会話分析 マルチモダリティ

会話分析

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/12 05:46 UTC 版)

マルチモダリティ

これまでの項目で、主に会話に見られる規範や組織についての知見を述べてきたが、会話分析は、会話だけを分析対象としているわけではない。電話ではなくお互いに顔を合わせて話をするときには、当然、参加者の視線の向きや身体も関わってくるし、また発話上のプロソディ[11]も相互行為を行う上で重要な資源となっていることを議論し、提示している。

視線はある行為が誰に向けられているのかを示す一つの手段になりうる。もちろん相手に直接呼びかけるなど他の方法もあるが、開始行為(行為連鎖の第一成分となりうるもの)と視線によって、たいていの場合話しかけている相手が誰なのかが示される。もし視線によって選択した相手が、そのことに何らかの理由で気づいていない場合、他の相手に視線を移し、それに合わせて発話のデザインを変化させることもある。たとえば、「禁煙を始めたんだ」と言おうとして、相手が気づいていない場合に、別の相手(たまたま禁煙していることを知っているパートナー)に視線を向け、「今日で一週間になるよ」という一言を付け足すことで、受け手が変わったことを発話と視線で示すことが出来る。

また参加者の身体は、その身体の向きによって、発話者の関心がどこにどれくらい向けられているのかを示す。机に向かって作業をしている時に、後ろから話しかけられて、上半身だけその話しかけてきた相手に向け、腰から下は机に向かったままの状態を維持している時、話をすることによる作業の中断はいわば、一時的なものであって、その人にとって継続させるような中心的な行為ではないことが示されている。また、この参加者が複数の行為に対して同時に指向していること、またその指向には、中心的なものと周辺的なものといった階層が(たとえば、より安定した身体の指向は中心的でそれ以外は周辺的であるように)作り出されている。

このように身体や視線の向きは、その時の参加者にとっての参加の枠組み[12]を形成する。発話がそうした枠組みを形成するのに一番大きな役割を果たすことは言うまでもないが、私たちは常に会話をしながら相手を観察し、その人の関心がどこに向いているのか、いま会話に参加出来る状態にあるのかどうか、など、参加の枠組みの形成に関する交渉を行う。そして、参加の枠組みの中でも、参加者がある行為に対して参加できる状態にあり、協働的に行為を遂行できるかどうか[13]は、やはり視線や身体によってより安定した関心が向けられているかによる。たとえば、病院での医療面接で、医師がカルテやコンピューターの画面に向かって作業をしている時、医師は患者とのやりとりに参加していないことを身体的に示している。その時、患者は医師が自分に視線を向けるまでは発言を開始せず、そうしたタイミングを待つことが観察されている。このように、会話の参加者は常にお互いの状況をモニターし合って、協働的に相互行為を組み立てているのである。

この他、プロソディのような言語的要素ではあるが、統語的組織を持たない資源も会話では活用される。たとえば、文法的に発話が完了することが予測されるようなポイントで、発話終了をマークするような下がり調子のイントネーションを用いないことによって、発話がまだ継続することを示すことができるのは、音韻的な資源を利用した上での手続きである。またイントネーションによって、相手の行為に対して対峙的な態度など感情を示したりも出来る。

ここでは特に取り上げないが、指差しやジェスチャー、うなずきなどの身体的行為や、会話をしながら使っている道具やその場を構成している空間的要素なども、会話を理解する上での資源となることは間違いない。こうした多層的な資源を取り扱う際に注意したいのは、これらが、全て個別に行為の形成に利用されているのではないということである。すべての発話はそれまでの相互行為によって作られた文脈に依存しており、また次の発話を行うことで文脈を形成している。身体的、音韻的、道具的な資源も発話と共にある文脈に埋め込まれている。そういう意味で、両者は切り離すことが出来ない。そして、私たちはその都度関連のある資源は何か互いに示しあいながら相互行為を行う能力を持ち合わせているのである。


  1. ^ : sequence organization
  2. ^ : preference
  3. ^ : epistemics
  4. ^ a b : recipient design
  5. ^ : epistemic status
  6. ^ : territory of knowledge
  7. ^ : epistemic stance
  8. ^ : formulation; word selection
  9. ^ : action formation
  10. ^ : recognizable
  11. ^ : prosody
  12. ^ : participation framework
  13. ^ : engagement framework





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