婚外子国籍訴訟 第1審の判断

婚外子国籍訴訟

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/07 07:26 UTC 版)

第1審の判断

(A)事件の第1審である東京地裁判決は、次のように判示した[1]

国籍法3条1項の合理性について

(1)国籍法3条1項が準正を国籍取得の要件とした部分は、日本国民を父とする非嫡出子に限って、その両親が婚姻をしない限り、法律上の親子関係が認められても、届出により日本国籍を取得することができないという、非嫡出子の一部に対する大きな区別と不利益をもたらすこととなり、(2)同項が準正要件を設けた理由は、国籍取得のために、当該非嫡出子と我が国との強い結び付きないし帰属関係の存在を要求し、これを認めるための指標として、日本国民である父との家族関係ないし生活の同一性を想定し、これを法律上の婚姻という要件として定めることによって、法定化したものと考えられるところ、(3)国籍取得のために子と我が国との強い結び付きないし帰属関係を要求することは、我が国の国籍法上、父母両系血統主義と並び立つような重要な理念であるということはできず、(4)また、法律上の婚姻の成否によって、日本国民である父との生活の同一性の有無を一律に判断したり、生活の同一性の有無によって、我が国との強い結び付きや帰属関係の有無を一律に基礎付けることもできず、(5)法律婚の尊重、基準の客観性、偽装認知のおそれ及び各国の法制度という観点から見ても、いずれも上記区別を十分合理的に根拠付けることはできず、法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反する。

国籍法3条1項が違憲となる範囲について

法律の規定は、できるだけ合憲的に解釈すべきであるから、同項のうち、一部を違憲無効と解することで足りるのであれば、そのように解するにとどめるのが相当であるというべきである。

しかるところ、既に判示したところによれば、国籍法3条1項の全部を合憲有効と解することはできない。他方、同項の全部を違憲無効とすれば、出生時に法律上の親子関係が認められる場合の国籍の取得が認められるのみで、血統主義を採りながら、出生後に法律上の親子関係を認められた子の国籍取得の余地は全くなってしまう。そして、前示のとおり、生後認知を出生後の事由として国籍の取得原因とすることには合理性があることや、既に認定判断してきたところによれば、国籍法3条1項を制定した立法者の最大の眼目は、国籍取得の要件を拡大して、父母両系血統主義を拡充し、日本国民の実子は日本国籍を得られるであろうという国民的な期待にこたえることにあったと考えられることに照らすと、その拡大、拡充に不十分な点があるからといって、国籍法3条1項の全部を違憲無効と解することは不合理であり、むしろ立法者の意思に反するというべきである。

このように考えると、前示のとおり、国籍法3条1項は、父母両系血統主義を採る同法2条1号による国籍の付与を更に拡充する規定であり、同号は法律上の親子関係を要求するものの、父母の婚姻関係まで要求していないことにもかんがみれば、同法3条1項における中核的な要件は、日本国民である父又は母から認知された子という部分(条文の文言としては、「認知により…(中略)…身分を取得した子」と同項後段の部分)であって、準正要件は、重要ではあるものの、中核的なものではないと解するのが相当である。

以上によれば、上記両部分が本来的に可分であり、準正要件については合理性が認められず、また、準正要件は中核的なものではないと解される以上、国籍法3条1項のうち、準正要件を定める部分のみを違憲無効と解すべきである。

仮に、このような規定の一部分の違憲無効を認めないとすると、国籍法3条1項が憲法14条1項に違反して無効であるとしても、非準正子たる原告らの国籍が認められる余地はなくなってしまい、原告らは、同項全体が違憲無効であるとして被告の立法不作為を争うしかなくなるが、これは余りに迂遠であり、結局、原告らに対し実質的な救済までの道を長くすることとなり、相当とはいえないと考える。

以上によると、国籍法3条1項の規定は、準正要件を定める部分、すなわち条文の文言でいえば、「婚姻及びその」並びに「嫡出」の部分に限って憲法14条1項に違反し、違憲無効であるというべきである。







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