲覧。
  22. ^ ISBN 978-4037270605






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