ミタケスゲ 生育環境

ミタケスゲ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/01 07:21 UTC 版)

生育環境

寒冷地の湿地に生えるものである。ただし微妙な部分があり、星野他(2011)では『湿原の周辺』とあり、また勝山(2015)は『高層湿原、高層湿原が破壊された泥中など』としている。

たとえば北志賀高原のアワラ湿原では池塘(湿地中の窪地に雨水がたまるところ)に本種が優占する群落が成立し、あるいは中間湿原のアゼスゲが優占する群落に部分的に入り交じって出現している[9]。九州唯一の産地である大分県の九重湿原では湿原の過湿な部分に生育が見られる[6]

他方で本種は湿地が攪乱された場合に出現するものとしても知られ、たとえば尾瀬では踏みつけによって湿地が乾燥荒廃する段階で本種がよく出現する[10]。具体的には高層湿原の小窪地に成立しているヌマガヤ-イボミズゴケ群落などは種数を減らしてヌマガヤが優占する群落となり、そこに本種やミヤマイヌノハナヒゲが侵入してミタケスゲ-ミヤマイヌノハナヒゲ群落に移行する。また中間湿原のヌマガヤ-ホムロイスゲ群落は本種にヤチカワズスゲを伴うミタケスゲ-ヤチカワズスゲ群落に変化する。ミヤマイヌノハナヒゲ-ミタケスゲ群落は東北地方から北海道にかけての山地湿原において踏みつけによる荒廃によって出現する代償植生の代表的なものの1つとされている[11]。湿原の再生のために表土や植生をはぎ取ることが行われる場合があるが、その場合も本種は比較的早くに出現し、広い面積をカバーすることが見られる[12]

分類など

頂小穂が雄性、側小穂が雌性、苞に鞘があり、果胞は披針形で大きくて熟すと反り返り、また柱頭が3本という特徴は日本では他に共通するものがなく、ミタケスゲ節 Sect. Rostrales に本種のみが含まれている[2]

外見的には先の尖った長い果胞が四方八方に突き出す姿が独特で、成熟した姿で見誤るような種は日本にはない。やはり寒冷地の湿原に産し、短い雌小穂につく尖った形の果胞が反り返る、というものにヤチカワズスゲがあり、上記のように本種とともに見られることもあるが、この種の果胞は長さ3.5-4mmしかなく、見間違いようがない。

ちなみに本種の果胞の長さが10-13mmというのは飛び切りに大きく、やはり果胞がよく目立つオニスゲ C. dickinsii で10mm、各部分が大柄なことからその名がついたというウマスゲ C. idzuroei で10mm、地味ながらミヤマジュズスゲ C. dissitiflora が9-11mm、小柄なカヤツリスゲ C. bohemica が7-10mmなどがある程度である。大柄なタヌキラン C. podogyna の果胞は12-14mmもあるが、これは基部の長い柄を含んだ長さとなっている。

保護の状況

環境省のレッドデータブックには取り上げられていないが、県別には新潟県愛知県福井県、岡山県、広島県、愛媛県と大分県でそれぞれ指定があり、また千葉県では絶滅種と認定されている[13]。このうちの後半は上記のように近年に発見が相次いだ中部以南の隔離分布の生育地が指定されたものである。


  1. ^ 以下、主として星野他(2011),p.484
  2. ^ a b c 勝山(2015),p.346
  3. ^ a b c d 大橋他編(2015),p.328
  4. ^ 佐竹他編(1982),p.150
  5. ^ 大橋他編(2015),p.328。ちなみに同年の勝山(2015)には九州が分布地にあがっているが、なぜか本州は『中部以北』になっている。
  6. ^ a b ミタケスゲ・大分県ホームページ[1]2019/08/29閲覧
  7. ^ 岡山県レッドデータブック[2]2019/08/29閲覧
  8. ^ 愛媛県レッドデータブック[3]2019/08/29閲覧
  9. ^ 井田他(2003)
  10. ^ 以下、星(1985)
  11. ^ 橘(1998),p.40
  12. ^ 冨士田(2014)
  13. ^ 日本のレッドデータ検索システム[4]2019/08/28閲覧


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