基礎的財政収支
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/01 02:28 UTC 版)
基礎的財政収支に関連した経済学的定理
(1) ドーマー条件
ドーマー条件とは,利子率と経済成長率を比較し,利子率が経済成長率よりも 低ければ,財政は破綻せずに安定化に向い,逆に,利子率が経済成長率よりも高ければ,財政破綻へと導かれてしまうという,財政の安定性 をチェックするための重要な条件である。[26]
債務対GDP比をbとし、今期のbの増分をΔbtとし、Δbtの前期のbに対する比を∂Δbt/∂bt-1と表記すると、「利子率 (rt)が経済成長率(ηt)を上回れば,∂Δbt/∂bt-1 は正の値をとり,国債発行の対 GDP 比(Δbt) は増加,財政赤字の発散(不安定化)を導くことになる。逆に,利子率が経済成長率を下回れば,国債発行の対 GDP 比率は減少していくことになり,財政赤字は解消する(安定化する)。[26] 」と、ドーマー条件は示している。
すなわち、財政の安定性に基礎的財政収支は無関係であり、利子率と経済成長率だけが関係すると、ドーマー条件は示している。
基礎的財政収支が均衡しても名目経済成長率よりも名目金利が高ければ、政府債務残高の名目GDP比は上昇し続ける。骨太の方針を巡っては、名目経済成長率と名目金利のどちらが高いかが議論となった。
中長期の経済財政に関する試算との関係
内閣府は経済財政諮問会議に対して、「中長期の経済財政に関する試算」を提供して基礎的財政収支の対GDP比を含む様々な経済と財政の指標が、ベースラインケースと成長実現ケースにおいてどのように推移するかと言う試算を提供している。[27][28][29][30][31][32][33][34][35]
「中長期の経済財政に関する試算」を基礎データとして基礎的財政収支の改善,デフレ脱却,名目GDPの成長目標のための政策を経済財政諮問会議では討議しているが、2022年になって経済財政諮問会議の民間議員からは、「中長期の経済財政に関する試算」の信頼性が落ちているとの趣旨の下記(1)に記載の指摘や、内容の改善を求めるとの趣旨の下記(2)に記載の指摘があがってきている。
(1)明るい未来とそれに向けた道筋を示すことは大変重要であり、試算が楽観的になりがちなのは分からないでもないが、過去の試算の実現度合いを見れば、 試算の信頼性が落ちていると思わざるを得ない。現実を直視することもとても 重要。先ほど柳川議員がおっしゃったように、過去の試算と異なり今回は実現 できるというなら何故できるのか、民間との試算の違いは何なのか、しっかりとマーケットと向き合ってコミュニケーションをする必要性があるのではない か。[36]
(2)中長期試算に示された道筋を確固たるものとする観点から、ベースラインケースについて、 日本経済の潜在力や財政の道筋について的確に現状を反映するほか、将来の選択肢を加味する等により、成長実現ケースへの移行に必要な政策対応の検討に資するべき。[37]
プライマリー・バランス黒字化目標に対する各種見解
経団連は、「財政政策が過度に緊縮的にならないために、日本の異常な財政運営方法を、グローバルに行われている普通の形にする必要がある。修正すべきは、①プライマリー・バランスの黒字化目標と、②国債の60年償還ルールである。この二つの異常な財政運営方法が、日本の 財政政策を異常な緊縮にしてしまう原因となり、日本経済がデフレ構造不況から脱却することの障害になっている。」と述べている。[38]
藤井聡は、「プライマリー・バランス(PB)黒字化目標こそが今の日本の衰弱と財政悪化を導く元凶となっている」と指摘している[39]。
1997年におこなった消費増税によって、日本経済はデフレに陥り「衰退途上国」となった[11]。
「プライマリー・バランス改善」が、デフレを持続させている[11]。
「財政再建のためにPB(プライマリー・バランス)を黒字化せよ」と叫び、それを実行したせいで、かえって景気が冷え込んだ[40]。
竹中平蔵は「名目GDP成長率が名目金利よりも高かった場合、基礎収支が赤字でなければ、財政破綻は回避できる」と指摘している[41]。竹中は「通常の場合、金利よりもGDPの伸びは高くなるため、(経済成長すれば)財政健全化が進むこととなる。しかし、プライマリーバランスが赤字のままだと、財政破綻する懸念が高まる。重要なのは、金利を支払う前の財政収支をゼロ以上にし、国債残高が増えないようにすることである。金利の方が経済成長率よりも高い場合はこの通りにはいかないが、通常は金利以外に新規の国債発行をしないようにすれば、債務の負担は年々相対的に減ることとなる」と指摘している[42]。
飯田泰之は、プライマリー・バランスの赤字は、名目成長率を高めれば税収が増えてやがて黒字化に向かうが、社会保障についてはそのことと別に考えなければならないと指摘している[43]。
岡部直明は「OECD諸国で、財政目標をプライマリー・バランスに置いている国は日本以外存在しない。国債の利払い・発行を含めた財政収支の対GDP比、長期債務残高の対GDP比が国際比較の基準となっている。財政の出口戦略としては、財政目標をプライマリー・バランスではなく、国際基準に見合った目標に変えていくべきである」と指摘している[44]。
プライマリーバランス黒字化目標についてのインターネット上の検索結果を示す。
注釈
出典
- ^ “基礎的財政収支とは何ですか。何が分かりますか”. 財務省. 2020年10月3日閲覧。
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- ^ “用語の解説(財政資金対民間収支)”. 財務省. 2021年12月9日閲覧。
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- ^ 衆院予算委:安倍首相「財政健全化目標は国際公約と違う」毎日新聞 2014年10月30日
- ^ 政治・社会 【日本の解き方】 「高成長でも赤字」強調して何が何でも増税に導く財政当局の思惑((1/2ページ)ZAKZAK 2015年2月18日
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