テキサダ号事件とは? わかりやすく解説

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テキサダ号事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/03 09:24 UTC 版)

テキサダ号事件とは、昭和41年(1966年)11月29日に和歌山県日高郡日ノ御埼沖の紀伊水道で発生した船舶同士の衝突事故と、その刑事責任について日本の法令適用対象か否かが争点となった裁判のことを指す。

事故

リベリア船籍の鉄鉱石運搬船「テキサダ号」(69,166重量トン)[1]三光汽船所属のタンカー「銀光丸」(34,318重量トン)が衝突、銀光丸は爆発炎上した。

銀光丸の乗組員35人は海に飛び込み、付近を航行中の船に全員救助された。一方、火が燃え移ったテキサダ号は自力消火不能となり、消防艇の出動を要請しながら大阪へ向かい、岸和田沖で消火艇等により消火された。

この事故によって生じた銀光丸の火災により15名が負傷した[2]

裁判

テキサダ号の当直航海士2名が業務上過失傷害および業務上過失往来妨害罪で起訴された[2]

被告弁護人側は、衝突地点は日本の領海ではなく公海であるため、日本の刑法を適用して被告人を処罰することはできないと主張した[2]。この背景には、当時日本には領海法が制定されておらず、明治3年(1870年太政官布告以来の領海3海里を適用してきたことがある。

昭和49年(1974年)7月15日の和歌山地方裁判所判決では、衝突地点は内水として日本領に属しているため、刑法1条1項により日本の刑法が適用されると判断した[2]

しかし、昭和51年(1976年)11月19日の大阪高等裁判所判決では、一審判決の判断は国際慣習法となっていないとして退け[3]歴史的湾の法理を類推して、内海の沿岸国が長期にわたる慣習によってその水域を内水とみなしてきたうえ、他国もそれに対し公式に異議を唱えていない場合には、沿岸国はこれを自国の内水とみなすことができるとした[4][5][6]。そして当該衝突地点の水域について、継続的歴史的な慣行(日本の政治的統制や軍事的規制の実績、国内法の適用事例)と領海範囲の非抗争制(外国との抗争がない)から、瀬戸内海は日本の歴史的水域(内水)であるとし、その範囲を和歌山県日ノ御埼と徳島県蒲生田岬を結ぶ線の北側を基線とするとし、日本の法令が適用できると判断した。また、傍論ではあるが、たとえ衝突の場所が公海上であったとしても、日本人の水先案内人の過失については日本の裁判所が裁判権を行使できるとしている[7]

ただしこの判決については、衝突地点に対する歴史的権原の立証が充分であったかどうかの評価の問題が残されているとの見解がある[8]

出典

  1. ^ 2か月前の9月に日本鋼管鶴見造船所において世界最大級の撒積船として竣工したばかりだった(日本鋼管株式会社『日本鋼管株式会社七十年史』(1982.06))
  2. ^ a b c d 長田祐卓「歴史的水域と湾 -テキサダ号事件-」『別冊ジュリスト』156号 国際法判例百選、有斐閣、2001年、80-81頁、ISBN 978-4641114562 
  3. ^ 大森正仁「海洋空間における国際責任論の展開」慶應義塾大学法学研究会
  4. ^ 筒井若水『国際法辞典』 有斐閣p260
  5. ^ 杉原高嶺、水上千之、臼杵知史、吉井淳、加藤信行、高田映『現代国際法講義』有斐閣 p130
  6. ^ 山本草二『国際法【新版】』 有斐閣 p354
  7. ^ 海上保安協会 平成10年度事業報告書「海洋法条約秩序における新海上保安法制の体系化等調査研究」
  8. ^ 高林英雄「テキサダ号事件」田畑茂二郎・太寿堂鼎編『ケースブック国際法』p140(有信堂新版、1987)



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