チェス 戦い方

チェス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/15 03:41 UTC 版)

戦い方

チェスの戦いは、基本的に「戦略(Strategy)」と「戦術(Tactics)」の2つの面で考えられる。「戦略」は、局面を正しく評価し、長期的な視野に立って計画を立てて戦うことである。「戦術」は、より短期的な数手程度の作戦を示し、「手筋」などとも呼ばれる。戦略と戦術は、完全に切り離して考えられるものではない。多くの戦略的な目標は戦術によって達成されること、戦術的なチャンスはそれまでの戦略の結果として得られることが多いからである。

駒の配置

ゲームの目的は、相手のキングを詰めることである。したがって、まず有利な局面を作ることが目標とされる。局面の優劣を評価する上で重要な要素は、駒を得すること(マテリアルアドバンテージ)と、駒がよい位置を占めること(ポジショナルアドバンテージ)である。

マテリアルアドバンテージ

取られた駒を永久に排除されるチェスにおいては、相手より駒が多いか少ないかが重要な意味をもつ。駒の価値は目安として、ポーン = 1点、ナイト = 3点、ビショップ = 3点強、ルーク = 5点、クイーン = 9点とされ、合計点数が1点でも違うと、特に終盤では大きな差となる。合計点数が多いことを、マテリアルアドバンテージ(material advantage)をもつという。多くの場合ポーン(P)を1個多く奪われることは、勝敗に大きく影響する。終盤では、ポーンがクイーンになるプロモーションの争いとなることが多いからである。このため、7段目に進んだポーンを3点に評価する考え方もある。またビショップは盤上半数のマスには進めないため、自分にだけ2つのビショップが揃っている場合は6点ではなく7点近くに評価する考え方もある。これをツービショップ、またはビショップペアという。

ポーンの形

  • ポーンは後退できない駒なので、前進には慎重さを要する。動きの制約が最も大きく狙われても容易に逃げることができないので、ポーンが狙われにくい配置であることが重要である。
  • ポーンによってキングを安全にし、他の駒のための空間を確保し、重要なマスを支配することも大きな要素である。

戦術

戦術は、1手から数手程度で完結する短期的な戦い方の技術である。戦術では「先を読む」ことが重要で、コンピュータが得意とする分野である。戦術においてよく用いられる基本的な手段としては、フォーク(両取り)、ピンディスカバードアタック、スキュア(串刺し)、ツークツワンクなどがある。戦術のなかでも、駒の犠牲を払って優位な形やチェックメイトを狙うものは、「コンビネーション」と呼ばれている。

ゲーム全体の流れ

チェスの1局は、序盤・中盤・終盤の3つの局面に分けて考えられることが多い。序盤 (Opening) は多くの場合、開始10手から25手程度を指し、対局者が戦いに備えて駒を展開する局面である。中盤 (middlegame) は多くの駒が展開され、局面を優位にコントロールするために様々な戦術が用いられる。終盤 (endgame) は、大部分の駒が交換され盤上から無くなった局面で、キングが戦いにおいて重要な役割を担う。盤上の駒の数がゲームの進行に伴って不可逆的に減少するチェスにおいては、駒の数が減った場合における完全解析のプロジェクトが進行しており、2018年までに「白黒双方のキングと残り5駒を加えた盤上7駒」までの状況について完全解析が完了し、「テーブルベース」としてデータベース化されている。

チェスの戦い方を表す格言として、「序盤は本のように、中盤は奇術師のように、終盤は機械のように指せ」[注釈 1]という言葉がある。これは序盤を既に確立された序盤定跡に忠実に従うことを「本」、中盤以降は記憶に頼ることが難しくなるため、そこで要求される巧みさや機転を「奇術」にたとえている。終盤の「機械」とは、特にチェックを意識する最終盤における読みの深さ、ミスを犯さない冷静沈着な精神などを指す。

形勢判断

前述の通り、形勢判断に最も重要な要素は、残存戦力、すなわち残っている駒の数である。次いで駒の働き、キングの安全性が判断材料となる。

序盤

  • 序盤定跡
    • 序盤定跡については、Batsford Chess Openings 2 (BCO2)[12] や、Modern Chess Openings(MCO)[13] が詳しい。
  • 序盤の原則
    • 中央支配
      中央を支配することは要点の一つである。中央を支配することによって陣地が広がるので、自分の駒は移動の選択肢が増え、相手(敵)の駒は移動の選択肢が少なくなる。
      白の二つのポーンが d4 と e4 に並ぶか、c4, d4 または e4, f4 に並ぶファランクスは白にとって一つの理想であり、最初の数手はこれをめぐる争いであることが多い。定跡 Queen's Gambit Declined (1. d4 d5 2.c4 e6) の 2.c4 (gambit) は、もし黒が 2.… dxc4 と取れば 3. e4 としてファランクスを作る意図であるし、そうしない 2. … e6 (declined) は、中央を守ろうとするものである。
    • マイナーピースの展開とイニシャティブ
      数多くのマイナーピース(ナイトとビショップ)を早く中央寄りに繰り出すことも重要である。最初の位置よりも中央寄りであるほうが、利きが及ぶ点が多く、駒の力を活かすことになる。
      さらに、敵の駒に利きを及ぼすことによって、敵の手が制限されてくる。狙われた駒が守られていない駒ならば、それを守る手が必要になるし、狙われた駒が既に守られている駒であっても、その駒を守っている駒が動かせなくなるという制限を受けることになる。つまり、敵の手の選択肢が減ってくる。このような状態をイニシャティブを取った状態という。
      Ruy Lopezの 1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 という動きはこれらの原則の典型である。

  1. ^ この格言の出典については、チェルネフとスピールマンの二説がある。前者は「最新図解チェス」(渡井美代子、日東書院)などに、後者は英語版ウィキクオートなどに記載されている。
  2. ^ ICCF:International Correspondence Chess Federation
  3. ^ JCCA:Japan Correspondence Chess Association
  4. ^ JPCA:Japan Postal Chess Association
  5. ^ その後、人間がコンピュータに負けにくいアリマアという新しいボードゲームが考案された。





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