シベリアのシャーマニズムとトナカイ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/17 09:41 UTC 版)
埋葬の儀礼
一般にいけにえは「聖なる場所」で捧げられ、通常は森の中の聖域と定めた茂みや、精霊や神の住まいとされる木のうろを指す。捧げものにはトナカイの皮、ひづめ、角を用意して木の枝に吊るし、神にトナカイを丸ごと一体、供した象徴とする[12]。死者には次の世界へ渡るため乗り物が必要と考える文化は多く[21]、シベリアの人々が地域でいちばん大型の使役と乗用のトナカイを指して死者を送る生き物と見なすのも理にかなっていると言えよう[22]。
ハンティ人
墓所にトナカイの角をうず高く重ねた例をよく見る[1]。
ユグラ
ユグラ(Yugra)[注 3]の人は埋葬地へ遺体を運ばせたトナカイが墓所に着くと、縛り上げてほふる。頭部は (角を付けたまま) 家型の墓所の屋根に飾り、解体した皮に身体の骨を包むと墓所の左側に安置する[23]。
エヴェンキ
地底界の精霊を信じるエヴェンキの人は地中に埋葬せず、遺体を包むトナカイの革を縫い閉じると竿から吊るす[24]。
チュクチ
チュクチの人々にとって葬送とは地下世界へ旅立つ死者を途中まで送ることを意味する。まずシャーマンが死者の希望する埋葬地を聞き取る。テントに安置された遺体は、故人の友人が煙出し穴または出入り口の反対の天幕をめくって運び出し、新調もしくは修繕したばかりの橇(そり)に載せて縛り付け、トナカイにひかせて埋葬地へ進む。葬列が目的地に着くとトナカイを橇から解いて急所を刺し、再び橇につなぐ。すると葬列の主導者が手綱を取り、鞭を鳴らして死者の国へ向けて橇を走らせる様を演じ、トナカイが絶命するとほふって死骸は索具と橇とともに埋葬地に残す。革は遺族が持ち帰り住まいのテントの床に敷くが、死者が地下世界から戻ってこないように、鉄製品で重石をする[25]。また「角の儀式」と呼び、自分たちが飼っているトナカイ全頭の角を切って集める。運べないほどの数がまとまるとうず高く積み上げ、その前でいけにえを捧げる[1]。
注
出典
- ^ a b c d Malandra 1967, p. 60.
- ^ Willerslev 2007, p. 120.
- ^ Solovyova 1997, pp. 41–42.
- ^ Solovyova 1997, p. 42.
- ^ Malandra 1967, p. 23–69.
- ^ Malandra 1967, p. 59.
- ^ Jacobson 1993, p. 175.
- ^ Malandra 1967, p. 57.
- ^ Malandra 1967, p. 58.
- ^ Sem 1997, pp. 45-46.
- ^ Bogoras 1902, p. 636.
- ^ a b Malandra 1967, p. 52.
- ^ Malandra 1967, p. 53.
- ^ a b Wiget, Balalaeva 2001, p. 85.
- ^ Wiget, Balalaeva 2001, p. 86.
- ^ Wiget, Balalaeva 2001, p. 87.
- ^ a b Wiget, Balalaeva 2001, p. 90.
- ^ Wiget, Balalaeva 2001, p. 94.
- ^ Malandra 1967, p. 46.
- ^ Malandra 1967, p. 47.
- ^ Malandra 1967, p. 53.
- ^ Malandra 1967, p. 62.
- ^ Malandra 1967, p. 65.
- ^ Lincoln 1994, p. 52.
- ^ Malandra 1967, pp. 63–64.
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