石鹸 環境への影響

石鹸

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/22 17:44 UTC 版)

環境への影響

石鹸と合成洗剤は、1gあたりの洗浄能力および必要量が全く異なるため、単純比較してはならない。

石鹸が合成洗剤より環境への影響が小さいとされるのは、環境中で石鹸分子の界面活性剤機能が速やかに失われる事と、最終分解までの期間が短いことを根拠としている。 ただし、石鹸と同じ用途で使われる合成洗剤製品には多様な副成分、添加剤が使われているため、主成分のみの比較ではあまり意味はない。

2014年4月、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律における、リスク評価を優先的に行う必要がある物質(優先評価化学物質)[16]に指定されている。

毒性

生物細胞細胞膜表面で重要な物質代謝を行っており、細胞膜は繊細な界面(ここでは水と油が接触する境界面)で成立しており、試験管内での細胞毒性試験で界面活性剤を作用させると機能を失い、死滅する。このため、石鹸や合成洗剤などの界面活性剤は特に水生生物への毒性が強く、環境中に一定濃度以上存在すると生態に悪影響を及ぼすことになる。

しかし、石鹸は硬度成分(カルシウムマグネシウムイオン)の封鎖により親水性を失い、水に溶けない金属石鹸(石鹸かす)となる。また、バクテリアによる資化で脂肪鎖の親油性も低下しやすい。こうして界面活性力を失うことで、毒性も消失する。

魚毒性試験では、石鹸(脂肪酸ナトリウム)の半数致死量は 100 mg/L 前後と、1-10 mg/L の合成洗剤(LASなど)より弱いものの毒性を持つ[17]が、実験室環境なので硬度の供給がなくバクテリア濃度も低いことから、値が小さくなっている。

一方、合成洗剤は硬度の影響を受けない商品としての特長と、安価な合成樹脂を原料とする製品としての特長から、界面活性力が持続して毒性も継続する。代表的な直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム (LAS) の場合、直鎖末端のアルキル基が酸化されてカルボキシル基となると親油性が大きく低下する。ただし、この反応は底質など酸素の乏しい環境では進行せず、水中の固形物に吸着されて沈殿すると残留しやすい。下水処理で汚泥中に残留するのは、このためである。

分解性

石鹸は、原料油脂を脂肪酸グリセリンに分解した脂肪酸なので、石鹸かすは原料である牛脂やヤシ油が半ば消化されたものに相当し、環境中ではバクテリアや水生生物が積極的に摂取するため、一時分解性、完全分解性ともに高く、環境中での半減期が短いことから環境負荷が低いとされる。

ただしこのことは、BODが高く水中の溶存酸素の消費速度が大きいことも意味するため、酸素の供給が乏しい止水域では酸欠リスクを強める。また、用水の硬度が高い地域では使用量を増やす必要から、有機物負荷量が高くなる(逆に著しく低い場合は、親水性が残留し毒性低下が遅れる可能性がある)。

一方、合成洗剤(LAS)の代表的な化合物の場合、BODが47%と5日間でほぼ半減[18]しているが、石鹸よりは遅いことになる。また、魚の場合体内の半減期が1 - 6日間と資化に時間がかかることから、蓄積性を持つ。

白色固形物

1997年頃から、東京の海岸に悪臭を帯びた白い油脂塊が漂着することが、問題視されるようになった。

正体は、合流式下水道特有の雨水吐から排出された越流水(CSO)中に含まれる、下水中の油脂分が固着したもの(中国でいう地溝油)で、オイルボールとも呼ばれる[19]。 主成分は、家庭や事業場から排出される動植物油脂が、下水中でバクテリアによって脂肪酸となり、下水管のコンクリートに含まれる炭酸カルシウムと反応してカルシウム石鹸となったもの[20]




  1. ^ 一般用語としての石鹸と化学用語としての石鹸は重なり合う事が多いが、化学的には石鹸じゃ無い物が一般的に石鹸であったり、その逆もある。
  2. ^ a b c d e f g 日本石鹸洗剤工業会
  3. ^ おふろ宇宙航空研究開発機構
  4. ^ a b c d e f 暮らしの中の石けん・洗剤”. 日本石鹸洗剤工業会. 2019年10月17日閲覧。
  5. ^ サポニンを多く含む、エゴノキムクロジなど。インドではリタ(reetha)、ソープナッツとも呼ばれ、現在も粉末が利用されている。
  6. ^ 石鹸洗剤の歴史日本石鹸洗剤工業会
  7. ^ シリア 千年の潤い|中東解体新書 - NHK
  8. ^ a b ティドビット〜水まわりのまめ知識〜”. TOTO. 2013年5月25日閲覧。
  9. ^ 石鹸業界における流通の変遷 : 石鹸業界の誕生から統制解除まで 宝子山 嘉一 2017年8月26日
  10. ^ 日本大百科全書. “薬用石ケン”. コトバンク. 2020年3月22日閲覧。
  11. ^ 日本石鹸洗剤工業会「石けん洗剤知識」を一部改変
  12. ^ Kawahara, Takayoshi; Akiba, Isamu; Sakou, Megumi; Sakaguchi, Takemasa; Taniguchi, Hatsumi (2018-09-27). “Inactivation of human and avian influenza viruses by potassium oleate of natural soap component through exothermic interaction”. PLOS ONE 13 (9): e0204908. doi:10.1371/journal.pone.0204908. ISSN 1932-6203. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0204908. 
  13. ^ シャボン玉石けん、天然石けん成分「オレイン酸カリウム」の高い抗ウイルス効果を実証” (日本語). 日本経済新聞 電子版. 2020年5月1日閲覧。
  14. ^ 50 雑貨工業品品質表示規定経済産業省
  15. ^ 洗濯用又は台所用の石けん消費者庁
  16. ^ 「2-611 飽和脂肪酸(C=8〜18、直鎖型)のナトリウム塩または不飽和脂肪酸(C=16〜18、直鎖型)のナトリウム塩」「2-611 飽和脂肪酸(C=8〜18、直鎖型)のカリウム塩又は不飽和脂肪酸(C=18、直鎖型)のカリウム塩」化審法データベース 独)製品評価技術基盤機構
  17. ^ 2-1.魚介類への毒性 - 洗浄・洗剤の科学
  18. ^ 初期リスク評価書NITE-化学物質管理分野
  19. ^ 海洋での原油流出事故後に発生する黒い塊と紛らわしいので、この項では白色固形物と記す
  20. ^ 下水道における白色固形物の成分組成変化調査 東京都下水道局
  21. ^ [https://www.nikkei.com/article/DGXKZO21807290S7A001C1LKB000/ 日本経済新聞「固形せっけん国内首位」牛乳石鹸共進社(関西企業のチカラ)」
  22. ^ [1]


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