エンブラエル E-Jet E2ファミリー
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E-Jet E2ファミリー
- 用途:旅客機
- 分類:リージョナルジェット
- 設計者:エンブラエル
- 製造者:エンブラエル
- 初飛行:2016/5/23
- 生産数:155(最新情報要確認)
- 生産開始:2016年
エンブラエル E-Jet E2ファミリーは、ブラジルの航空機メーカーであるエンブラエルが設計、製造している小型ジェット旅客機である。エンブラエルE-Jetシリーズの後継となる改良型であり、より燃料効率が高くなったプラット&ホイットニー PW1900Gを採用している。E2シリーズは、3つの派生型で構成されている。これらの機種は、最大離陸重量が44.6〜62.5トン(98,000〜138,000ポンド)で、航続距離は2,000〜3,000海里(3,700〜5,600 km、2,300〜3,500マイル)となっている。
2013年6月のパリ航空ショーで開発が発表され、E190-E2試験機は2016年5月23日に初飛行を行った。2018年2月28日に認証を取得し、4月24日にローンチカスタマーであるヴィデロー航空で運航を開始した。胴体延長型のE195-E2は、2019年4月にアズール・ブラジル航空で運航を開始した。胴体短縮型の E175-E2は、2021年の運航開始を予定していたが、需要不足のため、2027年以降に延期されている。
米国の地域航空会社は、第1世代のE-Jetの主要な顧客だったが、スコープ条項の契約により、E175-E2を購入することができなかった。
E2シリーズのE-190 E2、E-195 E2型機は、エアバス A220型機、特に小型のA220-100と競合している。2024年4月現在、合計 306 機のE-Jet E2が発注され、うち114 機が納入され、すべて運航中である。
開発
背景
2010年代初頭、世界の旅客機市場のトップ2であるエアバスとボーイングが、小型機のエアバスA320neoとボーイング737 MAXの開発を発表したことをうけ、既存のE-jetシリーズでは小型旅客機市場での競争力が低下すると考え、第2世代のE-Jetファミリーを開発することを決定した[1]。
2011年11月、ドバイ航空ショーにおいて、第2世代のE-Jetファミリーの開発に着手したと発表した[2]。当時、エンブラエルは今後20年間で最大130席の6,400機の民間ジェット機の需要を予測していたと報道された。
短胴型のE-175-E2はモノクラス構成で最大88人、標準型のE-190-E2は最大120人、長胴型のE-195-E2は最大150人の定員となっている。2000年代後半、E-195Xと呼ばれる、さらに大型の航空機を研究したが、シリーズで同じエンジンを使用すると性能が低下するため、2010年に計画を破棄した[1]。
E2シリーズに搭載するエンジンを選定する際、GEアビエーション、プラット&ホイットニー、ロールスロイスなどが候補となった。2013年1月、ギア付きターボファンである、プラット・アンド・ホイットニー PW1000GがE2シリーズのエンジンに選定されたことが発表された[3][4][5]。
E2ファミリーは、アルミニウムや炭素素材を使用した翼の使用、比燃料消費量の削減、排出ガスと騒音出力の低減、メンテナンスコストの最小化など、様々な性能に改良が加えられた[6][7][8][9]。
開発は、デジタルシミュレーションを多用して比較的早いペースで行われ、開発発表から3年も経たない2016年5月までに、640件の契約を獲得した。そのうち267件は確定注文、373件はオプション発注だった[6]。
飛行試験

2016年2月25日、E190-E2の試作機が完成し、2016年5月23日、予定より3か月早く初飛行を行った。初飛行では、マッハ0.82で3時間20分飛行し、12,000メートル(41,000フィート)まで上昇した。試験段階は、予想よりも課題が少なく、2018年の第1四半期の導入を計画した[6]。
2016年7月8日、試作2号機が初飛行を行った。この飛行は 2 時間55 分で、無事に完了した。E2シリーズは、初飛行からわずか 45 日後にファーンボロー航空ショーに向けて飛行を行った。
2017年4月までに650時間の飛行試験が予定通り終了し、2017年6月には、飛行試験の半分が完了した[10][11][12]。
E195-E2の最大離陸重量は 61,500 kg (135,600 ポンド) に増加し、航続距離は 2,600 nmi (4,800 km) に増加した。2017年のパリ航空ショーで発表された4機のE190-E2と1機のE195-E2は、900時間以上の飛行試験を行い、2018年1月、2,000時間で試験の98%を完了した。燃料消費量は在来型E190よりも17.3%減少した[13][14][15][16]。
2018年2月28日、ブラジル国家民間航空局(ANAC)、連邦航空局(FAA)、欧州連合航空安全庁(EASA)から型式証明書を交付された。。E195-E2は、2019年4月に型式認証を取得した[17][18]。
製造

自動車工場において、同じラインで複数のモデルが生産されていることを参考にし、2018年末までに、在来型のE175/190/195とともに、E190-E2/195-E2を月間8機のペースで製造することを計画した[19]。
キャビンなどについても、設計プロセスの比較的早い段階で生産の観点から検討され、外部サプライヤーの採用も検討された[20]。
2017年11月、2018年の計画においてE2シリーズが旅客機納入の10%を占めると予測した。 エンブラエルは、エアバスA220を重く高価で長距離向けの航空機であるとし、E2シリーズが市場シェアの大部分を獲得することを期待した[21][22][21]。
2022年、エンブラエルは生産規模拡大に取り組み、自動車メーカーのトヨタと提携して、生産効率向上を図った。その成果もあって、同年の第4四半期には、納入機数は80機に急増し、エンブラエルの通年の納入機数は2021年の141機から159機に増加した[23][24]。
導入

型式認証後、2018年4月、E190-E2初号機がローンチオペレーターのヴィデロー航空に納入された。続いてエアアスタナ、北部湾航空に納入された[25]。
2024年3月現在、ブラジル、アメリカ、欧州の規制当局からETOPS 120の承認を受けている[26]。
ボーイング・エンブラエルの合弁事業
2017年12月、ボーイングとエンブラエルが合併協議を開始し、2018年7月5日、ボーイングが株式の80%を保有する合弁会社を設立するための覚書を発表した。ボーイングはE-JetやE-Jet E2などの小型航空機を自社に取り込む意向があり、エンブラエルはボーイングのマーケティング力を必要としていたため、利害が一致したと報道された[27][28][29]。2019年2月26日、エンブラエルの株主によって合弁が承認され、規制当局の承認を待つ状態となった。
しかし、2020年4月24日、ボーイングはエンブラエルが契約の条件を満たしていないとして契約を一方的に終了した。
運用履歴
- 2018年12月3日、エアアスタナは、E190-E2初号機を受領した。
- 2019年10月31日、ヘルベティック航空は、E2型機を世界で4番目に受領した。この会社には、110席のモノクラス仕様で納入された。
- 2019年11月21日、ビンター・カナリアは、E2型機を世界で5番目に受領した。この会社には、E195-E2を132席のモノクラスで納入された。
- 2019年12月30日、キリバス航空がE190-E2型機を2機発注し、、92席(ビジネスクラス12席、エコノミークラス80席)の2クラス仕様で受領した。
派生型
E175-E2
E-Jet次世代シリーズで80席クラスの設計で最小タイプ。これまでのE175から1列増席し、メーカー規格で88席配置可能。機体規模からMitsubishi SpaceJetと競合し、当初、2020年引き渡し計画だったが2016年12月1日に米国内大手エアラインとパイロット組合の労働協約の中に設けられている地域航空会社の運航条項(スコープ・クローズ)の合意が2019年に交渉により見直される可能性があるため2021年に延期し運航条項適合を目指すことを発表。2019年12月12日初飛行[30]。2021年になり同条項改定が見込めないので2024年以降運用開始へ再延期され、2022年2月18日には開発を一時停止し、2025年頃開発再開2027年以降運用開始を見込んでいる[31]。
E190-E2
E190をベースとする新機種で、メーカー規格で座席数は2クラスで97席、モノクラスで106席配置可能。航続距離はE190より延長されて5,200km。2016年2月25日に完成し、同年5月23日初飛行を行った。2018年3月、型式証明をANAC(ブラジル民間航空国家機関)とFAA(米国連邦航空局)、EASA(欧州航空安全局)から取得した[32]。2018年4月に初号機を納入した[33]。

E195-E2
E195を2.85m延長し、客室座席は3列増となり、メーカー規格で2クラスで120席、モノクラスで132席配置可能。機体規模からボンバルディアC シリーズCS100(現:エアバスA220-100)と競合。2017年3月7日ロールアウト[34]、2019年引き渡し計画。
2024年7月23日、ファーンボロー国際航空ショーで、E195-E2の性能アップグレードを発表し、燃料消費量は2.5%改善され、MTOWは62,500kgに増加した。これらの変更により、航続距離が 2,600 nmi から 3,000 nmi に拡大された。
仕様
派生型 | E175-E2 | E190-E2 | E195-E2 |
---|---|---|---|
乗務員 | 2 | ||
標準座席数 | 80(J12+Y68) | 97(J9+Y88) | 120(J12+Y108) |
最大座席数 | 90 | 114 | 146 |
座席幅 | 46 cm (18.3 インチ) | ||
胴体長 | 32.40 m (106 フィート 4 インチ) |
36.25 m (118 フィート 11 インチ) |
41.51 m (136フィート2インチ) |
高さ | 9.98 m (32 フィート 9 インチ) |
10.96 m (35 フィート 11 インチ) |
10.91 m (35 フィート 10 インチ) |
翼長 | 31.39 m (103 フィート 0 インチ) |
33.72 m (110フィート8インチ) |
35.12 m (115フィート3インチ) |
翼面積 | 82 m2 (880 平方フィート) | 103 m2 (1,110 平方フィート) | |
最大離陸重量 | 44,600 kg (98,300 ポンド) | 56,400 kg (124,300 ポンド) | 62,500 kg (137,800 ポンド) |
最大燃料 | 8,522 kg (18,788 ポンド) | 13,690 kg (30,180 ポンド) | |
最高速度 | マッハ 0.82 (473 kn、876 km/h、544 mph) @ 35,000 フィート (11,000 m) | ||
巡航速度 | マッハ 0.78 (450 kn; 833 km/h; 518 mph) @ 35,000 フィート (11,000 m) | ||
エンジン(*2) | プラット・アンド・ホイットニー PW1700G | プラット・アンド・ホイットニー PW1900G |
参照
- ^ a b “The shaping of Embraer's Second Generation E-Jets: "E2"”. theflyingengineer.com (2013年10月21日). Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
- ^ Trimble, Stephen (2011年11月10日). “Embraer commits to re-engined E-Jets”. Flightglobal
- ^ Ostrower, Jon (2012年3月20日). “E-Jet revamp promises three-way engine 'dogfight'”. Flightglobal
- ^ Polek, Gregory (2013年1月14日). “Embraer Turns True Believer in Pratt's GTF”. AINonline. オリジナルの2020年10月20日時点におけるアーカイブ。 2016年5月20日閲覧。
- ^ “Embraer To Re-engine E-Jets with Geared Turbofan”. AIN Online (2013年1月8日). 2022年9月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年6月5日閲覧。
- ^ a b c Jean L. (2016年5月31日). “Embraer's First E190-E2 Jet Takes off Early”. mobilityengineeringtech.com. Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
- ^ “Embraer Selects Pratt & Whitney's PurePower Engines for Second Generation of E-Jets” (Press release). Embraer. 8 January 2013.
- ^ Haynes, Brad (2013年6月17日). “Embraer launches next E-Jets to strong demand, SkyWest orders up to $9.4 billion”. Paris: Reuters 2013年6月19日閲覧。
- ^ “Embraer Launches "E2", the Second Generation of E-Jets” (Press release). Embraer. 17 June 2013.
- ^ “E190 E2 Makes its International Debut at the Farnborough Airshow” (Press release). Embraer. 10 July 2016.
- ^ Hemmerdinger, Jon (2017年4月27日). “Embraer predicts 99% first-year schedule reliability for E2”. Flight Global
- ^ “Embraer adds range to E190/95 E2s”. Leeham. (2017年6月2日)
- ^ Hemmerdinger, Jon (2017年6月2日). “Embraer boosts range figures for E195-E2s and E190-E2s”. Flightglobal
- ^ “Civil Aviation Programs To Watch”. Aviation Week & Space Technology. (2017年6月9日)
- ^ Karp, Aaron (2017年7月28日). “Embraer swings to $69.5 million 2Q net profit; E2 testing progressing”. Aviation Week Network
- ^ Norris, Guy (2018年1月19日). “Embraer Targets Improved E190-E2 As Certification Nears”. Aviation Week Network
- ^ Gubisch, Michael (2019年2月19日). “Embraer receives first production engines for E195-E2”. FlightGlobal
- ^ Hemmerdinger, Jon (2019年4月15日). “Embraer's E195-E2 receives type certification”. Flightglobal
- ^ Trimble, Stephen (2017年10月9日). “Embraer primes factory for hybrid E-Jet production system”. Flightglobal
- ^ Eden (2019年12月13日). “Embraer E-Jet E2 cabin: Evolutionary design”. aviationbusinessnews.com. 2023年6月5日閲覧。
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- ^ Trimble, Stephen (2017年11月3日). “Embraer comes of age with the E190-E2”. Flightglobal
- ^ Flottau, Jens (2018年3月20日). “Embraer Ventures Out of the Box With E2 Family”. Aviation Week & Space Technology
- ^ Hemmerdinger (2023年2月17日). “Embraer's deliveries surged in final months of 2022”. flightglobal.com. Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
- ^ Perry, Dominic (2018年2月5日). “Initial E-Jet E2s to require engine update”. Flightglobal
- ^ “Embraer's E2 Cleared for ETOPS-120 Operations” (2024年3月14日). Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
- ^ “Boeing and Embraer Confirm Discussions on Potential Combination” (Press release). 21 December 2017.
- ^ “Boeing and Embraer to Establish Strategic Aerospace Partnership to Accelerate Global Aerospace Growth” (Press release). 5 July 2018.
- ^ “Boeing deal, "crucial to Embraer survival," in doubt”. Leeham News. (2018年12月6日)
- ^ “E175-E2、初飛行に成功 三菱スペースジェット競合”. Aviation Wire. (2019年12月18日) 2019年12月18日閲覧。
- ^ エンブラエルE175-E2開発、3年間停止 スコープ・クローズの影響
- ^ “エンブラエル、E190-E2が形式証明取得 4月就航へ”. Aviation Wire. (2018年3月5日) 2019年4月17日閲覧。
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: CS1メンテナンス: 先頭の0を省略したymd形式の日付 (カテゴリ) - ^ “エンブラエル、E195-E2ロールアウト 数カ月以内に初飛行”. Aviation Wire. (2018年3月8日) 2019年4月17日閲覧。
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