マシュー・カーターとは? わかりやすく解説

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マシュー・カーター

(Matthew Carter から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/10/01 00:47 UTC 版)

マシュー・カーター
2018年のカーター
生誕 (1937-10-01) 1937年10月1日(89歳)
イギリスの旗 イギリス イングランド ロンドン
職業 書体デザイナー
受賞 マッカーサー・フェロー(2010年)
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マシュー・カーター(Matthew Carter、1937年10月1日 - )は、イギリス出身の書体デザイナーである[1][2]。彼の手がけた書体は世界的に広く使われており、2005年に『ザ・ニューヨーカー』誌は、その膨大な使用例を踏まえてカーターを「世界で最も広く読まれている男」と評した[3][4]。

1960年代初頭に始まったカーターのキャリアは、活字鋳造 、写真植字、デジタルフォントという書体設計の三つの主要技術すべてをまたいでおり、カスタムレタリングの分野にも及んでいる。

主な作品には、ウェブフォントのVerdanaとGeorgia、WindowsのインターフェースフォントTahomaのほか、Bell Centennial、Miller、Galliardなどがある[5][6][7]。印刷史家ハリー・カーター(英語版)(1901年 - 1982年)を父に持ち、デジタルフォント販売会社ビットストリームの共同設立者でもある。現在はマサチューセッツ州ケンブリッジに在住している[8]。

生い立ちと教育

カーターはロンドンで生まれ育った。父は書籍デザイナーで、後に印刷史家となったハリー・カーター、母は設計図の縮尺図面の作成に携わっていた。

オックスフォード大学で英文学を専攻する予定だったが、兵役を終えた同年代の学生と年齢をそろえるため、1年間の休学を勧められた。

経歴

エンスヘデ

カーターは父の紹介で、オランダの活字鋳造所「ヨハネス・エンスヘデ(英語版) (Joh. Enschedé)」で1年間のインターンシップを行った。エンスヘデは印刷業で非常に長い歴史を持つ老舗企業で、保守的でありながら人気の高い書体を数多く生み出してきたことで知られていた。カーターは、P・H・レーディッシュ (P. H. Rädisch) の指導のもと、金属活字の鋳造に用いる鋳型を作るための手作業によるパンチカット(英語版)(父型彫刻)の技法を学んだ。パンチカットは1950年代よりずっと前にすでに衰退していた伝統的な職人技法であり、カーターは、この技術を「生きた実践」としてヨーロッパで正式に学んだ最後の人物の一人とされている。

この経験がきっかけとなり、カーターはグラフィックデザインと印刷の分野で本格的にキャリアを積むことを決意した。

ロンドンとニューヨーク

カーターのタイポグラフィおよびグラフィックデザインにおけるキャリアは、物理的な金属活字からデジタル書体への移行期をまたいでいる。

カーターは伝統的なパンチカット技法を学んだが、その活動期は、金属活字が急速に写真植字に取って代わられつつあった時代にあたる。写真植字は、高価な金属母型の代わりに書体をフィルムリール上に保存できたため、コストを大幅に削減し、多様な書体デザインを容易に使用できるようにした。カーターのキャリアを扱った書籍の中で、彼より数歳年上の印刷史家ジェームズ・モズリーは、当時の時代背景について次のように記している。

モノタイプの古典書体はタイポグラフィの世界を支配していた。少なくともイギリスにおいてはあまりにも広く普及していたため、その優れた品質は否定しがたい一方で、退屈さを覚え、それらが体現する無難で平板な趣味に反発したくなることもあった。実際、1960年までには、それらが私たちを退屈させ続ける時代もそう長くはないだろうと、すでに感じ取られていた。金属活字の終焉が、ついに現実となりつつあったのである。[9]

その後、カーターはロンドンに戻り、フリーランスとして活動を始める。1961年までには、学んだ技術を生かしてセミボールド書体Dante(英語版)の独自バージョンを彫ることができた。彼の初期の仕事の一つとして、1962年5月にイギリスの雑誌『プライベート・アイ(英語版)』のためにデザインしたマストヘッドのロゴが挙げられる。これは現在も使用されている[10][11]。それ以前は号ごとに異なるレタリングが使われていたが、カーターのデザインは、最終的に発表されなかった書体(彼自身が「名もない未熟な作品」と述べたもの)を基にしていた[12][13]。また、ヒースロー空港における初期のプロジェクトにも関わっている[14][15]。

1963年、カーターは写真植字機フォトン (Photon) の販売代理店クロスフィールド・エレクトロニクス(英語版)のタイポグラフィ・アドバイザーとなった[16]。

1965年にはアメリカ合衆国へ渡り、マーゲンターラー・ライノタイプ[16]のニューヨーク・ブルックリン区事務所で書体設計に携わった[17]。カーターは同社のために多くの書体を制作しており、スクリプト書体Snell Roundhandや、ベルシステム創業100周年記念に電話帳用書体として設計したBell Centennialなどが代表作として知られている[18]。

16世紀フランスの彫刻師ロベール・グランジョンの作品に基づき、カーターはシャープでコントラストの強い書体ファミリーGalliardを制作した。これはカーター家の関心とも深く関わっていた。彼の父ハリーは1950年代にアントウェルペンのプランタン=モレトゥス博物館でグランジョンのオリジナル活字の分類・調査を行っており、息子のマシューもしばしばその作業を見学していた。本文用よりもディスプレイ用途を意図したこの書体は、グランジョンの原作に見られるいくつかの独特な特徴を取り入れ、当時の活字復刻の多くとは一線を画すものとなった[19]。カーターは、父の研究について次のように記している。

タイポグラフィの黄金時代にクリストフ・プランタンによって作られた最高級の印刷活字コレクションが、多少の混乱はあるにせよ完全な状態で現存し、プランタンの帳簿や目録には活字彫刻師の名前が明記されていることを示す証拠となった。[20][21]

ビットストリーム

自身のDTL(英語版) Flamande書体を示すカーター、1986年頃

1981年、カーターは同僚のマイク・パーカー(英語版)とともに、マサチューセッツ州ケンブリッジでビットストリームを設立した[1]。同社は米国初の独立系デジタル書体制作会社であり[16][22]、2012年にモノタイプに買収されるまで、世界最大級のフォント供給企業の一つとして知られていた[23][24]。

一方でビットストリームは、自社で設計していない既存の書体を低価格でデジタル化し、しばしば別名で販売する戦略をとった(例えば、Times New Romanは「Dutch 801」として提供した)。この手法は法的には違法ではなかったものの、多くの批判を招いた。書体デザイナーのジョン・ハドソンは、同社のCD販売方式を「タイポグラフィ史上最悪の海賊行為の一つ」と評している[25]。

カーターは同社でCharterなどの書体を制作し、Iowan Old Style(英語版)をジョン・ダウナー(英語版)に依頼するなど、社内外のデザイナーと協働した[26]。

1980年代には、独立コンサルタントとしてIBMにも助言を行っている[27]。

カーター・アンド・コーン

カーターは1991年にビットストリームを退社し、翌1992年にシェリー・コーンとともに書体制作会社カーター・アンド・コーン(英語版) (Carter & Cone) を設立した[16]。彼が1990年代以降に手がけた主な書体は、マイクロソフトなどの企業向けに制作したカスタムデザインに加え、ITC、Font Bureau(英語版)、モノタイプなど複数の販売会社から、しばしばカーター・アンド・コーンとの共同で発表されている。

代表作の一つであるセリフ体のウェブフォントGeorgiaは、19世紀のスコッチ・ローマン(英語版)体のデザインに着想を得ている[28][29]。この書体は、カーターがマイクロソフトから依頼を受けた当時に進めていた同系統の印刷用書体を基にしており、この書体は数年後にMillerの名で発表された[30][31][32]。2013年のインタビューでカーターは、GeorgiaとMillerの開発を振り返り、かつて絶大な人気を誇ったスコッチ・ローマン体がなぜ完全に姿を消したのかという点に長年関心を抱いていたと語っている[33]。

カーターの多くの書体は、特定の技術的課題に対応するために設計された。例えばCharterは、初期のコンピュータの限られたメモリ容量に収まるよう、最小限のデザイン要素で構成されたが、この問題は皮肉にも設計が完了する前に解決されていた[33]。またVerdanaとGeorgiaのボールド体は極めて太く、ほとんどブラックに近い。カーターによれば、これらは白黒の二値表示を前提とする初期スクリーン環境を考慮したもので、「1990年代半ばの当時、画面上で1ピクセルより太くしたい場合、次は2ピクセルにするしかなかった。それは印刷物での一般的な太さの差よりはるかに大きな変化だった」と述べている[33]。キャリア初期に手がけたBell Centennialも、電話帳印刷で安価な紙を用いても小さなサイズで高い可読性を保てるように設計されている。彼が初期にデジタル化した書体のいくつかは後に再設計され、モノタイプはCharterの拡張版を、Font BureauはGeorgia、Verdana、Big Caslonなどの拡張版をリリースしている[34][35]。

Carter Sans(英語版)は、カーターの名を冠した唯一の書体である[36][37][38]。これは文字の端に向かって広がる「グリフィック」なサンセリフ体で、モノタイプのためにベルトルト・ヴォルペが制作したイギリスの人気書体Albertusに影響を受けている。カーターはキャリア初期にヴォルペと面識があり、1980年に開催されたヴォルペの回顧展の際には、彼のあまり知られていない書体の一つをデジタル化する作業を手伝っている[39]。

HWT Van Lanenのデジタル見本

カーターのユニークなプロジェクトの一つに、ハミルトン木活字・印刷博物館(英語版)のために制作した書体Van Lanenがある。これは「ラテン」スタイルのウェッジセリフ書体で、デジタル形式と木活字(英語版)の両方で発表された。カーターはある記事で、「自分のデザインが手で触れられる物理的な形になるのは50年ぶりだった」と述べている[40]。

カーターの書体「Yale」でデザインされたイェール大学のロゴ

カーターは1976年からイェール大学のグラフィックデザイン・プログラムで教鞭をとっている[41]。また、同大学の印刷責任者 (University Printer) ジョン・ガンベルの依頼により、大学の公式書体Yale(英語版)をデザインした[42][43][44]。カーターによれば、建物の看板では全文が大文字となるのを見越して、小文字よりも大文字に重点を置いてデザインされており、これは自身にとって初めての経験だったという[45]。カーターはこの書体について次のように記している。

自立式であれ壁面に取り付けられたものであれ、その看板は私に碑文を思わせた。そこから私は、ローマン大文字が碑文に由来することや、大文字と小文字をいかに調和させるかという永遠の課題について考えるようになった。私にとって、その両者が初めて真に融合した例は『De Aetna』の活字に見られる。そうした思いから、私はバイネッケ図書館を訪れ、その蔵書をつぶさに調べ、その活字を仔細に観察した。それこそが、私にとってローマン活字の原型なのである。[45]

受賞

カーターはタイポグラフィとデザインへの貢献により数多くの賞を受賞している。その中には、ボストン美術大学(英語版)からの名誉人文学博士号、1995年のAIGA(英語版)メダル、1997年のタイプ・ディレクターズ・クラブ(英語版) (TDC) によるTDCメダル、2005年のSOTAタイポグラフィ賞などがある。2002年12月には、メリーランド大学ボルチモア校(英語版)にて、彼の作品の回顧展「Typographically Speaking, The Art of Matthew Carter」が開催された。この回顧展は、ドキュメンタリー映画『Typographically Speaking: A Conversation With Matthew Carter』でも特集されている。2010年、カーターは「天才助成金」としても知られるマッカーサー・フェローに選ばれた[46]。

2011年5月26日には、ホワイトハウスにてナショナル・デザイン・アワード(英語版)の生涯功労賞を受賞した[47][48]。

彼は国際グラフィック連盟 (AGI) の会員であり、国際タイポグラフィ協会 (ATypI) の会長を務めた経験を持つほか、タイプ・ディレクターズ・クラブの理事、およびタイポグラフィ愛好家協会 (SOTA) の職権上の理事でもある。カーターがデザインした書体の一部は、ロンドンのセントブライド印刷図書館のコレクションに収蔵されている[49]。

2020年の女王誕生日叙勲(英語版)では、タイポグラフィとデザインへの功績が認められ、大英帝国勲章コマンダー (CBE) に叙された[50][51]。

書体

マシュー・カーターがデザインした各種書体の見本

マシュー・カーターがデザインした主な書体には、以下のようなものがある。

和文フォントでは、1996年にダイナラブが痩金体を基に制作・発売した「DFP痩金体」、およびWindows Vistaで導入された日本語システムフォント「メイリオ」で欧文部分を担当している。

カーターが商業的にリリースした書体のほか、企業が自社専用に依頼したプライベートデザインも多く存在する。これには『ル・モンド』、『ニューヨーク・タイムズ』、『タイム』、『ワシントン・ポスト』、『ボストン・グローブ』、『WIRED』、『ニューズウィーク』などの出版物向けの仕事が含まれる[75]。これらの書体の中には後に商業的にリリースされたものもあり、その例が『スポーツ・イラストレイテッド』誌向けに「Wrigley」という名で制作された小規模ファミリーを基にしたRosterや、当初『ワシントン・ポスト』紙の専用書体として「Postoni」と呼ばれていたStilsonなどである[71][76]。

カーターの書体のうち、Bell Centennial、Big Caslon、ITC Galliard、Mantinia、Miller、Verdana、Walkerの7書体は、2011年以降ニューヨーク近代美術館 (MoMA) の永久コレクションに収蔵されている。これらの書体は、2011年から2012年にかけてMoMAで開催された展覧会「Standard Deviations(英語版)」で展示された。

脚注

  1. 1 2 3 4 A Man of Letters Archived 9 July 2007 at the Wayback Machine. , U.S. News & World Report, 1 September 2003.
  2. ↑ Johnston, Alastair (2011). “Matthew Carter”. Hanging Quotes: Talking Book Arts, Typography & Poetry. Cuneiform Press. pp. 28–41. ISBN 9780982792667
  3. ↑ Wilkinson, Alec (27 November 2005). “Man of Letters”. New Yorker. 2016年2月15日閲覧.
  4. ↑ “The most-read man in the world”. The Economist. 2016年2月22日閲覧.
  5. ↑ “Matthew Carter – Designing Britain”. Design Museum. 2016年2月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年2月22日閲覧。
  6. ↑ Rawsthorn, Alice (9 July 2006). “Quirky serifs aside, Georgia fonts win on Web”. The New York Times. 2015年9月20日閲覧.
  7. ↑ Berry, John. “dot-font: The Typographic Art of Matthew Carter”. CreativePro. 2006年2月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年2月22日閲覧。
  8. ↑ Newsham, Jack. “Five things you should know about Matthew Carter”. Boston Globe. 2016年4月22日閲覧。
  9. ↑ Mosley, James (2003). “Reviving the Classics: Matthew Carter and the Interpretation of Historical Models”. In Mosley, James; Re, Margaret; Drucker, Johanna; Carter, Matthew (eds.). Typographically Speaking: The Art of Matthew Carter. Princeton Architectural Press. pp. 31–34. ISBN 9781568984278. 2016年1月30日閲覧.
  10. ↑ Walters, John. “Matthew Carter's timeless typographic masthead for Private Eye magazine”. Eye. 2015年8月24日閲覧。
  11. ↑ MacQueen, Adam (2011). Private Eye The First 50 Years An A-Z. Private Eye Productions Limited. p. 180
  12. ↑ Carter, Matthew. “Carter's Battered Stat”. Eye. 2016年2月5日閲覧。
  13. ↑ “Old School layout”. Eye Magazine. 2016年2月22日閲覧。
  14. ↑ Webster, Garrick (2011年1月19日). “Matthew Carter Interview”. Creative Bloq. 2016年2月22日閲覧。
  15. ↑ Soar, Matt. “Excoffon's Autograph”. Eye Magazine. 2016年2月22日閲覧。
  16. 1 2 3 4 Carter, Matthew; Spiekermann, Erik. “Reputations: Matthew Carter”. Eye Magazine. 2016年2月22日閲覧。
  17. ↑ “The Matthew Cater Collection: An amazing run”. typenetwork.com. 2025年10月26日閲覧。
  18. ↑ TypeRoom. “Matthew Carter: 10 things to know about - TypeRoom” (英語). www.typeroom.eu. 2025年10月26日閲覧。
  19. ↑ Shaw, Paul (2011年5月12日). “Flawed Typefaces”. Print magazine. 2015年6月30日閲覧。
  20. ↑ Re, Margaret; Drucker, Johanna; Mosley, James (2003). Typographically speaking : the art of Matthew Carter (2. ed.). New York: Princeton Architectural Press. p. 33. ISBN 978-1-56898-427-8.
  21. ↑ Mosley, James. “Garamond or Garamont”. Type Foundry blog. 2015年12月3日閲覧。
  22. ↑ Rubin, Jason M. (2010年9月7日). “Matthew Carter and Me” (英語). AIGA Boston. 2025年10月26日閲覧。
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参考文献

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  • Macmillan, Neil (2006). An A-Z of Type Designers. Laurence King Publishing. ISBN 1856693953 , p. 62.

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