壁のなかの鼠 解説

壁のなかの鼠

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/09 23:32 UTC 版)

解説

本作は古城を舞台にした陰惨な事件をテーマに執筆された。リー・ブラックモア (Leigh Blackmore) は、エドガー・アラン・ポーの小説『アッシャー家の崩壊』からインスピレーションを得たのではないかと考えた。一族が過去に起こした事件と遺伝による残忍な形質の発現は、血筋をテーマとするラヴクラフトの特徴の一つである。またカニバリズムは、ラヴクラフトが最大の背徳と考え、テーマとして好んで取り上げている。

物語は、主人公の一人称視点で描かれ、ナレーション役を務める。主人公の苗字の語源は、アングロ・ノルマン語の「le Poer」をモチーフとしており英語では、「The poor」の意味になる。またアイルランド王国には、ポアール男爵 (Baron La Poer) が実在する。主人公の在住地マサチューセッツ州ボルトン (Bolton) は、『死体蘇生者ハーバート・ウェスト』、『宇宙からの色』にも同じ地名が登場する。主人公の飼っていた猫の名前は、「Nigger Man」だったが人種差別的として1950年代に「Zest magazine」において「Black Tom」に差し替えられている。ラヴクラフトはかつて同名の黒猫を飼っていたと言われている。

トラクス博士は、エグザム修道院の地下で発見された人骨を「人間と比較してピルトダウン人よりも進化の劣る生物(mostly lower than the Piltdown man in the scale of evolution, but in every case definitely human.)」と表現している。当時、ピルトダウン人は、最も古いヒト目と考えられていたが、1953年に捏造であることが判明している。このような新しい発見を作品に取り上げるのも科学的好奇心の強いラヴクラフトの特徴である。

主人公とソーントンが収監されたハンウェル精神病院 (Hanwell Insane Asylum) は、実在し、ラヴクラフトは、ダンセイニの『The Book of Wonder(1912年)』の『ソーントンの戴冠式 (The Coronation of Mr. Thomas Shap)』を読んだことがインスピレーションになったと指摘されている。

主人公の従弟ランドルフの出身地として設定されたカーファックスは、イングランドにおけるドラキュラの拠点として描かれた「カーファックス修道院 (Carfax Abbey)」がモデルである。エグザム修道院もここからインスピレーションを得たと考えられる。


  1. ^ 東雅夫『クトゥルー神話事典』(第四版、2013年、学研)30-32ページ





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