財政赤字は維持可能か
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/17 22:32 UTC 版)
政府が税収等の歳入以上の支出を行うためには、借金をしなければならず、財政赤字が増えることになる。財政赤字を賄うための借金のほとんどは公債発行の形で市場において資金調達がなされるため、財政赤字を前提とした財政運営を行うためには、市場において発行元の政府と公債の買い手が適切な値段で折り合う必要がある。長期金利はさまざまな要素により決定されるものの、これまでのところ、長期国債の金利は歴史的な低水準にあり、財政赤字の維持可能性については、市場からある程度の信認を得られているものと考えられる。しかし、将来においては、今後の財政赤字と公債残高の規模、中長期の財政運営方針によっては、市場が政府の償還能力を疑い、国債価格が急落して長期金利が急騰する可能性も排除できない。 今後の財政赤字の維持可能性を測る1つの目安として、公債残高の名目GDP比が将来において増加し続け、発散してしまうような財政運営を行っていないか、という基準が考えられる。債務残高がGDP比で発散しないようにするためには、新たな借金の伸び率を当該年度の名目GDPの伸び率より低く抑える必要がある。これは、名目利子率と名目GDP成長率が等しいという前提が成り立てば、以下で説明するプライマリー・バランスをゼロ(均衡)ないし黒字とすることによって達成できる。 プライマリー・バランス(プライマリー財政収支)とは、「借入を除く税収等の歳入」から、「過去の借金に対する元利払いを除いた歳出」を差し引いた財政収支のことである。プライマリー・バランスが均衡している場合は、過去の借金の元利払い以外の出費は、税収等で賄い新たな借金に頼らないということを意味する。つまり、ある年の新たな借金は、過去の借金の元利支払いのためだけに使われる。もし名目経済成長率と名目利子率が等しい状況が続けば、プライマリー・バランスの均衡を維持することによって、債務残高とGDPの比が現行水準に保たれ、政府債務が無限に発散してしまうことは避けられる。 国民経済計算ベースでみた国と地方の合計のプライマリー・バランスは、92年度以降赤字となっており、かつその赤字は拡大傾向にあり、99年度でGDP比約5%の赤字となっている(第3-1-6図)。なお、前述したように国と地方の財政赤字(GDP比)は、99年度で8.2%であった。90年代を通じてネットの利払費がGDP比約2~3%で安定的に推移していたが、税収の落ち込みと歳出の拡大で、プライマリー・バランスの赤字は拡大してきた。なお、90年代に利払費が安定しているのは、債務残高は増加しているが、この間、名目金利が低下したためである。 さらには、98年度以降長期金利の水準が低位(1~2%程度)で安定する一方、名目GDP成長率がマイナスとなっており、長期金利が成長率を上回っているため、現状では、仮にプライマリー・バランスが均衡しても、債務残高のGDP比が増加する状況にある。
※この「財政赤字は維持可能か」の解説は、「財政赤字」の解説の一部です。
「財政赤字は維持可能か」を含む「財政赤字」の記事については、「財政赤字」の概要を参照ください。
- 財政赤字は維持可能かのページへのリンク