芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素とは? わかりやすく解説

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芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素

(AAAD から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/04/19 15:01 UTC 版)

Aromatic L-amino acid decarboxylase (DOPA decarboxylase)
DOPAデカルボキシラーゼ二量体のリボン図[1]
識別子
EC番号 4.1.1.28
CAS登録番号 9042-64-2
データベース
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芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ、ほうこうぞくLアミノさんだつたんさんこうそ/デカルボキシラーゼ、: aromatic L-amino acid decarboxylase、略称: AADCAAAD)またはDOPAデカルボキシラーゼ: DOPA decarboxylaseDDC)はリアーゼの一種(EC 4.1.1.28)であり、ヒトでは7番染色体英語版に位置するDDC遺伝子によってコードされている[2]

DOPA decarboxylase (aromatic L-amino acid decarboxylase)
ヒト芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素二量体
識別子
略号 DDC
Entrez英語版 1644
HUGO 2719
OMIM 107930
RefSeq NM_000790
UniProt P20711
他のデータ
EC番号
(KEGG)
4.1.1.28
遺伝子座 Chr. 7 p11
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反応

AADCはいくつかの異なる脱炭酸反応を触媒し、L-DOPA(レボドパ)をドパミンへ、L-フェニルアラニンフェネチルアミンへ、L-チロシンチラミンへ、L-ヒスチジンヒスタミンへ、L-トリプトファントリプタミンへ、5-ヒドロキシトリプトファン英語版(5-HTP)をセロトニン(5-HT)へそれぞれ変換する[3]。そのため、トリプトファンデカルボキシラーゼ(tryptophan decarboxylase)、5-HTPデカルボキシラーゼ(5-HTP decarboxylase)といった名称で呼ばれる場合もある。一方で、これらの反応の中にはほとんど生物学的意義を持たないものもある。一例として、ヒスタミンの生合成はヒトやその他の生物では完全にヒスチジンデカルボキシラーゼ英語版を介して行われている[4][5]

機構

AADCの触媒機構
ヒトにおけるセロトニンの生合成経路

AADCは、活性型ビタミンB6であるピリドキサールリン酸(PLP)を補因子として利用する。PLPはAADCによる脱炭酸機構に必要不可欠である。活性型酵素では、PLPはリジン303番残基(Lys303)にシッフ塩基として結合する。基質結合に伴い、Lys303は基質分子のアミンによって置き換えられる。その結果、基質分子のカルボン酸部分が脱炭酸反応に適した形で活性部位に配置される。基質分子の脱炭酸によってキノノイド中間体が形成され、続いてプロトン化が行われることでPLPと脱炭酸産物のシッフ塩基付加体が形成される。その後、Lys303が元のシッフ塩基を再生し、PLPを保持したまま反応産物の放出が行われる[6]

こうしたPLP触媒による脱炭酸反応の標識実験では、基質によって濃度やpHに対する依存性の差異が存在することが明らかにされている。DOPAに対する脱炭酸反応はpH 6.7、PLP濃度0.125 mMが至適であるのに対し、5-HTPに対する反応はpH 8.3、0.3 mM PLPが至適条件である[7]

構造

AADCはホモ二量体として活性を有する。補因子であるPLPが結合する前のアポ酵素は開いたコンフォメーションで存在するが、補因子の結合によって大きな構造変化が生じ、サブユニットが互いに引き寄せられて活性部位が閉じる。このコンフォメーション変化によって、活性型である閉じた構造のホロ酵素が形成される[8]

生体内のPLPを枯渇させた齧歯類モデルでは、PLPを補充した場合と比較してドーパミン濃度には有意な差はみられないものの、セロトニン濃度には有意な差がみられる。このようにPLP枯渇がもたらす影響に差異がみられるのは、DOPAと5-HTPに対して異なる基質特異性を有するAADCアイソフォームが存在しているためである可能性がある。透析実験においても、DOPAの脱炭酸を担っていると考えられるアイソフォームは5-HTPの脱炭酸を担っているものよりもPLPに対して高い親和性を示すことが示唆されている[7]

調節

AADCの調節は、特にL-DOPAに対する脱炭酸反応に関係するものが広く研究されている。AADCにはプロテインキナーゼA(PKA)やプロテインキナーゼG英語版(PKG)の保存された認識部位がいくつか存在し、S220、S336、S359、T320、S429がリン酸化残基となっている可能性がある。In vitroでの研究ではPKAとPKGはどちらもAADCをリン酸化し、活性の有意な増大を引き起こす[9][10]。さらに齧歯類モデルでは、ドーパミン拮抗薬はAADCの活性を高め、一方で一部のドーパミン受容体の活性化はAADCの活性を抑制することが示されている[11]。こうした受容体を介した調節は二相性であり、まず短期的な活性化が行われた後に長期的な活性化が生じる。短期的な活性化はキナーゼの活性化とAADCのリン酸化によって行われていると考えられており、一方で長期的な活性化はタンパク質翻訳阻害剤に対する感受性を有することから、新たなAADCタンパク質の合成によって行われていることが示唆されている[12]

臨床的意義

神経伝達物質であるドパミンの通常時の合成においては、AADCは律速段階ではない。しかしながら、レボドパを投与されている患者(パーキンソン病など)ではAADCがドパミン合成における律速段階となる[13]

カルビドパ英語版血液脳関門外でAADCを阻害するため、パーキンソン病の治療において末梢でのレボドパからドパミンへの変換を防ぐために利用されている[14]

ヒトでは、AADCは微量アミン英語版形成における律速段階となる酵素でもある。芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素欠損症英語版(AADC欠損症)は、重度の発達遅滞、眼球上転発作英語版、自律神経症状などさまざまな症状と関連する疾患であり、分子的・臨床的スペクトラムは多様である。AADC欠損症の最初の症例は、1990年に双子の兄弟について記載されたものである。この2人の患者は、ドパミン作動薬英語版モノアミン酸化酵素阻害薬ピリドキシンビタミンB6)による治療が行われた[15]。この疾患の臨床表現型や治療応答は多様であり、長期的・機能的転帰は不明である。疾患の疫学、遺伝子型と表現型の相関、患者の転帰やQOLへの影響、診断や治療戦略の評価に関してより良い理解を得るための基盤として、非営利団体であるInternational Working Group on Neurotransmitter Related Disorders(iNTD)によって患者レジストリが運用されている[16]

免疫組織化学的研究により、AADCはセロトニン作動性ニューロンやカテコールアミン作動性ニューロンなどさまざまな神経種に発現していることが明らかにされている。また、AADCを発現しているが典型的なモノアミン作動性ニューロンではない細胞はD細胞と呼ばれている。AADCに対する免疫反応性を有する細胞はヒトの脳幹にも見つかっている。こうした細胞にはメラニン色素含有細胞が含まれ、一般的にはカテコールアミン作動性に分類されるが、セロトニン作動性である可能性もある。AADCに対する免疫反応性を有するドーパミン作動性細胞が多く局在することが報告されているのは、黒質腹側被蓋野中脳網様体英語版である。ヒトの脳幹には非アミン作動性細胞(D細胞)は観察されない可能性が高い[17]

遺伝学

ヒトにおいてAADCをコードしている遺伝子は、7番染色体に位置するDDC遺伝子である[2]。この遺伝子は15個のエクソンから構成され、480アミノ酸からなるタンパク質をコードしている[18]。この遺伝子の一塩基多型やその他の遺伝的多型は精神神経疾患との関連性において研究が進められており、例としてエクソン1の601番の1塩基欠失、722–725番の4塩基対欠失と双極症[19]自閉症[20]との関連の研究が行われている。自閉症に関しては、遺伝的多型との直接的な関連は発見されていない[20]

AADC欠損症に関して、DDC遺伝子の50種類以上の変異との関連が示されている[21]。この疾患はアジアで最も高頻度で発生しており、こうした発生率の差異は創始者効果によるものであると考えられている[22]

選択的スプライシングや選択的なプロモーター使用によって、AADCのさまざまなアイソフォームが生み出されていることが観察されている。使用されるプロモーターの差異によって神経型と神経外型(肝臓型)のアイソフォームの転写が行われ、両者はエクソン1のみが異なるものとなっている。また、エクソン3の除去によって酵素活性を持たない産物が形成される。ブタ試料の解析では、エクソン5またはエクソン5と6が除去された、脱炭酸ドメインの一部を欠くアイソフォームが生じていることも示されている[18]

出典

  1. PDB: 1JS3; Burkhard P, Dominici P, Borri-Voltattorni C, Jansonius JN, Malashkevich VN (November 2001). “Structural insight into Parkinson's disease treatment from drug-inhibited DOPA decarboxylase”. Nature Structural Biology 8 (11): 963–7. doi:10.1038/nsb1101-963. PMID 11685243.
  2. 1 2 Scherer LJ, McPherson JD, Wasmuth JJ, Marsh JL (June 1992). “Human dopa decarboxylase: localization to human chromosome 7p11 and characterization of hepatic cDNAs”. Genomics 13 (2): 469–71. doi:10.1016/0888-7543(92)90275-W. PMID 1612608.
  3. AADC”. Human Metabolome database. 2015年2月17日閲覧。
  4. Huang H, Li Y, Liang J, Finkelman FD (2018). “Molecular Regulation of Histamine Synthesis” (English). Frontiers in Immunology 9: 1392. arXiv:1802.02540. doi:10.3389/fimmu.2018.01392. PMC 6019440. PMID 29973935.
  5. chikawa A, Tanaka S (2012). “Histamine Biosynthesis and Function”. eLS. American Cancer Society. doi:10.1002/9780470015902.a0001404.pub2. ISBN 9780470015902
  6. Bertoldi M (March 2014). “Mammalian Dopa decarboxylase: structure, catalytic activity and inhibition”. Archives of Biochemistry and Biophysics 546: 1–7. doi:10.1016/j.abb.2013.12.020. PMID 24407024.
  7. 1 2 Siow YL, Dakshinamurti K (1985). “Effect of pyridoxine deficiency on aromatic L-amino acid decarboxylase in adult rat brain”. Experimental Brain Research 59 (3): 575–81. doi:10.1007/BF00261349. PMID 3875501.
  8. Giardina G, Montioli R, Gianni S, Cellini B, Paiardini A, Voltattorni CB, Cutruzzolà F (December 2011). “Open conformation of human DOPA decarboxylase reveals the mechanism of PLP addition to Group II decarboxylases”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 108 (51): 20514–9. Bibcode: 2011PNAS..10820514G. doi:10.1073/pnas.1111456108. PMC 3251144. PMID 22143761.
  9. Duchemin AM, Berry MD, Neff NH, Hadjiconstantinou M (August 2000). “Phosphorylation and activation of brain aromatic L-amino acid decarboxylase by cyclic AMP-dependent protein kinase”. Journal of Neurochemistry 75 (2): 725–31. doi:10.1046/j.1471-4159.2000.0750725.x. PMID 10899948.
  10. Duchemin AM, Neff NH, Hadjiconstantinou M (July 2010). “Aromatic L-amino acid decarboxylase phosphorylation and activation by PKGIalpha in vitro”. Journal of Neurochemistry 114 (2): 542–52. doi:10.1111/j.1471-4159.2010.06784.x. PMID 20456015.
  11. Hadjiconstantinou M, Neff NH (2008). “Enhancing aromatic L-amino acid decarboxylase activity: implications for L-DOPA treatment in Parkinson's disease”. CNS Neuroscience & Therapeutics 14 (4): 340–51. doi:10.1111/j.1755-5949.2008.00058.x. PMC 6494005. PMID 19040557.
  12. Berry MD, Juorio AV, Li XM, Boulton AA (September 1996). “Aromatic L-amino acid decarboxylase: a neglected and misunderstood enzyme”. Neurochemical Research 21 (9): 1075–87. doi:10.1007/BF02532418. PMID 8897471.
  13. Hadjiconstantinou, Maria; Neff, Norton H. (2008). “Enhancing aromatic L-amino acid decarboxylase activity: implications for L-DOPA treatment in Parkinson's disease”. CNS neuroscience & therapeutics 14 (4): 340–351. doi:10.1111/j.1755-5949.2008.00058.x. ISSN 1755-5949. PMC 6494005. PMID 19040557.
  14. Leyden, Emily; Tadi, Prasanna (2026), Carbidopa, StatPearls Publishing, PMID 32119439 2026年4月19日閲覧。
  15. Pons R, Ford B, Chiriboga CA, Clayton PT, Hinton V, Hyland K, Sharma R, De Vivo DC (April 2004). “Aromatic L-amino acid decarboxylase deficiency: clinical features, treatment, and prognosis”. Neurology 62 (7): 1058–65. doi:10.1212/WNL.62.7.1058. PMID 15079002.
  16. Patient registry”. 2026年4月19日閲覧。
  17. Kitahama K, Ikemoto K, Jouvet A, Araneda S, Nagatsu I, Raynaud B, Nishimura A, Nishi K, Niwa S (October 2009). “Aromatic L-amino acid decarboxylase-immunoreactive structures in human midbrain, pons, and medulla”. Journal of Chemical Neuroanatomy 38 (2): 130–40. doi:10.1016/j.jchemneu.2009.06.010. PMID 19589383.
  18. 1 2 Blechingberg J, Holm IE, Johansen MG, Børglum AD, Nielsen AL (January 2010). “Aromatic l-amino acid decarboxylase expression profiling and isoform detection in the developing porcine brain”. Brain Research 1308: 1–13. doi:10.1016/j.brainres.2009.10.051. PMID 19857468.
  19. Børglum AD, Bruun TG, Kjeldsen TE, Ewald H, Mors O, Kirov G, Russ C, Freeman B, Collier DA, Kruse TA (November 1999). “Two novel variants in the DOPA decarboxylase gene: association with bipolar affective disorder”. Molecular Psychiatry 4 (6): 545–51. doi:10.1038/sj.mp.4000559. PMID 10578236.
  20. 1 2 Lauritsen MB, Børglum AD, Betancur C, Philippe A, Kruse TA, Leboyer M, Ewald H (May 2002). “Investigation of two variants in the DOPA decarboxylase gene in patients with autism”. American Journal of Medical Genetics 114 (4): 466–70. doi:10.1002/ajmg.10379. PMC 4826443. PMID 11992572.
  21. Wassenberg T, Molero-Luis M, Jeltsch K, Hoffmann GF, Assmann B, Blau N, Garcia-Cazorla A, Artuch R, Pons R, Pearson TS, Leuzzi V, Mastrangelo M, Pearl PL, Lee WT, Kurian MA, Heales S, Flint L, Verbeek M, Willemsen M, Opladen T (January 2017). “Consensus guideline for the diagnosis and treatment of aromatic l-amino acid decarboxylase (AADC) deficiency”. Orphanet Journal of Rare Diseases 12 (1). doi:10.1186/s13023-016-0522-z. PMC 5241937. PMID 28100251.
  22. Lee HF, Tsai CR, Chi CS, Chang TM, Lee HJ (March 2009). “Aromatic L-amino acid decarboxylase deficiency in Taiwan”. European Journal of Paediatric Neurology 13 (2): 135–40. doi:10.1016/j.ejpn.2008.03.008. PMID 18567514.

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