SYNCROOMとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > SYNCROOMの意味・解説 

SYNCROOM

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/09/19 23:54 UTC 版)

SYNCROOM
開発元 ヤマハ
初版 2020年6月29日
対応OS Windows、macOS、iOS、iPadOS、Android(β版)
種別 オンライン遠隔合奏サービス
公式サイト syncroom.yamaha.com
テンプレートを表示

SYNCROOM(シンクルーム)は、ヤマハが開発・提供する、インターネット回線を介した低遅延の音声通信によって遠隔地にいる利用者同士の合奏を可能にするオンライン遠隔合奏サービスである[1]。

前身はヤマハが研究開発・実証実験として提供していた「NETDUETTO(ネットデュエット)」で、2011年に一般向けβ版が公開された[2]。2020年6月29日に「NETDUETTO β2」を刷新する形でSYNCROOMの正式サービスが開始された[3]。

概要

一般的な音声通話やウェブ会議とは異なり、音楽の合奏で問題となる音声の遅延を可能な限り抑えることを目的として設計されている[4]。楽器やマイクから入力された音声を利用者間で双方向に送受信し、遠隔地にいる演奏者同士がリアルタイムに近い状態で演奏することを想定している。

サービス開始時にはWindows版とmacOS版が正式版として公開され、Android版は研究開発中のβ版として公開された[3]。その後モバイル版の開発も進められ、iOS・iPadOS版も提供されている。Android版は2026年時点でもβ版として提供されている[5]。

2024年6月に公開されたVer.2.0ではユーザーインターフェースが刷新され、1つのルームに同時接続できる拠点数が従来の5拠点から6拠点に拡大された。ルーム連結機能を用いた場合は最大12拠点まで接続できるほか、事前にルームを作成・公開できる「MY ROOMS」機能などが追加された[6]。2026年9月時点で、デスクトップ版のサービス対象地域は日本と韓国である[5]。

技術

SYNCROOMの基礎となったNETDUETTOは、家庭用のインターネット回線を利用しながら、音楽の合奏に支障となるネットワーク遅延と音声処理の遅延を抑制することを目的として開発された。

開発担当者の原貴洋らが2020年に『JAS Journal』で説明したところによれば、NETDUETTOの技術要素には「端末間の接続性の確保」「接続コンディションの計測」「音声データのバッファサイズの極小化」「音声データフローの安定化」がある[7]。受信側が回線状態を計測し、音声バッファを可能な範囲で小さく保ちながら安定性とのバランスを調整する方式を採る。同資料では、回線条件が良好な場合、音楽合奏が成立し得る片道遅延の範囲として20~35ミリ秒程度を挙げている[7]。

接続時にはサーバーがセッション参加者の接続先を仲介するが、音声通信自体は端末間で直接行われるP2P方式が採用されている。2010年のNETDUETTOアルファ版についても、接続開始後は端末間通信となる仕組みが報じられている[8]。SYNCROOMのFAQでも、ルーム情報の管理にはサーバーを使用する一方、音声データは原則として端末間で直接送受信すると説明されている[9]。

2010年に『AV Watch』の藤本健が東京から浜松の開発担当者との接続を試験した際には、一方向28ミリ秒、反対方向30ミリ秒と表示され、44.1 kHz・ステレオ・非圧縮設定でも通信が成立したと報告されている[8]。ただし遅延量は物理的距離、通信事業者、回線混雑、利用するオーディオ機器などによって変化する。

2018年にはNETDUETTOがIPv6に対応し、ITmediaはこれによってさらなる低遅延化が可能になったと報じた[10]。

開発史

前史

ヤマハではNETDUETTO以前から、電子楽器とネットワークを組み合わせた研究が行われていた。2003年12月の「TRONSHOW2004」では、ネットワーク経由で映像とMIDIデータを交換し、離れた場所にある電子ピアノ間で演奏やレッスンを行う「iSession」が実演された[11]。

2004年の『PC Watch』によるヤマハ取材では、後にNETDUETTOの開発を担う原貴洋らが、ネットワーク越しの音楽セッションに関する研究を進めていたことが報じられている。当時は通信遅延やパケット損失への対処に加え、通常の合奏に存在する視線や身ぶりなど、音声以外の情報をネットワーク環境でどのように補うかについても研究されていた[11]。

NETDUETTOに直接つながる実験としては、2005年の「WPC EXPO」で2つのステージをネットワークで接続する合奏が実演された。この時点では音声そのものではなくMIDIデータをローカルネットワーク上で伝送する方式であった[8]。2006年1月の米国「Winter NAMM」では、カリフォルニア州アナハイムのホテルとディズニーランドを接続した同様のセッションが実施された[8]。

一方、一般家庭のインターネット回線を使った音声そのもののリアルタイム伝送については、当時は困難とみなされていた。原は2008年から個人的な実験として音声伝送を試み、実用化の可能性が見えたことから社内の協力者を得てプロジェクト化したと、2018年のITmediaの取材で述べている[10]。

NETDUETTO

2010年3月、ヤマハの研究開発プロジェクト「Y2 PROJECT」が開催した「Y2 SPRING 2010」でNETDUETTOが披露された[8]。当時はWindows向けのアルファ版で、ASIO対応オーディオインターフェースとFTTHまたはADSL回線を利用する構成であった。同年2月から一部利用者によるテストが始められており、1つのセッションには最大4人が参加できた[8]。

2011年1月6日には「NETDUETTO β」のWindows版が一般向けに無償公開された[2]。同月8日にはニコニコ生放送がNETDUETTOを利用した「ニコ生セッション♪」を開始し、生放送の参加者同士が遠隔合奏し、その音声をライブ配信できるようになった[12]。同年6月にはmacOS版も公開された[13]。

2016年には「NETDUETTO β2」へ更新された。開発担当者らは後年、一般利用者による実証実験のフィードバックや、ヤマハの音響・ネットワーク関連技術を取り入れて調整を重ね、β2の時点でソフトウェア技術として一定程度確立したとしている[7]。

5Gを用いた実証実験と外部企業との連携

NETDUETTOは、低遅延を特徴とする5Gを用いた遠隔演奏の実証にも利用された。

2019年2月にスペイン・バルセロナで開催された「MWC19 Barcelona」では、NTTドコモとヤマハによる「5G Cyber Jam Session」が展示された[14]。離れた場所にいる演奏者の映像をNTTの高臨場映像技術と5Gを用いてステージ上に表示し、音声伝送にはNETDUETTOが用いられた。『BCN+R』は現地から、このデモについて音声のバッファリングを最適化するNETDUETTOをヤマハが提供したと報じている[14]。NTTドコモも同展示を「離れた場所から仲間と音楽セッション」する5Gのユースケースとして紹介した[15]。

同年12月21日には、ヤマハとソニーグループが東京都品川区と静岡県浜松市を結び、小学生を対象とした遠隔バンド演奏の体験イベントを実施した。音声伝送にNETDUETTO、通信回線にソニーネットワークコミュニケーションズの「NURO光」、映像にはソニーのプロジェクターと映像伝送技術が使用された[16]。

SYNCROOMへの移行

2020年4月9日、ヤマハはNETDUETTO β2の後継となる正式サービスとしてSYNCROOMを同年6月ごろに公開すると発表した[1]。従来の遠隔合奏機能に加え、メトロノーム、録音、リバーブなどの機能が追加され、従来の匿名利用からアカウント登録制へ移行した[3][7]。

同年6月29日、Windows版とmacOS版が正式公開され、同時にAndroid向けβ版も公開された[3]。当時は新型コロナウイルス感染症の流行により、ライブやリハーサルなど複数人が集まって行う音楽活動が制約を受けており、前身のNETDUETTOを含む遠隔合奏技術への関心が高まっていた[4]。

2023年6月には韓国でも正式サービスを開始した[17]。韓国での正式提供については韓国の『CNET Korea』も報じた[17]。

2024年6月11日にはデスクトップ版Ver.2.0が公開され、デザインやルーム管理機能の刷新、同時接続数の拡大などが行われた[6]。

利用と研究

SYNCROOMは一般のオンラインセッションだけでなく、音楽教育や遠隔地間の音楽活動を扱う研究・実践でも利用されている。

日本音楽教育学会の学会誌『音楽教育学』に2023年に掲載された酒井勇也・四童子薫・平山裕基による報告では、前年の共同企画でSYNCROOMを活用した「リアルタイム型遠隔アンサンブル」の実演と実践報告を行い、教育現場における可能性を検討したことが記されている[18]。

酒井はその後、同期型遠隔アンサンブルを大学吹奏楽部の管打楽器奏者による独奏演奏会に活用した事例を扱う論文「同期型の遠隔アンサンブルを活用した演奏会の実現―大学吹奏楽部の管打楽器奏者を対象とした独奏演奏会を事例に―」を『音楽学習研究』第20巻に発表しており、宮崎大学の研究者データベースでは査読付き論文として登録されている[19]。

また、SYNCROOMはVRChatなどのバーチャル空間で活動する音楽コミュニティにも利用されている。2026年の『Real Sound Tech』による原貴洋らへの取材では、VRChat上のライブハウスや音楽コミュニティでSYNCROOMを用いたセッション文化が形成され、ヤマハ側が利用実態を後から認識した経緯が紹介されている[20]。

評価

SYNCROOMは「2020年日経優秀製品・サービス賞」で最優秀賞を受賞した[21][22]。ヤマハ製品・サービスの同賞最優秀賞受賞は、1994年の「サイレントピアノ」以来26年ぶり、3度目であった[22]。

脚注

  1. 1 2 “ヤマハ、遠隔地同士でもリアルタイムに合奏できる「SYNCROOM」 NETDUETTO後継として”. ITmedia NEWS. アイティメディア (2020年4月9日). 2026年9月20日閲覧。
  2. 1 2 “離れていても音楽セッションできる――ヤマハ「NETDUETTO」β版無料公開 ニコ生も対応へ”. ITmedia NEWS. アイティメディア (2011年1月6日). 2026年9月20日閲覧。
  3. 1 2 3 4 “「離れていても音でつながる」 ヤマハのリモート合奏サービス『SYNCROOM』ついにスタート”. ヤマハ (2020年6月29日). 2026年9月20日閲覧。
  4. 1 2 “遠隔合奏のために、音質、低遅延に全振りしたいと思います ヤマハ「SYNCROOM」始動、開発の狙いを聞いた”. ITmedia NEWS. アイティメディア (2020年6月29日). 2026年9月20日閲覧。
  5. 1 2 “ダウンロード”. SYNCROOM. ヤマハ. 2026年9月20日閲覧。
  6. 1 2 “デザインをリニューアルし、より交流が楽しみやすくなる機能を追加した リモート合奏サービス「SYNCROOM」Ver.2.0を公開”. ヤマハ (2024年6月11日). 2026年9月20日閲覧。
  7. 1 2 3 4 野口真生、原貴洋「オンライン遠隔合奏アプリケーション(SYNCROOM)―場に縛られる合奏活動の解放で新しい音楽文化の醸成に挑戦―」『JAS Journal』第60巻第3号、日本オーディオ協会、2020年5月、5-9頁、2026年9月20日閲覧。
  8. 1 2 3 4 5 6 藤本健. “第410回:ネット経由でセッション、Y2 PROJECTの「NETDUETTO」”. AV Watch. インプレス. 2026年9月20日閲覧。
  9. ↑ “よくあるご質問”. SYNCROOM. ヤマハ. 2026年9月20日閲覧。
  10. 1 2 松尾公也 (2018年12月16日). “「遠隔合奏」が普通になる時代 NETDUETTOと5G”. ITmedia NEWS. アイティメディア. 2026年9月20日閲覧。
  11. 1 2 森山和道 (2004年1月28日). “音楽で広がる身体、コミュニケーション ~ユビキタス・ミュージック”. PC Watch. インプレス. 2026年9月20日閲覧。
  12. ↑ “離れていても音楽セッション可能な「ニコ生セッション♪」 ヤマハ「NETDUETTO」活用”. ITmedia NEWS. アイティメディア (2011年1月11日). 2026年9月20日閲覧。
  13. ↑ 松尾公也 (2011年6月9日). “ついにMacにやってきたNETDUETTOを試してみた”. ITmedia NEWS. アイティメディア. 2026年9月20日閲覧。
  14. 1 2 “「5G」一色に染まったMWC、出展各社は何を見せた?”. BCN+R. BCN (2019年3月5日). 2026年9月20日閲覧。
  15. ↑ “凄いぞ5G! ドコモの取組みを世界へ発信 ─「MWC19 Barcelona」出展報告”. NTTドコモ (2019年4月). 2026年9月20日閲覧。
  16. ↑ “ヤマハとソニーの技術を駆使した遠隔バンドセッション!東京と浜松の小学生が体験”. SYNCROOM. ヤマハ. 2026年9月20日閲覧。
  17. 1 2 “야마하뮤직코리아, 온라인 합주 프로그램 '싱크룸' 국내 정식 론칭” (朝鮮語). CNET Korea (2023年6月19日). 2026年9月20日閲覧。
  18. ↑ 酒井勇也、四童子薫、平山裕基「遠隔地をつなぐ音楽表現活動の可能性(2)―リアルタイム型の遠隔協働音楽制作の実演と実践からの考察―」『音楽教育学』第52巻第2号、日本音楽教育学会、2023年、72-73頁、doi:10.20614/jjomer.52.2_72、2026年9月20日閲覧。
  19. ↑ “研究者詳細 - 酒井 勇也”. 宮崎大学. 2026年9月20日閲覧。
  20. ↑ 三沢光汰 (2026年2月21日). “堀江晶太が有識者と語り尽くす、VR空間と音楽の交差によって生まれる“化学反応””. Real Sound Tech. blueprint. 2026年9月20日閲覧。
  21. ↑ “2020年日経優秀製品・サービス賞”. 日本経済新聞. 日本経済新聞社. 2026年9月20日閲覧。
  22. 1 2 “リモート合奏サービス『SYNCROOM』が「2020年日経優秀製品・サービス賞」で「最優秀賞」を受賞”. ヤマハ (2021年1月5日). 2026年9月20日閲覧。

外部リンク




英和和英テキスト翻訳

英語⇒日本語日本語⇒英語
  •  SYNCROOMのページへのリンク

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「SYNCROOM」の関連用語

1
12% |||||


SYNCROOMのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



SYNCROOMのページの著作権

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのSYNCROOM (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2026 GRAS Group, Inc.RSS