ナスフ
ナスフ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/12 13:31 UTC 版)
ナスフ(naskh)は、コーランのなかに一見相反する記述がある場合、一方の記述が他方を取り消した、置き換えたと解釈することで、その矛盾を解消するという理論である[1][2]。ナスフはアラビア語で廃棄を意味し、廃棄、取り消しなどと訳される[2]。タフスィール学(コーラン解釈学)、ハディース学、イスラーム法源学の分野に関わる理論であり、コーラン解釈学の方法論の一つ[1][2]。ナスフは、アッラーは「(啓示の)どの節を取り消しても、また忘れさせても、それに優るか、またはそれと同様のものを授け(コーラン2:106)」、コーランには矛盾がないとされることから用いられる[2]。
多くのウラマー(イスラーム法学者)は「コーランはコーランによって廃棄され、ハディースはハディースによって廃棄される」というナスフ学説を受け入れているが、ハディースによるコーランの廃棄、コーランによるハディースの廃棄は繊細なテーマであり、ウラマーによって解釈が異なる[2]。ナスフ学説は、飲酒やジハード(コーランの「剣の節」(多神教徒の殺害))、一時的な結婚制度である一時婚(ムトア)等の解釈にも大きな影響がある[1]。
例えば、ムハンマドのハディースによってコーランの記述が破棄できるか否かの解釈によって、シーア派には一時婚があるが、スンナ派では禁止されている[2]。
イスラーム法やコーラン解釈に関わる重要分野だが、日本ではあまり知られていない[3]。
出典
参考文献
- 池内恵「近代ジハード論の系譜学」『国際政治』第175巻、一般財団法人 日本国際政治学会、2014年、115-129頁、CRID 1390001205334332288。
- 青柳かおる「コーラン解釈における廃棄(ナスフ)の諸相 : 一時婚の議論を中心に」『比較宗教思想研究』第19巻、新潟大学大学院現代社会文化研究科比較宗教思想研究プロジェクト、2019年3月、19-38頁、 CRID 1050294186524999808。
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