木材 物性

木材

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/26 21:07 UTC 版)

物性

含水率

前述の含水率は、木材を加工・保存する上で最重要の項目となる。JISに定められた木材測定法では木材を絶乾状態(全乾材)にして水分量を計測するよう規定されており、最も正確に測定できる。しかし、より簡易な方法もある。繊維飽和点以下であれば電気を流し抵抗値を計測して推計(電気抵抗法)できるが、温度や木材中のイオンが与える影響を除く必要がある。誘電率や誘電損率から導く(電気容量法)際には、木材の比重で補正しなければならない。この他にも、X線ガンマ線を照射し、水によって吸収された放射線量から計測する(吸収係数法)がある。また、平衡含水率はヒステリシスを示すため、放湿・吸湿のいずれ方向から計測する状態になったのかも勘案しなければならない[20]

繊維飽和点は、木材中の自由水が無くなり結合水のみが残っている状態を指す。これは、伐採した生木をゆっくり自然乾燥させる方法か、もしくは乾燥させた木材を湿度100%の環境下で吸湿させて含水率が一定となった状態を、容積膨張や縦圧縮強さのグラフの傾きが変化した(折れ曲がった)部分から得る[20]

密度

金属ガラス合成樹脂などの密度[注 2]は温度が一定ならばおのおのの固定値を取り、木材も細胞壁だけを計測した密度は「実密度」と呼ばれ、これは樹木の種類などに関わらず約1.5という値となる。しかし実際の木材密度には水分も影響を及ぼすため、含水率の状態毎に密度は定義される。質量を、体積を、添え字でそれぞれ: 気乾 (air-dry)、: 生材 (green)、:全乾 (over-dry) を表すと、

  • 気乾密度:
  • 生材密度:
  • 全乾密度:

となり、容積密度は、

  • (g/cm3)

さらに含水率 (%) 状態の木材の密度は、

となる[20]

樹木の種類によって密度は異なり、最も軽いバルサは気乾密度0.17g/cm3、重いリグナムバイタは1.23g/cm3程度となり水に沈む。同じ木でも部位によって異なり、針葉樹では早材と晩材では1.5 - 3倍の差がある。広葉樹のうち環孔材に当たるケヤキミズナラなどは、年輪の幅が広い部分は全乾密度が重くなる[20]

収縮・膨潤

木材は含水率に応じて伸び(膨潤)縮み(収縮)する。JISの規定では一辺3cm、厚さ5mmの試験片を用いて生材-気乾・生材-全乾の収縮度合いを測定し、それぞれを「気乾収縮率」「全収縮率」と定義している。また、含水率15%時を基準に1%の変化で起こる収縮を「平均収縮率」という。この収縮率は、円形の年輪に対して接線方向・半径方向、そして幹に沿う繊維方向でそれぞれ異なり、繊維方向の収縮が比較的小さいの対し、半径方向は10倍以上、接線方向はさらに1.6-2.0倍の数値を示す。また密度が大きければ収縮率の大きくなる[20]

木材の収縮は繊維飽和点以下になり結合水の排除が始まってから起こるが、含水率がはるかに高い状態でも乾燥に対して収縮が始まることがある。「異常収縮」と呼ばれるこの現象は、自由水が遊離する際に細胞構造を壊すことで発生し、表面の陥没(「落ち込み」という)を起こす[20]

このような収縮は木材の中で一様には起こらない。これは、含水率変化による収縮とは異なる生長時の応力や節の存在、旋回木理(らせん木理: 繊維が左右にずれて配行している状態)・交錯木理(繊維が交互にずれて配列している状態)などが加わるためであり、反り・幅反りや曲がり、ねじれなど複雑な変形現象となって現れる[20]

熱的性質

木材の熱伝導率はほぼ0.08-0.15kcal/m・h・℃の範囲にあり、コンクリートの1/10強、合成樹脂よりも若干高い程度の数値である[2- 2]。木材の実態は細胞壁+水+空気であり、これら構成要素の比率すなわち密度や含水率に影響される。密度が小さい(空気が多い)と熱伝導率は低くなり、含水率が1%増えるにつれ熱伝導率は約1.3%増える[20]

比熱は木材の種類に関わらず、含水率の影響を受ける。比熱は、

ただし、

  • は、温度、
  • は、含水率

で表される。気乾状態の木材の比熱は20℃で0.38kcal/kg・°Cとなり、これは常温のガラスやコンクリートよりも大きい。しかし物体の温まりやすさは比熱に質量を掛けた熱容量で決まるため、密度が小さい木材の熱容量は小さくなる[20]

熱膨張率は木材の方向によって異なり、年輪の接線方向で大きく、半径方向は若干小さくなり、繊維方向は接線方向の1/10程度になる[2- 3]。しかし、木材中で比較的数値が大きいダグラスファーの線膨張係数接線方向値でも、マイナス50℃-プラス50℃の温度幅でさえ0.43%に過ぎず、さらに通常このような温度変化があれば含水率が下がり木材は収縮するために膨張は相殺される。すなわち、木材の熱膨張は実用上無視してかまわない[20]

温度環境の特性では、木材は低温になれば強さを増す。一方高熱側でも100℃程度まででは目立った変化を起こさない。しかしさらに高温域では分解が始まり、200℃前後からガスを発しながら分解が加速する。引火点は240 - 270℃付近にあり、燃焼が始まる。ただし木材は一度燃焼しても、表面が炭化して熱伝道率が低下し燃焼速度は落ちるため、断面が大きい木材では内部が残る傾向を持つ[20]

機械的強度

木材は異方性が高く、繊維と並行(縦)か直角(横)かによって機械的強度は大きく変わる。縦方向の引張強さは、日本国内の針葉樹で800 - 1400kgf/cm2、広葉樹で600 - 2000 kgf/cm2、すべての木材では強いものでは3000 kgf/cm2というものもある。これを、強さを密度で割った「比強度」で表すと、針葉樹1700 - 2800kgf/cm2、広葉樹1600 - 2600kgf/cm2となり、鉄の400 - 1300 kgf/cm2を上回る性質を示す。これが横方向になると1/20から1/30と極端に悪くなる。そのため、製材時に木材の長軸と繊維軸が平行になっていない(「目切れ」という)と、このずれ部分に沿った破断、いわゆるせん断破壊が起きる[20]

縦方向の圧縮に対する強さは、日本国内の針葉樹で300 - 400kgf/cm2、広葉樹で200 - 650 kgf/cm2と、引張強さの1/3程度になる。このように「引張強さ>圧縮強さ」という特性は木材の特徴のひとつで、コンクリートの「圧縮強さ>引張強さ」の特性と逆になっている。木材が圧縮されると、中空構造の繊維がつぶれ、局部的な折れ曲がりが発生する。この「座屈」と呼ばれる破壊は圧縮強さの数分の1で発生し、座屈線という連続的な破壊の起点となる。横圧縮強さは縦の1/10 - 1/30程であり、これも細胞の破壊から始まる[20]

床板やのように繊維の上から木材を曲げようとする荷重に対する強さ(曲げ強さ)は、凹む木材の上部は縦圧縮力、張る下部は縦引張力がかかる図式で考える。中心部には圧縮ひずみも引張ひずみもかからない中立的な箇所があるが、曲げが強くなるとこの中立部が下(引張ひずみ側)に移動し、最終的に木材の縁まで来て引張強さを超える荷重がかかると破断する。しかも荷重を支える有効断面は実質的に狭いため、曲げ強さの値は引張強さよりも弱くなる[20]

辺材を白太、心材を赤身というように、多くの木材は中心部が濃く外周部が淡い色をしている。しかしこれも品種によって差があり、同じ針葉樹の辺材を比較しても漆喰のような白さを持つモミやトドマツなどもあれば、ヒノキはやや黄身がかっている。心材の色はより豊富で、紅(イチイ)、黄色(カヤ)、桃色(スギ)、ネズコ)、茶色カラマツ)などがある。これらの着色は辺材が心材化する際に柔細胞が生成していた化学物質によってもたらされる。広葉樹の材の色はさらに多彩で、主なものでも水色ホウノキなど)、桃色モミジなど)、サクラクスなど)、黄色ウルシキハダなど)、クワカツラ)、灰色カキノキなど)、コクタンなど)がある[20]


注釈

  1. ^ 岡野 p.14では11-17%
  2. ^ 文献『木材のおはなし』では比重と記されている。筆者の岡部は、木材の体積を示す単位が立米(立方メートル)、(ぎょく)、BM(ボードメジャー)、cf(立方フィート)などまちまちであるため、あえて比重と表示し単位 (kg/m3) を併記して本書を執筆した。しかし1994年の「JIS Z2101 木材の試験法」[39]改訂にて、表示がすべて「比重」から「密度」に書き改められたことを機に、同書にて「読者諸氏には“比重”を“密度” (g/cm3) に読み替えていただきたい」(p.170) と注釈を加えている。本項表記もそれに倣う。

出典

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  2. ^ a b 木のすべてを愛そう -木材の有効利用- (PDF)” (日本語). 北見工業大学地域共同研究センター. 2010年4月3日閲覧。
  3. ^ a b c d 岡野 p.147-169 6.エピローグ-その将来を展望する-
  4. ^ 「【材木】」『広辞苑』岩波書店、1999年、第五版第一刷、1044頁。4-00-080113-9。
  5. ^ メヒティル・メルツ『日本の木と伝統木工芸』海青社、2016年、67頁。
  6. ^ a b c d e f g h 岡野 p.73-102 3.構造の秘密
  7. ^ 木林学ことはじめ (34) 木を語る情報源” (日本語). 京都新聞. 2010年4月3日閲覧。
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  23. ^ 木林学ことはじめ (11) 雨が必要な木” (日本語). 京都新聞. 2010年4月3日閲覧。
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脚注2

  1. ^ 矢沢亀吉1950、蕪木自輔1956/岡野 p.15
  2. ^ 理科年表など/岡野 p.38
  3. ^ F.Kollmann, 1951 /岡野 p.41






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