DID/VCとは? わかりやすく解説

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DID/VC

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/12 22:21 UTC 版)

DID/VC(Decentralized Identifier/Verifiable Credentials)**とは、分散型識別子(DID)と検証可能な証明書(VC: Verifiable Credential)という 2 つの技術コンポーネントを組み合わせたデジタルアイデンティティ管理・証明の枠組みである[要出典]

  • DID(Decentralized Identifier)は、ブロックチェーン等の分散技術を活用して、中央の識別機関に依存しない識別子をユーザー自身が管理できるようにする仕組みである。
  • VC(Verifiable Credential)は、ウェブ標準(World Wide Web Consortium: W3C)で定められたデジタル証明書の形式で、発行者(Issuer)が証明を発行・署名し、所有者(Holder)がそれを保有・提示し、検証者(Verifier)が真正性・改ざんの有無を検証できるようになっている。
  • この組み合わせにより、ユーザーが自己主権的にアイデンティティ・属性を管理し、必要に応じて提示・検証できる仕組みが提供される。
  • 主な特徴として、ユーザー主体(ユーザーが情報を保有・提示)、改ざん耐性・検証可能性、相互運用性(国・機関を跨る証明のやり取り)などが挙げられる。

技術的背景・仕組み

DID

  • DIDは、特定の管理主体に依存しない識別子であり、キー管理、検証可能なメタデータと結びつけられる。
  • DIDを所有する主体(人/組織/デバイス)が、自分の識別子を管理でき、発行者・検証者との関係性を中心に据えたトラストモデルを構築できる。 ウィキペディア+1
  • 従来の集中型アイデンティティモデル(例:IdP による一括管理)とは異なり、ユーザーが主体となる自己主権型アイデンティティ(SSI: Self-Sovereign Identity)と親和性が高い。
  • W3C「Verifiable Credentials Data Model 1.0」(2019年11月成立)などが規格となっている。
  • VCは、JSON/JSON-LD形式等で発行でき、主な構成要素として「@context」「issuer(発行者)」「issuance date」「expiration date」「type」「credentialSubject」「proof(暗号署名)等」を含む。
  • 所有者が提示する際、発行者に都度問い合わせる必要なく、提示されたVCの信憑性を検証できる仕組みがある(オフライン検証なども設計可能)。

DID+VCの組み合わせ

  • DIDを持つ主体がVCを保有し、その提示・検証を通じて、発行者・所有者・検証者の三者間にトラスト三角形(Issuer → Holder → Verifier)が成立する。
  • この構図により、アイデンティティ属性や証明書類(例:学歴証明、資格証明、身分証明など)を改ざん耐性かつ相互運用的にデジタル管理・提示できる。
  • ただし、技術的/制度的/ビジネス面で普及には課題があり、単なる「規格」の枠を超えて、実運用・マス採用に至っている事例はまだ限定的である。

利用用途・ユースケース

  • オンライン/オフラインにまたがる本人確認(KYC)、企業間取引における証明書の電子化、資格・学位証明のデジタル化、IoTデバイスの識別などが想定される。
  • 国・地域を跨ぐデジタルアイデンティティ相互運用、行政・公共サービス領域、教育機関・資格発行機関、金融・保険・製造などの産業横断的な応用が議論されている。
  • 日本国内でも、実証実験やプラットフォーム提供が進んでおり、企業・教育機関による採用事例が出てきている。 Recept(リセプト)+1

主な課題・展望

  • 標準仕様化・相互運用性の確保、プライバシー保護・セキュリティ強化、ガバナンス(誰が発行者を信頼するか/認定基準)などが課題である。
  • 日本国内においては、採用インセンティブが薄い、ユーザー・事業者側での利便性訴求が難しい、予算枠・事業モデルが確立していないなど、ビジネス面の制約も指摘されている。
  • 将来的には、デジタル社会におけるアイデンティティ基盤・信頼インフラとしての位置づけが期待されるが、「破壊的技術(Disruptor)」というより、既存インフラとの連携・移行・統合フェーズにあるとの分析もある。 [1]

国内企業・取り組み事例

VESS Labs

VESS Labs(東京都渋谷区)は、DID/VC技術を活用したデジタルアイデンティティ・ソリューションを提供するスタートアップである[1]

  • 主に、デジタルアイデンティティウォレット「VESS Wallet」や証明書管理プラットフォーム「VESS Credentials」などを開発・提供しており、国際規格(OID4VCI, OID4VP, SIOP v2など)準拠を謳っている。[2]
  • 2025年5月には、国立印刷局と「VCを活用した証明書電子交付システムの構築および実証実験」を受託。紙の証明書からデジタル証明へ移行するインフラ整備を目的としている。 プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES+1
  • また、SBT(Soulbound Token)やVCを活用した配布ソリューション「ZENSTA™」を、TOPPANと共同で実証実験している。

NEC

NECは、DID/VC技術を生体認証や信頼基盤と統合する研究開発を進めている。

同社は、ブロックチェーンや分散台帳を用いた次世代デジタルIDの社会実装を目指し、「利用者自身が管理し、意思に基づいて証明書を開示する仕組み」としてDID/VCの有効性を提示している。[3]

  • 「2025年4月から開催された大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン『null²』において、NECは顔認証を活用したDID/VCソリューション『NEC Digital Identity VCs Connect』を提供し、来場者の「Mirrored Body®」情報を安全・改ざん防止の形で管理・提供[4]

また、大学・産学連携、各種実証実験にも関与している(例:2025 年7月に早稲田大学と共同研究を開始など)。 [2]

Recept

Recept(東京都渋谷区)は、DID/VC基盤「proovy」を提供するスタートアップで、本人確認サービス「proovy.Me」によって、事業者間のデータ連携や突合処理を不要とする仕組みを構築している。

  • 同社によれば、DID/VCを活用することで、ユーザーが自身の識別子(DID)を保有し、各事業者から証明書(VC)を発行され、それを提示するだけで本人確認が可能となる。これにより個人情報を各事業者のデータベースに格納する必要がなく、情報漏洩リスク・管理コストを低減できる。
  • 一方で、同社は「DID/VCがビジネスとして成立しない5の理由」も自身のブログで列挙しており、技術構造・市場構造・採用動機・予算調達・資本主義との齟齬など、採用を巡る課題を整理している。

用語・関連規格

  • W3C 「Verifiable Credentials Data Model 1.0」
  • OID4VCI(OpenID for Verifiable Credential Issuance)
  • OID4VP(OpenID for Verifiable Presentations)
  • SIOP v2(Self-Issued OpenID Provider v2) これらの規格は、DID/VCの発行・提示・検証に関する手続き・相互運用性を定めたものである。 東京新聞+1
  • SSI(Self-Sovereign Identity):ユーザー自身がアイデンティティを管理するという概念。DID/VCの文脈でしばしば用いられる。 Recept(リセプト)

歴史・背景

  • DID/VCという用語・枠組みは、Web 3.0・分散アイデンティティの文脈で近年注目されてきた。
  • 特に、従来の中央集権的なアイデンティティ発行・管理の限界(個人情報漏洩、相互運用性の欠如、国際利用の難しさなど)を背景に、自己主権型アイデンティティ(SSI)への転換が議論された。
  • VCについては、W3Cが2019年11月にデータモデル1.0を勧告している。
  • 日本でも2020年代に入り、デジタル庁・金融庁・民間企業がDID/VCに関連する実証実験を進め始めており、実際に教育機関・資格発行機関・企業などで導入・運用・検証フェーズに入っている。 [5]

国内制度・ガバナンスの動き:有識者会議の設置

日本国内では、DID/VCを含むデジタルアイデンティティ・属性証明の制度的整備に向けて、行政が有識者会議を設置して議論を進めている。代表的な会議は次の通り[3]

  • デジタル庁が設置した「Verifiable Credential (VC/VDC) の活用におけるガバナンスに関する有識者会議」では、VCを「デジタル署名による真正性・改ざん防止等の機能を持つ汎用的で機械可読なデータ形式・データ流通形態」と位置づけ、発行・管理・検証のプロセスに関して法制度との関連や留意点を整理することを目的としている。
    • 第1回会議は 2025 年10 月23 日に開催された。
    • 会議の審議テーマとして、発行主体の責任範囲、証明の提示・検証時の運用上の留意点、ユースケースの検討などが挙げられている。
  • また、「属性証明の課題整理に関する有識者会議」という名称で、行政手続のデジタル完結化や自動化を視野に、「身元・資格・属性等」の証明をデジタルで実現するための技術・仕組み(DID/VC等)の利活用に関するリスク、運用・技術面での対策が議論されている。[6]

これらの有識者会議によって提示された議論・資料は、DID/VCを社会実装していく上の制度設計・ガバナンスの方向性を示すものであり、技術・ビジネス・制度の交差点における重要な位置を占める。

国外での動向

標準化と仕様の更新

World Wide Web Consortium(W3C)は「Verifiable Credentials Data Model 2.0」を公開し、VCの国際標準化を次の段階に進めた[4]

この仕様は、デジタル証明書を改ざん耐性・機械可検証・プライバシー保護の観点から表現できる形式として定義している。標準化の進展により、異なる国や機関、事業者間での互換性および相互運用性が強化されつつある。

欧州の取り組み

欧州連合(EU)は、European Blockchain Services Infrastructure(EBSI)を中心に、VCを含むデジタルアイデンティティ技術の社会実装を推進している[要出典]

また、Regulation (EU) 2024/1183(いわゆる「EUデジタルアイデンティティ枠組み」)により、加盟国間でのデジタル証明の相互承認を義務づけ、モバイルウォレット「EUDI Wallet」の普及を進めている。

これらは、DID/VCを制度およびインフラとして位置づけ、実運用フェーズに移行しつつある代表的な事例である。

北米の動向

アメリカ合衆国およびカナダでは、W3C VC 2.0 仕様の準拠実装が進んでおり、大学・政府・企業が連携して資格証明・運転免許・企業IDなどの電子化を進めている。

特に米国では、州政府レベルでのモバイル運転免許(mDL: mobile Driver License)や学位証明のVC化が進展しており、OpenID Foundationによる「OID4VCI」「OID4VP」の標準化も加速している。

アジア・太平洋地域の動向

アジア太平洋地域でも、デジタルIDおよびVC活用の枠組みが拡大している。

オーストラリアは「Digital ID Act 2024」により、デジタルIDの認定制度とトラストフレームワークを整備しており、民間IDプロバイダーが相互運用可能な形で参入している。

シンガポールや韓国も、政府主導でDID/VCの実証を進めており、日本を含むアジア各国間での相互運用実験も報告されている[5]

クロスボーダーおよび金融分野での応用

DID/VCは、国境を越えるKYC(顧客確認)やAML(マネーロンダリング防止)などの領域にも応用が検討されている。

欧州のプロジェクトでは、国際送金や越境支払いにおいてVCによる本人確認や属性証明を組み込み、銀行・フィンテック事業者間の認証を効率化するモデルが提案されている。

このように、DID/VCは単なる「デジタルID」技術に留まらず、「信頼情報の越境共有インフラ」として位置づけられつつある。


社会的意義・展望

  • デジタル社会において、アイデンティティ・属性証明・本人確認の信頼基盤は極めて重要である。DID/VCは、ユーザー中心・相互運用・改ざん耐性といった特性を備えた次世代のトラストインフラとなる可能性を持つ。
  • 特に、国際間や複数主体を跨いだ証明書のやり取り、個人が自身の情報を主体的に管理できる環境が整えば、行政・金融・教育・ヘルスケア・IoTなど多領域で利便性と信頼性が向上すると考えられる。
  • 一方で、産業/制度構造・既存インフラとの共存・ユーザー・事業者の採用動機・収益モデルの確立などの課題が残るため、今後数年間での「移行期」としての位置づけが適切である。
  1. ^ 株式会社 VESS Labs”. www.vess.id. 2025年11月12日閲覧。
  2. ^ NEC、早稲田大学とDID/VCの社会実装に向けた共同研究を開始”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES (2025年7月16日). 2025年11月12日閲覧。
  3. ^ デジタル庁 (2025年10月23日). “属性証明の課題整理に関する有識者会議(第1回)|デジタル庁”. www.digital.go.jp. 2025年11月12日閲覧。
  4. ^ Verifiable Credentials Data Model v2.0” (英語). www.w3.org. 2025年11月12日閲覧。
  5. ^ White Paper: Passkeys and Verifiable Digital Credentials: A Harmonized Path to Secure Digital Identity | FIDO Alliance” (英語) (2025年9月22日). 2025年11月12日閲覧。



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