AI-DLC
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/09/06 07:10 UTC 版)
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AI-DLC(エーアイ・ディーエルシー、英: AI-Driven Development Lifecycle、AI駆動開発ライフサイクル)は、ソフトウェアを開発する進め方(方法論)の一つである。Amazon Web Services(AWS)が2025年に提唱し、文章やプログラムを作り出す生成AIを開発の中心に据える点を特徴とする[1][2][3]。AWSによれば、従来の開発では人がプログラムを書き、AIはその手助けをする位置づけであった。AI-DLCでは、計画づくりから設計、プログラムの作成までをAIが進め、人はその節目ごとに内容を確かめて判断する役割に回る[4][5]。
名称は、ソフトウェアを企画し、作り、運用する一連の流れを指す「ソフトウェア開発ライフサイクル」(SDLC)に、「AIが主導する(AI-Driven)」という意味を加えたものと説明される[2]。進め方の手順はAWSが、誰でも無償で入手し改変できるオープンソースとして公開しており、人の指示を受けてプログラムを書くAIのツール(AI開発ツール)であれば、AWS製に限らず複数の製品で使える[6]。日本では、SCSKや日立グループなどが導入に向けた取り組みを公表している[7][8]。
概要
ソフトウェアの開発は、いくつかの段階を経て進む。何を作るかを決め(要件定義)、仕組みを考え(設計)、プログラムを書き(実装)、正しく動くかを確かめ(テスト)、実際に動かして守り続ける(運用)、という順である。この一連の流れが、名称の由来となったソフトウェア開発ライフサイクルである。近年は、こうした各段階にAIのツールを組み込む「AI駆動開発」の取り組みが進んでいる[2]。
AWSは、AIを従来の進め方に手助け役として付け足すだけでは効果が限られると考え、開発の流れそのものをAIを前提に組み直す方法論としてAI-DLCを提唱した[1]。AWSは、AI-DLCを二つの既存の考え方と区別している[5][4]。一つは、既存の進め方にAIを部分的に後付けする「AI支援型」であり、もう一つは、AIが自律的にソフトウェアを作る「AI管理型」である。
AI-DLCの基本となる考え方は二つある[1]。一つは、AIが作業を進め、人がそれを監督することである。AIが作業計画を立て、分からない点を人に質問し、重要な判断は人に委ねたうえで、人の承認を得てから実装する。この「AIが計画し、人が確かめ、AIが実行する」というやり取りを、開発のすべての段階で短い周期で繰り返す[1]。もう一つは、チームが集まって共同で作業することである。細かな作業をAIが引き受ける分、チームは一つの場に集まり、その場で話し合って判断を下していく[1]。
AWSは、こうした進め方によって、従来は数週間かかった作業を数時間から数日で終えられるとしている[1]。一方でAWSは、AIに任せきりにすると人が自分で考えることをやめ、確認や共通理解が薄れかねないとも述べている[9]。そのため、人が確認する節目を進め方の中に組み込んでいると説明している[9]。
進め方
三つの段階
AI-DLCでは、開発を「インセプション」「コンストラクション」「オペレーション」の三つの段階に分けて進める[1][5][4]。
- インセプション(Inception、着想)
- 何を作るかを固める段階である。人が「こういうものを作りたい」という意図を伝えると、AIがそれを具体的な要件に整理する。要件は、利用者の立場で書いた短い説明(ユーザーストーリー)の形にまとめられ、さらに作業のまとまりに分けられる[1]。このとき、関係者全員が集まり、AIからの質問や提案をその場で確かめながら要件を練り上げる。AWSはこの集まりを「モブエラボレーション」と呼ぶ[1][10]。
- コンストラクション(Construction、構築)
- 実際に作る段階である。前の段階で固めた内容をもとに、AIがソフトウェア全体の構成(アーキテクチャ)や、プログラムとテストを提案する。チームはその提案を確かめ、技術的な判断をその場で下していく。この集まりは「モブコンストラクション」と呼ばれる[1]。
- オペレーション(Operations、運用)
- 作ったものを動かし、守り続ける段階である。AIがそれまでの段階で決めた内容を引き継ぎ、ソフトウェアを動かす環境を整える作業や、できあがったソフトウェアを利用者が使える状態にする作業(配備)を、チームの監督のもとで行う[1]。
用語
AI-DLCでは、アジャイル開発で使われてきた用語の一部を、AIを前提にした速い進め方に合わせて置き換えている[1]。アジャイル開発は、短い期間で区切って作っては確かめることを繰り返す進め方で、その区切りを「スプリント」と呼ぶ。
歴史
AI-DLCは、2025年7月31日にAWSの技術者Raja SPがAWSの公式ブログで発表した[1][2]。同年8月には日本語訳が公開された[10]。IBMの解説記事は、アジャイル開発やスクラムといった従来の手法が人のチームで作業を進めることを前提に設計されていたのに対し、AI-DLCは人とAIの協働を前提とした手法として提示されていると説明している[2]。
2025年11月29日、AWSはAI-DLCの手順を、AI開発ツールに読み込ませる設定ファイルの形に整理した。これをソフトウェアの公開・共有サイトであるGitHub上で、誰でも無償で利用・改変できるオープンソースとして公開した[9]。ライセンスは、MITライセンスを基に、利用時に作者名の表示を求めないようにした「MIT No Attribution」(MIT-0)である[12]。AWSは公開にあたり、どの案件にも同じ手順を当てはめる画一的な進め方や、人の監督を弱める過度な自動化を、解決したい点として挙げている[9]。
2026年に入ると、方法論の本体を一か所に置き、ツールごとの違いだけを別に持つ構成への作り直しが進められ、同年9月時点では「AI-DLC Workflows 2.0」系が正式版として公開されている[13][6]。2.0系は、AWS製のKiroのほか、Claude CodeやGitHub Copilotなど他社製を含む複数のAI開発ツールで使える[6]。各段階では、人が承認してから次へ進む「承認ゲート」が設けられている[6]。
学習コースとワークショップ
AWSは、オンライン学習サイト「AWS Skill Builder」で、AI-DLCの基礎を学ぶコース「AI-DLC Foundations」を提供している。2026年9月には、その日本語版「AI駆動開発ライフサイクル(AI-DLC)ナレッジバッジ」の公開が発表された[5]。
また、AWSは企業向けに「AI-DLC Unicorn Gym」と呼ぶ実践型のワークショップを開いている。参加する企業が実際の業務テーマを題材として持ち込み、数日間でAI-DLCの進め方を体験するものである[11][8]。
日本での導入
日本では、AI-DLC Unicorn Gymに参加した企業が、その体験を自社のブログやお知らせで公表している。早い例として、DMM.comは2025年9月にAWSの日本法人であるアマゾン ウェブ サービス ジャパンと2日間の開催を行い、同年10月に自社の技術ブログで報告した[14]。2026年には、デジタルガレージ[15]やサイボウズ[16]が、数十人規模で社内開催した様子をそれぞれ自社の技術ブログで報告している。複数の企業が集まる合同開催も行われている[11]。
ワークショップにとどまらず、開発の進め方として組織的に取り入れる動きもある。SCSKは2025年12月、AWSの日本法人の支援を受けてAI-DLCの活用推進プロジェクトを立ち上げたと発表し、「人が作り、AIが支援する」開発から「AIが作り、人が判断する」開発への転換を掲げた[7][17]。
企業グループ全体への展開を掲げる例もある。日立グループでは、2026年に日立製作所などグループ3社から8チーム52名が参加する「日立グループ合同AI-DLC Unicorn Gym」が3日間にわたって開かれた[8]。日立製作所は同年8月、自社サイトのイベントレポートでこの取り組みを紹介し、日立が長年培ってきたとする品質保証の強みを生かす「日立版AI-DLC」の構想と「AI駆動開発ワーキンググループ」の構想も紹介されている[8]。グループ会社の日立ソリューションズも、同年7月1日から3日にかけて、社内のさまざまな事業部門から47名が10チームに分かれて参加するAI-DLC Unicorn Gymを開いたと、同社の公式アカウントで発表している[18]。
関連項目
脚注
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 Raja SP (2025年7月31日). “AI-Driven Development Life Cycle: Reimagining Software Engineering” (英語). AWS DevOps & Developer Productivity Blog. Amazon Web Services. 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 3 4 5 Cole Stryker (2026年8月24日). “AI-DLC:AI駆動型開発ライフサイクル”. IBM Think. IBM. 2026年9月6日閲覧。
- ↑ Cole Stryker (2026年8月4日). “AI-DLC: The AI-Driven Development Lifecycle” (英語). IBM Think. IBM. 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 3 森英信 (2026年4月13日). “生産性の壁を超える!AWS「AI駆動開発ライフサイクル(AI-DLC)」がもたらす開発のパラダイムリープ”. CodeZine. 翔泳社. 2026年5月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年9月6日閲覧。
- 1 2 3 4 5 “AWS Skill Builder で AI 駆動開発ライフサイクル (AI-DLC) を学ぼう: 日本語版学習コースが公開されました”. Amazon Web Services ブログ. Amazon Web Services (2026年9月1日). 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 3 4 “awslabs/aidlc-workflows: AI-Driven Life Cycle (AI-DLC) adaptive workflow steering rules for AI coding agents” (英語). GitHub. Amazon Web Services. 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 “SCSK、AWS提唱の「AI駆動開発ライフサイクル(AI-DLC)」活用推進プロジェクトを始動 〜AIセントリックアプローチで、AI駆動型開発をさらに進化〜”. ニュースリリース. SCSK (2025年12月12日). 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 3 4 “【記事公開】日立グループ合同「AI-DLC Unicorn Gym」開催レポート ― AI駆動開発をグループ全体へ広げる挑戦”. デジタル:日立 イベントレポート. 日立製作所 (2026年8月19日). 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 3 4 Will Matos; Raj Jain, Siddhesh Jog, Raja SP (2025年11月29日). “Open-Sourcing Adaptive Workflows for AI-Driven Development Life Cycle (AI-DLC)” (英語). AWS DevOps & Developer Productivity Blog. Amazon Web Services. 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 3 “AI 駆動開発ライフサイクル:ソフトウェアエンジニアリングの再構築”. Amazon Web Services ブログ. Amazon Web Services (2025年8月8日). 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 3 “9 社合同 AI-DLC Unicorn Gym:AI と作った 2 日間で見えた、「書く」から「決める」への転換”. Amazon Web Services ブログ. Amazon Web Services (2026年7月22日). 2026年9月6日閲覧。
- ↑ “aidlc-workflows/LICENSE” (英語). GitHub. Amazon Web Services. 2026年9月6日閲覧。
- ↑ “aidlc-workflows/CHANGELOG.md” (英語). GitHub. Amazon Web Services. 2026年9月6日閲覧。
- ↑ “国内5社目!DMMが「AWS AI-DLC Unicorn Gym」から学んだ、AIネイティブの開発プロセスとは”. DMM Developers Blog. DMM.com (2025年10月14日). 2026年9月6日閲覧。
- ↑ タカハシカズヤ (2026年6月30日). “AI-DLC Unicorn Gymで見えた、生成AI時代のチーム開発の進め方”. Zenn. デジタルガレージ DG Technology本部. 2026年9月6日閲覧。
- ↑ “AI-DLC Unicorn Gymをサイボウズで開催しました”. Cybozu Inside Out. サイボウズ (2026年9月3日). 2026年9月6日閲覧。
- ↑ “SCSK、AWS 提唱の「AI 駆動開発ライフサイクル(AI-DLC)」活用推進プロジェクトを始動 〜AI セントリックアプローチで、AI 駆動型開発をさらに進化〜” (PDF). ニュースリリース. SCSK (2025年12月12日). 2026年9月6日閲覧。
- ↑ 株式会社日立ソリューションズ (2026年8月18日). “日立ソリューションズは7月1日〜3日、東京都港区にあるアマゾンウェブサービスジャパン合同会社のオフィスにて、AI駆動開発ライフサイクル(AI-DLC)を実践的に学ぶワークショップ「AI-DLC Unicorn Gym」を開催しました”. LinkedIn. 2026年9月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年9月6日閲覧。
外部リンク
- awslabs/aidlc-workflows - GitHub(英語)
- AI-DLC Documentation - 公式ドキュメント(英語)
- AI-DLCのページへのリンク