内田庵茂

現代俳句データベース(人名)

内田庵茂

内田庵茂の俳句

おしいつく死ねよ死ねよと急かすごと

人間はよく手を洗ひ夏に入る

体温より高き風なり百日紅

夏夕べ里山は風生むところ

天高し抱へてみたき力石

山眠る時々煙を吐く浅間

愛の羽根胸に封切映画かな

文人の愛でし沼辺や春夕焼

春昼のビニールハウスよりラヂオ

木の葉散る通りすがりの一樹より

欠伸して呑み込みさうな朧月

残り鴨互ひに波紋拡げをり

水澄んで怪談多き城下町

深きほど流れは早し夕紅葉

源泉の豊かな手水はだれ雪

漣に夕日伸びくる四温かな

生身魂鏡も見ずに紅ひいて

病院とは待つところなり水中花

省略の効きたる会話冷奴

秋冷の粥や五観の偈を唱へ

繊月は梢に懸かりレノンの忌

老骨の膝の屈伸螇蚸飛ぶ

耳にする変な日本語終戦忌

自転車のライトが揺れてくる寒暮

舗装路に戸惑うてゐる落葉かな

船の名は下に「丸」あり夏の雲

落葉溜り踏んで一瞬無重力

落蟬の手足未練のありげなる

葉桜の靖国神社風騒ぐ

行く秋の見知らぬ喪服同士かな

豆腐屋のラッパは二音天高し

銃眼の先に眩しき茂りかな

黄昏にぶつかつてゆく秋の蟬

黒船屋の猫は胴長十三夜

龍天に昇るや不夜の摩天楼