湘南 (アルバム) 背景

湘南 (アルバム)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/04 08:41 UTC 版)

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10枚目のアルバム『N・A・T・S・U』(1990年)をリリースしたTUBEは、同作を受けたコンサートツアー「TUBE LIVE AROUND BE NATURAL」を同年4月14日の昭島市民会館公演を皮切りに、7月15日の綾瀬市民会館公演まで47都市全50公演を実施した[3]。約4か月に亘って行われたホール・ツアーであったが、ツアー中に風邪を患った前田は5月9日の岡山市民会館公演および5月10日の島根県民会館公演において声が出ない状態に陥った[4]。前田は「ヴォーカリストが歌えなければタダの人」だと自らを戒め、また代わりがいないことで改めてツアーの厳しさを知ることになったという[5]。その後に行われた野外ライブツアーは「Sometime Presents TUBE LIVE AROUND SPECIAL 嗚呼! 夏休み」と題して同年7月28日の浜田市営陸上競技場特設ステージ公演を皮切りに、9月1日の沖縄市民会館公演まで5都市全5公演が行われた[3]。TUBEの過去のシングル曲は横文字のタイトルが多く南国のビーチを想起させる内容が多かったが、同年にリリースされたシングル「あー夏休み」はそのイメージを払拭する内容であり、それまでのビーチやサマーという表現から浴衣や花火、葦簀などの日本の夏を想起させる言葉が使用され、TUBEによる新たな夏の風景が表現された1曲であったため、野外ライブにおいても日本の夏を象徴するものが組み込まれていた[6]

録音、制作

本作のレコーディングは1991年1月から開始された[7]ギター担当の春畑道哉およびベース担当の角野秀行ドラムス担当の松本玲二の3名は音作りのためにスタジオと自宅との往復を繰り返しており、歌入れの出番が回ってこないボーカル担当の前田亘輝は時折スタジオを訪れてはメンバーに檄を飛ばす日々を送っていた[7]。前年からメンバーそれぞれの役割が明確になっていたこともあり、音作りついては楽器隊がすべて行いその間に前田は作詞するアイデアを得るためにアンテナを張り巡らせる状態になっていた[7]

同時期に前田は10代の頃にともにバンドを結成し、長らく連絡が取れていなかった友人の土田宗志に連絡をしたところ、ガンを患って入院していることが発覚した[8]。前田は高校時代に幾度となく土田とバンドを結成しており、土田は角野とバンドを結成したこともあった[9]。TUBEとしてのデビュー後にもサポートメンバーとして土田は参加しており、初のツアーに組み込まれていた北海道公演においては自動車の運転も行っていた[9]。前田が土田が入院している病院に見舞いに行ったところ、病床において土田は人工呼吸器を抱えた上に治療の影響で丸刈りになっている状態であったが、枕元にドラムスティックが置いてあり再びバンド活動を行う意欲を見せていた[10]。その頃シングル用の作詞を行う段階になった前田は、自身が出演しているラジオ番組の企画で九州に所在する熊本県立熊本北高等学校の野球部に応援歌を制作することになり、作詞を土田に依頼することを決定した[11]

レコーディングが中盤に差し掛かった頃に前田の出番が増加し、作詞と歌入れがほぼ同時に進んでいく中で、前田は10代を過ごした地元である湘南をテーマに作詞を行っていた[12]。ある夜に土田から歌詞が完成したと連絡があり、病院へ行くと病状が進行しているためペンが持てなくなった土田の代わりに土田と交際している女性がノートに歌詞を書いていた[12]。土田はタイトルを「スタンド・アップ」にしたいと要求したものの、作詞のクレジットに自身の名前は記載しないことを要求したが前田はそれを断った[13]。前田は完成した歌詞でレコーディングを行い、自らサブタイトルを付与して「Stand Up 熱き仲間達」というタイトルで熊本県立熊本北高等学校の応援歌として完成した[注釈 1][14]

本作リリース前でありコンサートツアー開始日前日の1991年4月12日、メンバーは完成した音源を以って土田の病室を訪れ、音源を聴いた後に土田はメンバーに対して「ツアー頑張ってね。俺もまた元気になったらドラムやるからさ」と述べた[15]。翌日の4月13日に土田の母親から前日の夜中に土田が死去したという電話があり、葬儀に参列した前田は実感がまったく湧かず涙もまったく出なかったという[16]。前田はデビューして間もない頃に土田とともに6畳一間で家賃7千円のアパートを借りており、その後そのアパートは土田がそのまま使用していた[16]。前田は土田と交際していた女性にアパートをどうするのか尋ねたところ、「しばらく借りておきたいの。7千円だったら払えるしね」との返答を受け、女性の土田に対する愛情の深さを知った前田は「十年先のラブストーリー」の歌詞を完成させることになった[17]

音楽性と歌詞

書籍『地球音楽ライブラリー チューブ 改訂版』では、前作と比較してより身近な「湘南」というテーマを選択したことについて、前作に引き続き「ナチュラル&シンプル」な発想に基づいて決定されたものであると指摘している[18]。同書では発想や表題がシンプルではあるものの味わい深い抒情的な内容であると主張、さらにそれが大胆不敵に突きつけるのではなく「隙間からこぼれてくる」ような表現方法であると記している[18]

本作は全曲を通して短編フィルムのような構成になっており、同書では「湘南で10代を謳歌した彼らの青春時代を題材にした自主製作映画を観る思いがする」と例えた上で、冒頭は大人になり成熟した男性が江ノ島を眺めるイメージで「湘南 My Love」が始まり、次曲「はよつけ鎌倉」では10年程度時が遡り江ノ島電鉄で鎌倉を目指す若者の「1秒も我慢もできない様子」が描かれていると主張している[18]。「茅ヶ崎Pipeline」は現代に時が戻り茅ヶ崎の荒れた海を眺める男性が、鵠沼でサーファーとしてデビューした10年前の出来事を思い出す内容で、「泣き濡れてカニと戯るバトルロイヤル・ビーチ」はサーファーとしてデビューしたころのナンパ劇を描いた楽曲であり、「めぐりくるSeason」は若かりし日の純情な失恋ソングになっていると同書では主張している[18]

「Surf Song」は成熟した男性が過去の自分と現在の自分、荒い波に挑むサーファーとその場に佇む自身を重ね合わせて自らの原点を思い出す内容であり、「ウルトラバイオレットNO.1」および「夏よ走れ」は元気を取り戻した男性が浜辺で見た伝説のギャルや夏の浜辺でのアルバイト経験を思い出す内容になっていると同書では記している[18]。「葉山でDance! All Night」は10代最後の夏の一夜の思い出を描いた内容であり、同書では「平和で無邪気な場面と対峙する現実が浮かぶ」と記されている[18]。「Smile And Peace」について同書では「日常しか見えなかった少年が社会の矛盾も見えるほどに成長したことをあらわしている」と記している他、エンディング・テーマとして相応しいのが「十年先のラブストーリー」であり、同書では「この歌に込められた気持ちが本作の主題に他ならない」と記している[18]


注釈

  1. ^ 「Stand Up 熱き仲間達」はシングル「湘南My Love」のカップリング曲として収録されている。

出典

  1. ^ チューブ/湘南”. 国立国会図書館サーチ. 国立国会図書館. 2024年5月2日閲覧。
  2. ^ a b c d e f オリコンチャート・ブック アルバムチャート編 1999, p. 93.
  3. ^ a b c 地球音楽ライブラリー 改訂版 2006, p. 152- 「CONCERT DATA」より
  4. ^ 地球音楽ライブラリー 改訂版 2006, p. 145- 「TUBE CONCERT GUIDE」より
  5. ^ 地球音楽ライブラリー 改訂版 2006, p. 148- 「TUBE CONCERT GUIDE」より
  6. ^ 地球音楽ライブラリー 改訂版 2006, p. 166- 「TUBE'S SUMMER OPEN AIR CONCERT GUIDE」より
  7. ^ a b c TUBE 1994, p. 108- 「HISTORY OF HIS & THEIR MIND 第六章「スタンド・アップ」」より
  8. ^ TUBE 1994, pp. 108–109- 「HISTORY OF HIS & THEIR MIND 第六章「スタンド・アップ」」より
  9. ^ a b TUBE 1994, p. 110- 「HISTORY OF HIS & THEIR MIND 第六章「スタンド・アップ」」より
  10. ^ TUBE 1994, p. 111- 「HISTORY OF HIS & THEIR MIND 第六章「スタンド・アップ」」より
  11. ^ TUBE 1994, p. 112- 「HISTORY OF HIS & THEIR MIND 第六章「スタンド・アップ」」より
  12. ^ a b TUBE 1994, p. 113- 「HISTORY OF HIS & THEIR MIND 第六章「スタンド・アップ」」より
  13. ^ TUBE 1994, pp. 113–114- 「HISTORY OF HIS & THEIR MIND 第六章「スタンド・アップ」」より
  14. ^ TUBE 1994, p. 114- 「HISTORY OF HIS & THEIR MIND 第六章「スタンド・アップ」」より
  15. ^ TUBE 1994, pp. 114–115- 「HISTORY OF HIS & THEIR MIND 第六章「スタンド・アップ」」より
  16. ^ a b TUBE 1994, p. 115- 「HISTORY OF HIS & THEIR MIND 第六章「スタンド・アップ」」より
  17. ^ TUBE 1994, p. 116- 「HISTORY OF HIS & THEIR MIND 第六章「スタンド・アップ」」より
  18. ^ a b c d e f g 地球音楽ライブラリー 改訂版 2006, p. 49- 「TUBE ALBUM GUIDE」より
  19. ^ a b c チューブ / 湘南 [廃盤]”. CDジャーナル. 音楽出版社. 2024年5月3日閲覧。
  20. ^ 地球音楽ライブラリー 改訂版 2006, p. 98- 「TUBE SINGLE GUIDE」より
  21. ^ 地球音楽ライブラリー 改訂版 2006, p. 90- 「COLUM - タイアップ曲目一覧 Part:1」より
  22. ^ 地球音楽ライブラリー 改訂版 2006, pp. 152–153- 「CONCERT DATA」より
  23. ^ a b c d 地球音楽ライブラリー 改訂版 2006, p. 168- 「TUBE'S SUMMER OPEN AIR CONCERT GUIDE」より
  24. ^ 地球音楽ライブラリー 改訂版 2006, pp. 168–169- 「TUBE'S SUMMER OPEN AIR CONCERT GUIDE」より
  25. ^ a b 地球音楽ライブラリー 改訂版 2006, p. 169- 「TUBE'S SUMMER OPEN AIR CONCERT GUIDE」より
  26. ^ 湘南 2003, p. 0.
  27. ^ 湘南 2003, pp. 19–21.
  28. ^ a b c d 地球音楽ライブラリー 改訂版 2006, p. 48- 「TUBE ALBUM GUIDE」より
  29. ^ チューブ / 湘南 [限定]”. CDジャーナル. 音楽出版社. 2024年5月3日閲覧。
  30. ^ TUBE/湘南”. TOWER RECORDS ONLINE. タワーレコード. 2024年5月3日閲覧。
  31. ^ チューブ / 湘南 [再発]”. CDジャーナル. 音楽出版社. 2024年5月3日閲覧。
  32. ^ TUBE/湘南”. TOWER RECORDS ONLINE. タワーレコード. 2024年5月3日閲覧。
  33. ^ 湘南/TUBE|音楽ダウンロード・音楽配信サイト”. mora. ソニー・ミュージックソリューションズ. 2024年5月3日閲覧。
  34. ^ 湘南/TUBE|音楽ダウンロード・音楽配信サイト”. mora. ソニー・ミュージックソリューションズ. 2024年5月3日閲覧。





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