男鹿の荒波黒きは耕す男の眼
作 者 | |
季 語 | 耕す |
季 節 | 春 |
出 典 | 蜿蜿 |
前 書 | |
評 言 | 最近、「海程全国大会in広島」が開かれて、その席上私の知り合いの女性が新人賞を受賞しました。金子兜太さんを囲んでの記念写真を見せて貰うと、その女性が色紙を持っています。その色紙の句が、この句です。 なつかしい句に出会って、はじめてこの句に出会った日を思い出しました。 昭和六十年代のはじめ、男鹿温泉のホテルに宿泊した時、玄関ホールに飾られている俳句を見ました。骨太で紙面をはみ出しそうな勢いのある字に圧倒されました。大きさが全紙ですから猶更でした。読み易い字体なので、句はすぐ読めましたが、少し違和感を覚えました。 男鹿は、秋田県の中央部から日本海に突き出た半島です。なまはげの風習のあるところです。男鹿と言えば海であり、思い浮かぶ産業は漁業です。しかしこの句では、「耕す男の眼」とありますから、農業です。男鹿半島には似つかわしくないと考えました。以来ずっとこの句が気になりました。 ところが、縁あって私は三年程男鹿に住むことになりました。すると、朝浜辺で漁をしていた人が、昼畑仕事をしているのに気がつきました。何のことはありません。男鹿では漁業より農業の生産高が多いのです。 秋田生まれの私の方が、表面的に男鹿を促え、旅人である金子兜太さんが本質的に男鹿を促えられていたのです。 荒波でも波はあくまで白く、その風土の中で海を見ながら耕す男の眼はあくまで黒く鋭いのです。 |
評 者 | |
備 考 |
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