合理式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/04 15:04 UTC 版)
合理式(ごうりしき、英:rational formula)は降雨時のピーク流量の推定に用いる式である。雨水合理式、ラショナル式と呼ばれるほか、物部長穂が合理式に用いる流出係数を考案したことから物部式とも呼ばれる[1]。簡単な形であること、少ない資料から推定できることなどから広く用いられる[注釈 1][2][3][4]。
概要
河川改修や排水計画の際に重要となってくるのが降雨時のピーク水量である[5]。これを求めるのに多く用いられるのが合理式である。ここで求められるのはピークの流量のみであるため、ピークの流量以外も必要となる場合は用いない[6]。
合理式はQを流量(㎥/s)、Cを流出係数、Iを洪水到達時間(流達時間とも[7])に対応する降雨強度(mm/hr)、Aを流域面積(ha)とした場合、以下の式で表される[8]。
Q=1/360×C×I×A
なお、面積の単位を㎢とする場合、Q= 1/3.6×C×I×Aとなる[9]。
流出係数
流出係数は「降った雨がどれだけそこから流出するか」を表す係数であり、土地の利用状況ごとに定められる。例えば同じ面積の宅地と山地に同じ量の雨が降った場合、山地は土中に浸透することで流出が抑えられるが、宅地では土中に浸透することなく流れ出る雨水の量が多い。この係数は流出する雨水が多いほど大きい値となる。具体例として国土交通省の定めた『流出雨水量の最大値を算定する際に用いる土地利用形態ごとの流出係数を定める告示』の流出係数を挙げると、宅地や道路の流出係数が0.9なのに対して、山地は0.3となっている[10]。なお、流出係数に限らないが都道府県や市町村などによって指針などで定められる値が異なるため実際に合理式を用いた計算を行う際は注意が必要である。
流域面積
流域面積はピーク流量を求めたい河川や管渠などに流れ込む総面積である[5]。当然これが広いほどピーク流量は大きくなる。
洪水到達時間に対応する降雨強度
洪水到達時間というのはピーク流量を求めたい地点より上流の流域の中で最も到達時間の長い場所からの到達時間を指す[5]。この到達時間が長いほど洪水到達時間に対応する降雨強度は小さくなる[注釈 2]。つまり合理式は求めたい地点より上流の流域全体に一様な雨が降り続いたと仮定した場合に、上流域すべてに降った雨がその地点を通過し、当該降雨中のピーク水量となる「その流域内の最遠部からの雨水が到達した時の水量」を求めているものである。これに期待値である確率年を考慮した降雨強度を組み合わせることで「〇年に1度の豪雨が降った時のピーク流量」を求めることが出来る。
脚注
注釈
- ^ ピーク流量の推定のための公式としては他に久永式公式、梶山式公式、Possenti公式なども存在する。梶山式公式は朝鮮での調査によって導き出された公式であり朝鮮で使用された。久永式では原始河川などの氾濫面積を考慮しており日本では未改良の河川のピーク流量の推定に用いられたが、現在ではほぼ合理式のみが使われている。
- ^ 降雨量は一定ではないので、降雨の継続時間が長いほど降雨強度は小さい値となる。俗に言う「土砂降り」が1時間降り続くことは滅多にないが、5分ほどの土砂降りはままあることを想像すると分かりやすい。
出典
- ^ 『図解土木用語辞典』1969年。doi:10.11501/12594888 。2025年9月1日閲覧。
- ^ 『河川洪水のピーク流量に関する研究』1961年。doi:10.11501/2493471 。2025年9月1日閲覧。
- ^ 『宅地造成の手引』1960年。doi:10.11501/2492842 。2025年9月1日閲覧。
- ^ 『災害復旧工事の設計要領』1965年。doi:10.11501/2513414 。2025年9月1日閲覧。
- ^ a b c 『実際に役立つ水理計算例』1971年。doi:10.11501/12670369 。2025年9月1日閲覧。
- ^ “合理式法”. 四国地方整備局. 2025年9月1日閲覧。
- ^ “瑞穂市公共下水道全体計画 第7章 雨水計画”. 瑞穂市. 2025年9月1日閲覧。
- ^ 『土木技術 : 社会と土木を結ぶ総合雑誌 29(12)』1974年12月。doi:10.11501/3228072 。2025年9月1日閲覧。
- ^ “第 8 章 排水施設の設計”. 農林水産省. 2025年9月1日閲覧。
- ^ “流出雨水量の最大値を算定する際に用いる土地利用形態ごとの流出係数を定める告示(平成 16 年国土交通省告示第 521 号)”. 国土交通省. 2025年9月1日閲覧。
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