河野南畦

現代俳句データベース(人名)

河野南畦

前へ

次へ

河野南畦の俳句

おぼろ夜の身起せばありし妻の衣

つつじ燃え伊豆の近か富士親しうす

ねぶた終へ遠き龍飛が波の中

またなにかさびしくなりぬ初鏡

わが顔を蹂躙蝌蚪の紐ほぐれ

七夕や男忘れて病み居たり

元禄の夢が雪呼ぶ十二月

冬葉忌咲き極むこと石蕗に無し

初夢や「楠本です」と憲吉が

初電車嬰児誰にも手を伸べて

南畦忌花の吉野に抱かれむ

右府の忌の雨にも群れて宮の鳩

夏嶽や雲も奢りの空の貌

大寒や巌のごとき壁に凭る

天上に戻らでなんの曼珠沙華

季語季感一句つらぬく乙字の忌

寒鯉の深く沈みて石となる

帯状疱疹東西無しに蟻走る

彼岸花忌みてはみれど美しく

搏ち合うて独楽のめでたさ囃さるる

旅にゐてなほ西行の日をみつむ

早春のこころ燃やせる埴輪の眼

曼珠沙華雲にも燃えよ風の岬

枯木折るなほ蓄へし生まの音

枯菊の燃えるさなかは花より美し

桐の花人の世よりも高く咲き

梅さそふたしかに空を風流れ

棒の如き全長となり蛇泳ぐ

水餅や風音しかと吹き晴るる

泳ぎ足りし少年松の根を愛す

浦島草よくぞ釣竿忘れざる

獅子舞を見るにも膝に子を置けり

生と死のはざまか春が先きに逝く

病愁に朝顔花をいそがずや

登山靴あぶら塗らんと掴みをり

真鶴の岬も秋めく鵜の声は

稲妻に穂高むら尾根光り合ふ

紙風船わが息宙にとどめたる

航ゆるく五月の幟陸に見し

落葉松に巣箱秋気が湖からも

葱白し束ねて何か忘れゐし

蛇笏忌の空や崩せぬ膝抱いて

蝌蚪壜に育ち野川のこと知らず

試走車の色鮮やかに夏来る

身を固くして早乙女ら田を出づる

雑炊も人のなさけもさびしかり

雪ばんば”子取ろ”の鬼が出て来さう

雪渓をわたるさびしさ秘むべきや

雲海に嶽のかげおく月夜かな

雷光に妙義走らす嶺と※

河野南畦の俳句

霧湧けば無弦の響永平寺