矢野千代子

現代俳句データベース(人名)

矢野千代子

矢野千代子の俳句

かぶら蒸しとつとつ神戸灯るかな

さざんかの白敷き避難所の夜はじまる

ぜいたくなかりがねの道月の巣へ

そして一年菜の花は特にうす味

どこよりもやさしい刈田あり鬼の

ゆみこ病むさくらうぐいの息づかい

十七日授乳のような木漏れ日と

和菓子屋ととてもふくよかな芋虫

国人の魂やわらかし焼野ゆく

大笊小笊日向水木のきらっとす

山滴るいっぱい蒐めた鳥の切手

料峭の石に雨ふる素読という

春宵の束子乾けり助走せねば

朝風呂や羽化の時間を疾うに過ぐ

未明太刀魚の目玉よゆれるゆれる

栗咲いて仔馬の首へすたすた仏

気泡かわるがわるに姉と雨蛙

湯冷めかな折鶴の滞空かな

灯り増え独楽はななめに走るなり

竜胆やガラスくもるは急ぐ用

竹で挟む骨か魚影か新涼

紅梅の高さに喪服の衿重ね

素読とも劣等感とも冬のたんぽぽ

羽ばたきは朝のとりきめ貝割菜

蝦夷鹿は託りもの霧の巻く

辣韮掘り夜の心音あかるいよ

追炊きのよう山茱萸が咲く日ぐれ

避難所に避難者の息さざんか散る

金糸魚の鱗とわたし月に舞う

金雀枝の大きなうねりよく噛もう

飾磨郡花田村大きな蜂の巣であり

高速道に先頭がある麦の秋

鵙の贄紅絹一反をそのままに

麦ふむごと神戸をふんだ　十年