H.264 NAL構造

H.264

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/23 12:47 UTC 版)

NAL構造

H.264のビット列の規則(シンタックス)は、圧縮符号化された画像データをビット列に変換するための規則を定めたVCL (Video Coding Layer) と、VCLやヘッダ情報などのデータを分割および識別するためのNAL (Network Abstraction Layer) の2層構造を持つ。

従来技術では、シンタックスに従って1つの動画を圧縮符号化した場合、1つのビット列(エレメンタリストリーム)となる。これに対し、H.264では複数の種類のNALユニットに分割して符号化される。なお、従来のエレメンタリストリームと同様に1つのビット列として圧縮データを扱うことができるように、バイトストリームフォーマットがAnnex Bで規定されている。

NAL構造によって、MP4などのファイルフォーマットに格納したり、RTPパケットに分割して伝送したりするなど、圧縮データをさまざまな用途に柔軟に適用できるようになっている。

マルチビュー符号化

複数の視点(マルチビュー)で撮影された映像を、それぞれのビューを独立して扱うよりも効率的に圧縮することができるマルチビュー符号化 (MVC: Multiview Video Coding) が、H.264のバージョン10で追加で規格化されている。MVCではマルチビュー映像を、1個のベースビュー (base view) と、1個以上の非ベースビュー (non-base view) として符号化する。ベースビューは既存のプロファイル(現在ではハイプロファイルのベースビューのみ定義)のストリームとして符号化され、非ベースビューはMVCで新たに拡張されたプロファイルとシンタックスを用いて、他のビューや自分自身のビューに含まれるフレームを参照(ビュー間予測: inter-view prediction)して符号化される。

ビュー間予測を用いることで、ビュー間の相関が利用可能になるほか、非ベースビューでは符号量の大きいIフレームを使用しない符号化が可能となるため、より効率的に圧縮できる。通常のH.264ストリームでは、多くのアプリケーションで必要となるランダムアクセス機能(放送チャンネル切替えやチャプタージャンプのようにストリームの途中から再生する機能)のために、適切な時間間隔でIフレームを挿入しておく必要があった。放送の場合は通常0.5秒程度である。

MVCでもベースビューではそれが当てはまるが、非ベースビューのフレームについては、ベースビューのみを参照するP/Bフレームだけで構成すれば、ベースビューがランダムアクセス可能である限り、その非ベースビューもランダムアクセス可能である。なお、そのように符号化された非ベースビューのみを参照する形で、別の非ベースビューを符号化してもやはりランダムアクセスは可能である。

MVCに対応しない従来のデコーダでもベースビューのプロファイルとレベルを満足すれば、ベースビューのみの再生は可能であり、後方互換性が維持される。非ベースビューについても、使用されている圧縮のツール(アルゴリズム)についてはビュー間予測が可能という点を除き従来のI/P/Bピクチャと同じものを使用するため、デコーダをMVC対応とするのに必要な機能拡張は少ない。ただし、複数のビューをデコードするために、必要な処理速度は単一ビューに比べ増大する。

MVCを使用した場合の圧縮の効率は、2視点のステレオ映像の場合、1視点に比べ50%程度のデータ量の増加で圧縮可能とされている。なお、50%程度という数字はBlu-ray Disc Associationが2009年12月17日に発表したものである。

プロファイルとレベル

MPEG-2などと同様、目的用途別に定義された機能の集合を表すプロファイルと、処理の負荷や使用メモリ量を表すレベルが定義がされる。これらは画面解像度やフレームレートに影響する。

H.264に準拠する機器またはビットストリームそのものは、このプロファイルとレベルによって、機器の性能やビットストリームをデコードするのに必要な性能を表示することが多い。

プロファイル

H.264規格では当初ベースラインプロファイル、メインプロファイル、拡張プロファイルのみだった。その後、規格の拡張に伴い種類が増加している。以下では主なものを挙げる。

  • 制約付きベースラインプロファイル(Constrained Baseline Profile)
ローコストアプリケーションのためのプロファイル。ビデオ会議やモバイルアプリ等で使用される。
  • ベースラインプロファイル(Baseline Profile)
I, Pフレームのみ、エントロピー符号化はCAVLC+UVLCのみ。
  • メインプロファイル(Main Profile)
ベースラインプロファイルにBフレーム、CABAC、重み付け予測などを追加。
  • 拡張プロファイル(Extended Profile)
ベースラインプロファイルにSI, SPフレームなどを追加。
  • ハイプロファイル(High Profile)
メインプロファイルに8×8画素整数変換、量子化マトリックス等を加えたもの。また、YCbCr 4:0:0色空間(グレースケール)にも対応している。
  • ハイ 10 プロファイル(High 10 Profile)
ハイプロファイルに10ビット画像フォーマットへの対応を追加したもの。
  • ハイ 4:2:2 プロファイル(High 4:2:2 Profile)
ハイ10プロファイルにYCbCr 4:2:2色空間への対応を追加したもの。
  • ハイ 4:4:4 プロファイル(High 4:4:4 Predictive Profile)
ハイ4:2:2プロファイルにYCbCr 4:4:4色空間や12ビット画像フォーマット、YCbCr以外への色空間への変換、可逆圧縮など多数の機能を追加したもの。
  • マルチビューハイプロファイル(Multiview High Profile)
MVC拡張規格の策定に伴い定義されたプロファイル。ベースビューはハイプロファイルと互換のある符号化を行い、非ベースビューはマルチビュー拡張で定義されたシンタックスで符号化する。最大1024個のビューを符号化できるが、インターレース符号化をサポートしない。
  • ステレオハイプロファイル(Stereo High Profile)
ステレオ(2視点)映像を想定しており、MVCにおいて、ビューの数を2個以下に制限し、インターレース符号化をサポートするMVC拡張用プロファイル。Blu-ray Discの3D拡張版に採用されている。
プロファイルごとの機能一覧表
Feature CBP BP XP MP HiP Hi10P Hi422P Hi444PP
I and P スライス
YCbCr色空間 4:2:0 4:2:0 4:2:0 4:2:0 4:2:0 4:2:0 4:2:0/4:2:2 4:2:0/4:2:2/4:4:4
色深度 (bits) 8 8 8 8 8 8 〜 10 8 〜 10 8 〜 14
Flexible macroblock ordering (FMO) × × × × × ×
任意順序スライス (ASO) × × × × × ×
冗長スライス (RS) × × × × × ×
データ分割 × × × × × × ×
SI and SP slices × × × × × × ×
B スライス × ×
インターレースコード (PicAFF, MBAFF) × ×
複数フレーム参照
In-loop deblocking filter
CAVLC 符号化
CABAC 符号化 × × ×
8×8 vs. 4×4 適応変換 × × × ×
Quantization scaling matrices × × × ×
Separate Cb and Cr QP control × × × ×
グレースケール (4:0:0) × × × ×
Separate color plane coding × × × × × × ×
予測的可逆エンコード × × × × × × ×

レベル

レベル1からレベル5.1まで、16段階が定義されている。それぞれのレベルにおいて、処理の負荷や使用メモリ量等を表すパラメータの上限が定められ、画面解像度やフレームレートの上限を決定している。各パラメータの詳細は英語版を参照のこと。

Levels with maximum property values
Level 最大マクロブロック 最大動画ビットレート (VCL) 解像度例@
フレームレート
(ストアされる最大フレーム数)
秒あたり フレームあたり BP, XP, MP
(kbit/s)
HiP
(kbit/s)
Hi10P
(kbit/s)
Hi422P, Hi444PP
(kbit/s)
1 1,485 99 64 80 192 256 128×96@30.9 (8)
176×144@15.0 (4)
1b 1,485 99 128 160 384 512 128×96@30.9 (8)
176×144@15.0 (4)
1.1 3,000 396 192 240 576 768 176×144@30.3 (9)
320×240@10.0 (3)
352×288@7.5 (2)
1.2 6,000 396 384 480 1,152 1,536 320×240@20.0 (7)
352×288@15.2 (6)
1.3 11,880 396 768 960 2,304 3,072 320×240@36.0 (7)
352×288@30.0 (6)
2 11,880 396 2,000 2,500 6,000 8,000 320×240@36.0 (7)
352×288@30.0 (6)
2.1 19,800 792 4,000 5,000 12,000 16,000 352×480@30.0 (7)
352×576@25.0 (6)
2.2 20,250 1,620 4,000 5,000 12,000 16,000 352×480@30.7 (10)
352×576@25.6 (7)
720×480@15.0 (6)
720×576@12.5 (5)
3 40,500 1,620 10,000 12,500 30,000 40,000 352×480@61.4 (12)
352×576@51.1 (10)
720×480@30.0 (6)
720×576@25.0 (5)
3.1 108,000 3,600 14,000 17,500 42,000 56,000 720×480@80.0 (13)
720×576@66.7 (11)
1280×720@30.0 (5)
3.2 216,000 5,120 20,000 25,000 60,000 80,000 1,280×720@60.0 (5)
1,280×1,024@42.2 (4)
4 245,760 8,192 20,000 25,000 60,000 80,000 1,280×720@68.3 (9)
1,920×1,080@30.1 (4)
2,048×1,024@30.0 (4)
4.1 245,760 8,192 50,000 62,500 150,000 200,000 1,280×720@68.3 (9)
1,920×1,080@30.1 (4)
2,048×1,024@30.0 (4)
4.2 522,240 8,704 50,000 62,500 150,000 200,000 1,920×1,080@64.0 (4)
2,048×1,080@60.0 (4)
5 589,824 22,080 135,000 168,750 405,000 540,000 1,920×1,080@72.3 (13)
2,048×1,024@72.0 (13)
2,048×1,080@67.8 (12)
2,560×1,920@30.7 (5)
3,680×1,536@26.7 (5)
5.1 983,040 36,864 240,000 300,000 720,000 960,000 1,920×1,080@120.5 (16)
4,096×2,048@30.0 (5)
4,096×2,304@26.7 (5)

  1. ^ MPEG-4, Advanced Video Coding (Part 10) (H.264) (Full draft). Sustainability of Digital Formats. Washington, D.C.: Library of Congress. 5 December 2011. 2021年12月1日閲覧
  2. ^ 関昭一・井下雅美「「JNN次世代HD-SNG中継車」標準仕様車について」、『放送技術』第67巻(2014年5月号)、兼六館出版、2014年5月、 ISSN 0287-8658
  3. ^ 平樹・田嶋亨「ロボットカメラモニタリングシステムの更新」、『放送技術』第62巻(2009年3月号)、兼六館出版、2009年3月、 ISSN 0287-8658
  4. ^ H.264のライセンス料、無料ネット動画は恒久的に不要に”. ITmedia NEWS. 2023年5月28日閲覧。
  5. ^ Foresman, Chris (2010年8月26日). “MPEG LA counters Google WebM with permanent royalty moratorium” (英語). Ars Technica. 2023年5月28日閲覧。
  6. ^ Wild Fox Project
  7. ^ Mozilla が H.264 をサポートへ、webM 一本化を断念 Engadget 2012年03月20日
  8. ^ HTML5 Extension for Windows Media Player Firefox Plug-in Interoperability Bridges and Labs Center






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