山口弁
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/09 02:22 UTC 版)
語彙
山口方言には多岐に渡る俚言(方言語彙)が存在するが、主なものを挙げると次のとおりである。日常的に使用される語彙の中には、古語がそのまま残存している例がある。周辺の広島弁や北九州弁と共通する語彙、また西日本一帯で広く共通する語彙もあるため、以下は必ずしも山口方言特有の語彙だけではない。広島弁#語彙や北九州弁#語彙も参照のこと。
- 地形語彙
- 峠地形を「たお」といい(例:椿峠-つばきだお、吉敷峠-よしきだお)、「垰」の字をあてることも多い。谷地形は「えき」といい、「浴」の字をあてる。
- 自称
- 自称表現には、男が「おいどま」「おどま」「おるま」「わし」などを、女が「うち」「わたし」「おれ」などを使用する。現在では、女が「おれ」と言うことはほとんど見られない。
- その他
- いけん - いけない・駄目だ。[用例]「そねえことしちゃいけん(=そんなことをしてはいけない)」「それ食うちゃいけん(=それは食べてはいけない)」下関地区や北九州市などではかなりの頻度で使用されており、どの方言よりも一番多く使用され使用率はかなり高い。[要出典]
- いなげな - 変な・怪しげな。
- いらう - 触る。「いろう」とも言う。[用例]「人のもん、いらうな!(=人のものに触るな!)」
- ええ - 良い。西日本や東北地方で広く使用。
- えっと・よーけ - たくさん。[用例]「ミカンよーけもろうたでよ(=ミカンをたくさんいただいたよ)」
- えらい・こわい - 動詞として、疲れた。形容詞として、とても。特に前者は中部地方(名古屋弁など)から中国地方(広島弁など)にかけて西日本では広く聞かれる。東日本などでは「偉い」と勘違いされやすい。
- 横着な・ちゃくな - 生意気な。
- おせらしい - 大人っぽい。
- おてらさん - 僧侶。
- かろう・かるう - 背負う。[用例]「ランドセルをかるう(=ランドセルを背負う)」
- かやす - こぼす。[用例]「スープをかやす( = スープをこぼす)」
- きなる - 気取る・格好つける。
- くじゅうくる - 叱る。[用例]「先生にくじゅうくられたぁーね(=先生に叱られてしまったよ)」「そねえなことしちょったらおおくじくられるでよ(=そんなことをしていたらひどく叱られるよ)
- こわい - 固い。[用例]「この昆布はちいとこわいけえ、よう噛みきられんちゃ(=この昆布はちょっと固いので、とても噛みきられないよ)」
- さばる - もたれかかる
- しあわせる - 幸いに存ずる。[用例]「○○していただければ幸せます(=○○していただければ幸いです)」
- じら - わがまま。[用例]「じらくんなっちゃ!(=わがまま言うな!)」
- しろしい - うるさい。うろうろ動いている人に対して「せせろしい」ということもある。
- すじひき - 定規のこと。
- せんない - 仕方がない・面倒くさい・つらい。
- たう - (長さや高さが)届く。荷物が届くことには使わない。[用例]「このひも、たうか?(このひも届くか?)」「手がたわん!(=手が届かない!)」「もうちいとでたう(=もうちょっとで届く)」「とうた?(=届いた?)」
- たっける・おらぶ - 叫ぶ・大声を出す。[用例]「聞こえんけぇ、たっけれ(=聞こえないから叫んでくれ)」「そねえたけらんでも聞こえるいや(=そんなに大声を出さなくても聞こえるよ)」
- つばえる - 子供が遊ぶ。
- てご - 手伝い。[用例]「ちーとてごーせてくれんか?(=ちょっと手伝ってくれない?)」
- てぶる - 放る・放置する。 [用例]「そんとなもなーとりてぶっちょけーや(=そんなものは放っておけよ)」
- てれんこぱれんこ - ふらふらする。ぐずぐずする。 [用例]「てれんこぱれんこするなっちゃ(ぐずぐずするな)」。長崎弁では同一の意味で「てれんぱれん」が使用される。
- どひょうし・どようし・どよう - 随分・たいへん・たいそう。「どようしええもんもろうたじゃー(=たいへん良いものをもらったじゃないか)」
- なおす - 片づける。西日本では広く使われる言葉の一つ。[用例]「おもちゃをなおしーっちゃ!(=おもちゃを片付けなさいよ!)」
- ねつい - 熱心だ。「えらいねつうにやっちょるね(=随分熱心にやっているね)」
- はしる - (歯が)痛む。
- はぶてる - 拗ねる・キレる・ふてくされる。[用例]「はぶてちょらんで参加せい(=拗ねていないで参加しろ)」
- びったれ - 汚い、不潔
- ぼうずり - デッキブラシのこと。
- ほうとくない - だらしがない
- ほうかる・ほうたる - 投げる。ほうる。投げ捨てる。
- ほぐ/ほげる - 穴をあける。/穴があく。
- まどう - 弁償する。
- みてる - 尽きる、なくなる。ここで言う「なくなる」は“紛失”の意味ではなく、在庫や分量が“尽きる”意味の「なくなる」である。県外の人には「満てる」(いっぱいになる)と正反対の意味で伝わることがある。醤油が切れた(尽きた)→醤油がみてた
- みやすい - 容易だ。「見易い」ではない。[用例]「今日のテストみやすいわぁーね(=今日のテスト簡単だね)」
- めぐ/めげる - 壊す。/壊れる。
- やし - ズル・インチキ。[用例]「やしすんなっちゃ!(ズルするなよな!)」
- やねこい - 大変だ、難しい。「あの仕事はちーとやねこい(=あの仕事はちょっと大変だ。)」
- やぶれる - 壊れる。
- よいよ - とても。
- ろーま - 春菊。
- わや - めちゃくちゃ。日本各地で広く使用。
この他の語については、山口方言の音声辞典(NPO法人デジタルアーカイブやまぐち)などを参照されたい。
- 「おいでませ」
- 「ようこそおいでくださいました」を表す山口方言で、主に旧山口市内で使用されるが使うことは殆んど無い。1970年代に県外向けの観光キャンペーンで「おいでませ山口」のキャッチコピーを導入して以来、21世紀に至るまで観光振興の場面で多用され、2011年開催の国体は「おいでませ!山口国体」。
下関地区の語彙
下関地区では方言が北九州の方言とほぼ同じであり、また県内の他地域で使用されていても下関地区では通じない言葉も多い。以下のような俚言が下関地区では使用されている(一部は県域に広まったものもある。先述のものは除く)。
- あんねえ - あのね・だからね。[用例]「あんねえ、意味が違うそっちゃ(=あのねえ、意味が違うんだってば)」
- あーね - そうだね・そうなんだ。[用例]「あーね、分かったよ(=そうだね、分かったよ)」
- かべちょろ - ヤモリ。
- さん、のー、がー、はい - 2人以上で物を持ち上げたりする場合に使用。「いち、にの、さん、はいっ」「いっ、せー、のー、せっ」と同意義であるが「せーの!」という意味でも使用される。皆で一斉に何かするときの掛け声
- 〜とき・〜ちょき - しておいたほうが良い・しておきなさい。[用例]「勉強しちょき(=勉強しておいた方が良い)」「この予定表を見とき(=その予定表を見ておきなさい)」
- 〜んとき - しない方が良い。[用例]「それはせんとき(=それはしない方が良い)」
- しばく - 殴る・叩く。[用例]「ちゃんとせんにゃしばくど!(=ちゃんとしないと殴るぞ!)」。近畿方言と同意義。
- しゃあしい - うるさい・やかましい。[用例]「工事の音がしゃあしい(=工事の音がうるさい)」
- すいばり - 針状の木材の繊維。木材や竹材のささくれが棘のようになり刺さりやすくなった状態のもの[3]。「ささる」という意味で「たつ」という動詞がまま用いられる。[用例]「すいばりがたった(=木材のトゲが刺さった)」
- すかん - 好きではない。[用例]「私はこれはすかん(=私はこれは好きではない)」
- どべ・どんべ - 最下位。[用例]「あいつはどべなそ?(=あいつは最下位なの?)」「6位でどんべでした(=6位で最下位でした)」
- なんしよん・なんしちょん - 何をしているの。[用例]「昨日なんしよった?」「今なにしちょん?」
- なんぼ - いくら・いくつ。西日本で広く使用。[用例]「その服はなんぼ?(=その服はいくら?)」
- のお・なあ? - どうなんか、という意味。喧嘩口調で使う。[用例]「のお、お前らおかしいと思わんか?(=なあ、お前ら、おかしいと思わないか?)」
- ぬくめる - 温める。[用例]「手をぬくめる(=手を温める)」「こたつでぬくまる(=こたつで温まる)」
- はわく - (ほうきで)掃除する。[用例]「そこはわいちょけ」(=そこを掃除しておきなさい)
- みてん - 見て。[用例]「この本、見てん(=この本、見て)」
- ^ 金田一春彦(1977)「アクセントの分布と変遷」大野晋・柴田武編『岩波講座日本語11 方言』岩波書店
- ^ 旅9 - DTI。 記事中で宇野千代(岩国市出身)の『生きて行く私』『残ってゐる話』を引用している。用例あり。
- ^ 「すいばりが立つ」の勢力図は - 産経新聞、2022年7月24日
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