足利事件 被害者遺族側の指摘

足利事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/26 15:58 UTC 版)

被害者遺族側の指摘

被害者遺族は、当事件が時効を迎えている事について「ある事件の犯人が捕まって起訴された場合、共犯者は逃げていても、その間、時効は進まないとされているそうです(刑事訴訟法254条の2項)。私からすれば、真犯人の共犯者は警察ではないかと思います。だから、警察が菅家さんを無理して逮捕して以降、捜査が進まなかった期間の分、時効は伸びて然るべきではないでしょうか。」とその思いを語った[31]

2009年5月、被害者遺族である母親は検察から被害者女児自身のDNA鑑定の協力を求められた際、「菅家さんが無実であるなら、早く軌道修正をして欲しい。捜査が誤っていたならば、謝るべきです。捜査は誰が考えたっておかしいでしょう。ごめんなさいが言えなくてどうするの」と怒りをあらわにするとともに人として諭すかのように検事に訴えた。

その4日後、菅家利和は刑務所から釈放された[31]

検察・警察が被害者女児の遺品を遺族に返還しない問題

被害者の遺族が、事件当時被害者が着ていた赤いスカートやシャツなどの遺品の返還要求をしたところ、検察は「赤いスカートなどはお返しするがシャツだけはこのまま預かりたい」と国の施設で冷凍保存したいと遺族に返答した。シャツとは真犯人のDNAが付着していたものであるが、事件が時効となった今では捜査や鑑定などの使途も失われているものを、なぜ検察が保存するのか、ここでも行動の理由や動機となるものが不明である。

真犯人を特定できる最大級の有力な証拠が返還されていない[32]。 捜査関係者の内部情報によると、警察内部に「シャツ(に付着したDNA)は時効が成立した今となっては、刑事事件の証拠としては無価値である。しかし民事事件として証拠採用される可能性はある(民事の時効は加害者を知った時点から起算され、加害者が不明だった場合は20年の除斥期間が認められないこともあるため)。本件は、真犯人の可能性が極めて高い人物が特定されているが、もはや警察は手出しできない。警察が真犯人を検挙できない(冤罪は起こしたが後に真犯人は検挙した、と名誉挽回できない)以上、このシャツを証拠に遺族が当該人物に民事で勝つ(冤罪であることが再確認される=警察のメンツが完全に潰れる)ことは阻止したい」との意見がある。

当事件の捜査・刑事・司法手続における問題点

当事件においては、事件未解決や冤罪被害発生の直接の原因になった、警察当局や裁判関係者の捜査上や裁判手続きでその理由や動機が不明な行動や事象が多数確認される。

  • 最初の有力な目撃証言に基く捜査を早々に打ち切った(当事件捜査において最大の不審点でもある。その実質の捜査実態も不明)。
  • 1997年からの再審やDNA型再鑑定の請求を長期間拒否した(その明確な理由や動機も不明)。

いずれも、適切な捜査と対応をしていれば、事件解決に繋がったと考えられる重要点である。

特に最初の目撃証言の時点で、それに基づく適正な捜査を行っていれば、その時点で犯人検挙が実現し当然のことながら冤罪も起こらなかった可能性。

1997年のDNA再鑑定の請求から2005年の公訴時効成立までの間に司法がDNA型再鑑定請求を認め、再審が行われていれば、その時点で菅家の無罪が確定し、事件の再捜査も可能だった点も指摘されている[33]

最初の有力な目撃証言に基づく捜査を打ち切った正当な理由についても警察当局は明らかにしていない。目撃証言については、近年の清水潔による調査報道を受けて、菅家利和の自白と矛盾するということで事件とは無関係とする警察の見解もあるが、通常の捜査であれば、反対に有力な目撃証言と矛盾するから菅家利和の自白は虚偽(強要された)と判断するところである。そもそも目撃証言に基づく捜査は早期に打ち切っているので、打ち切った正当な理由があれば、菅家利和の自白と矛盾しているとする旨をわざわざ警察発表でする必要もないはずのものである。

最初の目撃証言をした証言者たちの中の一人に対し、自宅を訪れ、「正直言ってアンタの証言が邪魔なんだ。消したいんだ」と目撃証言の撤回を迫り、証言を撤回させ調書も勘違いに書き換えた[34]

この事件の捜査に当時導入されたばかりのDNA型鑑定が採用されたのは、実際の事件でその実績を作りたかったためである。しかし、当時の鑑定の精度の低さゆえ時期尚早であり失敗であったことは、後年の再鑑定の結果明らかになっている。

菅家利和をマークをしていた時期により確実性の高い前科・前歴から数人の男の行動調査をしていた。しかし、理由不明のままその数人の男に対しての捜査を中止している(いくつかの冤罪事件に共通して見られる、犯人決めつけに基づく行為。この場合は、菅家を犯人と決め付けたことにより、より容疑性の高い数人の男に対しての精査を怠った。同じようなことは、菅家を犯人とするあまり、初期目撃証言に対して精査を怠った行為にもみられる。)。

菅家利和が自白した、手で首を絞めたことによる「扼死」と被害者の鼻の穴などから細かい泡状の液体(泡沫液)が漏れていたという「溺死」の鑑定所見と、被害者の死因の鑑定の点で矛盾が見られる[35]

菅家利和の自白(強要されたものと判明)そのものを重要証拠とし、秘密の暴露として認定し起訴し公判でも採用されている点。だが、その秘密の暴露を元として有罪とするだけの裏付ける検証結果や状況証拠は何一つ見つかっていない(現に、女児の死因の矛盾、女児を自転車の荷台に乗せて土手を下る男の姿の目撃証言が存在しない、犯行ルートが時間的に不可能である等が生じている。自白を精査すれば虚偽であることは起訴前に判明した可能性がある。なお、前述のとおり、自白と反する目撃証言や状況証拠はいくつも判明している)。

当時のDNA鑑定に、当時の「精度の低さ」の他に「型の取り違え」の可能性などの重大な問題が潜在していたことが判明している。また、検察はこの問題を検証しない[36]


  1. ^ a b 現場検証 平成の事件簿. 株式会社 柏艪舎. (2019年3月8日). p. 18 
  2. ^ a b 下野新聞、清水潔による事件の調査報道・キャンペーン記事等】
  3. ^ 宇都宮地裁平成5年7月7日判決/刑集54巻6号670頁・判例タイムズ820号177頁
  4. ^ 2008年1月6日 日本テレビ「ACTION」より
  5. ^ 「〈足利事件「支える会」代表が語る〉主婦の私がなぜ菅家さんの無実を信じ続けたのか」西巻糸子著(『婦人公論』2009年7月22日号)
  6. ^ 無罪確定後、テレビ局が取材したが、亀山は菅家に対し謝罪を拒否すると公言している。
  7. ^ “足利事件、再審決定”. 産経新聞. オリジナルの2009年6月26日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090626121206/http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090623/trl0906231005001-n1.htm 2009年6月23日閲覧。 
  8. ^ “足利事件:再鑑定の結果「DNA不一致」…東京高裁に提出”. 毎日新聞. (2009年5月8日). http://mainichi.jp/select/today/news/20090509k0000m040020000c.html?link_id=RSH04 [リンク切れ]
  9. ^ 第2章スタート ACTIONコラム(日本テレビ)2009年5月26日。その他、「北関東連続幼女誘拐・殺人事件」など。
  10. ^ a b “袴田さん再審判断 DNA鑑定の有効性争点”. 中日新聞. (2018年6月7日). https://www.chunichi.co.jp/article/45987 
  11. ^ "足利事件、菅家さんを釈放 17年半ぶり、再審開始決定へ". 共同通信. 2009年6月4日. 2009年6月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年6月11日閲覧
  12. ^ “「警察と検察に謝って欲しい」菅家さん、支援者への手紙で”. 読売新聞. (2009年6月4日). オリジナルの2009年6月7日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090607081245/http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090604-OYT1T00518.htm 
  13. ^ “【足利事件】「捜査は妥当だった」「思い出したくない」 栃木県警元幹部ら”. 産経新聞. (2009年6月6日). オリジナルの2009年6月6日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090606080206/http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090604/trl0906041213005-n1.htm 
  14. ^ “「足利事件」捜査の元県警幹部ブログが炎上 「謝罪しろ」コメント殺到”. ITmediaニュース. (2009年6月5日). https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0906/05/news097.html 
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  16. ^ “菅家さんに『苦痛与えた』と謝罪 検察、足利事件で初”. 中日新聞. (2009年10月5日11時25分). http://www.chunichi.co.jp/s/article/2009100501000186.html [リンク切れ]
  17. ^ 検事正が謝罪、足利事件 - YouTube TBSNewsi 2009年10月5日[リンク切れ]
  18. ^ “足利事件再審:裁判長「菅家さん」 被告扱い封印”. 毎日新聞. オリジナルの2009年10月21日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20091021213826/http://mainichi.jp/select/today/news/20091021k0000e040044000c.html 2009年10月21日閲覧。 
  19. ^ “足利事件:92年1月28日の地検聴取テープ(1)”. 毎日新聞. オリジナルの2010年1月25日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100125173915/http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100122k0000m040128000c.html?inb=yt 2010年1月22日閲覧。 
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  21. ^ “足利事件:検察側が無罪論告 菅家さんに謝罪”. 毎日新聞. (2010年2月12日11時29分(最終更新 2月12日21時33分)). オリジナルの2010年4月7日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100407175816/http://mainichi.jp/photo/archive/news/2010/02/12/20100212k0000e040050000c.html 
  22. ^ “無罪でも終わらない 菅家さん故郷で語る”. 中日新聞. (2010年3月25日7時7分). オリジナルの2010年3月27日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100327091049/http://www.chunichi.co.jp/s/article/2010032590070729.html 
  23. ^ “足利事件再審で菅家さんに無罪判決…宇都宮地裁”. 読売新聞. (2010年3月26日). オリジナルの2010年3月29日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100329223949/http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100326-OYT1T00287.htm? 
  24. ^ “足利事件:菅家さん無罪 裁判長が謝罪 宇都宮地裁”. 毎日新聞. (2010年3月26日10時12分(最終更新 3月26日13時52分)). オリジナルの2010年3月28日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100328002952/http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100326k0000e040015000c.html 
  25. ^ 下野新聞 2011年3月9日
  26. ^ 清水潔,文藝春秋2010年10月1日号
  27. ^ 2011年『g2』vol.7(講談社)掲載ルポ「真犯人のDNA」P199ー200
  28. ^ 参考記事 らせんの真実-冤罪・足利事件- <終章><1>「消息」 捜査中止の参考人複数 酷似する「ビデオの男」下野新聞】(外部リンク参照)
  29. ^ 清水潔,文藝春秋2011年1月1日号
  30. ^ テレビ東京・BSテレ東『0.1%の奇跡!逆転無罪ミステリー【実録…やってないのに】衝撃冤罪!4連発(テレビ東京、2019/6/10 19:00 OA)の番組情報ページ | テレビ東京・BSテレ東 7ch(公式)https://www.tv-tokyo.co.jp/broad_tvtokyo/program/detail/201906/25234_201906101900.html2019年10月17日閲覧 
  31. ^ a b 文藝春秋2010年12月号 清水潔
  32. ^ 清水潔(文藝春秋2010年10月1日号
  33. ^ “<「足利事件」とDNA鑑定>佐藤博史弁護士に聞く”. あらたにす. (2009年5月9日). オリジナルの2009年5月9日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090511133249/http://allatanys.jp/B001/UGC020006020090508COK00288.html 全10頁
  34. ^ 「新・知ってはいけない!?」船瀬駿介 著
  35. ^ 【らせんの真実-冤罪・足利事件(下野新聞)】より
  36. ^ 文藝春秋2011年3月号 清水潔
  37. ^ 足利事件で無期懲役判決を受けた男性が冤罪だと訴えていた支援者らのホームページの「群馬・栃木県境の未解決幼女殺害・失踪事件地図」という項
  38. ^ 清水潔,2010年11月
  39. ^ 足利事件 真犯人は ('09.6.7)(youtube)[リンク切れ]






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