FADEC
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/16 06:54 UTC 版)
動作
FADECは電気系統によるセンサー類の入力と機体制御システムから求められるエンジン動作状況に基づいて、ECU内部で演算を行い、電気系統や電気系統と通じた油圧系統を電気的に制御信号を出力することでエンジン動作を制御する。具体的にはエンジン回転数やエンジン各部の温度といったセンサー情報と燃料計量弁の開閉度制御、イグニッションユニットの制御、可変静翼アクチュエーターの制御などである。
2重冗長構成になっているFADECでは、通常、1系統がエンジン制御を担当していて、この動作不良時に自動や手動によって待機状態に置かれていたもう1つの系統にエンジン制御が切り替えられる。FADECのECUはウォッチドッグタイマーのような自己診断機能によって常時自己診断されており、多くの場合、自己異常を自ら検知してそれが制御担当状態ならエンジン制御が他方へ切り替えられる。2系統ともが異常となれば機能不全がより少ない系統で制御が行われるようにプログラムされているものもあるが、いずれにしてもあらゆる動作不良に対応できるものではない。2系統の不良でもエンジンは危険な状態にならないように工夫されている。
機体の空力制御を行う機体制御システムでは3重や4重の冗長性を備えるものも珍しくないので、2重までのFADECはそれほど高い冗長性は持っていない。
21世紀の今日では、FADECを機体制御システムと統合することで航空機のさらなる運動性の向上を求めた飛行・推進系統合制御(Integrated Flight and Propulsion Control, IFPC)のシステム開発が進められている。戦闘機では推力偏向ノズルがその具体的な応用例であり、ヘリコプターでも大小ローターの負荷変化の初期段階からエンジン制御を行う[注釈 6]ことで運動性能向上が意図されている。
注釈
- ^ 制御用デジタルコンピュータ部は、Electronic Control Unit (ECU)、または Electronic Engine Control (EEC)と呼ばれる。[5]
- ^ 油圧機械式のエンジン制御装置は油圧機械式制御装置(Hydro-Mechanical Control Unit, HMU)と呼ばれる。
- ^ HMUによるエンジン制御装置では、機械的な回転や空気や燃料の圧力がHMUに伝えられ、こういった少ない入力に基づいて適切な燃料供給を行えるように弁を制御し、可変静翼を調整していた。HMUでは単純な制御しか行えず、定常運転時での良好な燃費に対応して、始動・停止時や加速・減速状態での細かな調整は行えず、ただ安全に運転できるような最低限度の制限制御が備わっていた。例えばジェットエンジンの制御では低圧軸と高圧軸の2軸の回転数制御でも強度的な制限によって高圧軸回転数のみを制限した。
- ^ 油圧機械式にアナログ電気式、またはデジタル電気式の電子制御を加えたエンジン制御は電子油圧機械式制御(Electro-Hydro-Mechanical Control)と呼ばれる。日本の自衛隊で2009年現在も使用されているT4 練習機のF3 エンジンも電子油圧機械式制御である。
- ^ 電子部品としてのECUは2系統であっても、それらを収めるECUの筐体は1つにまとめられている場合が多く、ECUは1つという表現も成り立つ。通常、コントロール・プログラムは2つのECUともに同一であるため、その不良は大きな危険を招く。コントロール・プログラムのプログラミングは正確性・確実性が求められる。
- ^ 2009年現在の一般的なジェットヘリコプターでは、機体運動そのものに関係なくターボシャフトエンジンの回転数を一定値に収めるようにFADECが制御しているため、上昇や加速に伴ってエンジン負荷が増し回転数が低下し始めてからそれを補うために燃料供給が増やされる。このフィードバック制御に代わってフィードフォワード制御を行えば機体の運動性能が向上すると考えられる。
出典
- ^ a b c d FAA, p. 6-19.
- ^ a b 「飛行機の百科事典」, pp. 366–367.
- ^ a b c 山根, 松永 & 草川 2008, p. 80.
- ^ 日本航空宇宙工業会 2007, p. 342.
- ^ a b c 「飛行機の百科事典」, p. 367.
- ^ a b c 防衛技術ジャーナル編集部 2005.
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