チリよ、喜びはもうすぐやってくる
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『チリよ、喜びはもうすぐやってくる』(チリよ、よろこびはもうすぐやってくる、西:Chile, la alegría ya viene)は、1988年のチリ大統領信任に関する国民投票の中で信任反対派が制作した楽曲である。
1988年の国民投票はアウグスト・ピノチェトの大統領続投を否認する結果に終わり、翌年12月に投開票が行われた大統領選挙ではピノチェト反対派のパトリシオ・エイルウィンが当選する[1]。本曲は、ピノチェト反対派のキャンペーンソングとして国民投票や大統領選挙運動の中で歌唱された[2][3]。
背景
軍政下の1980年に改正されたチリ憲法は 、その発効から8年後に国民投票によって大統領を選任することとしており、大統領続投を目指すアウグスト・ピノチェトは自らの信任を問う国民投票を1988年に実施する[1]。国民投票では、信任賛成派・反対派の双方に1日15分のテレビCM枠が与えられた[2][4]。
本曲は、セルヒオ・ブラボーの作詞、ハイメ・デ・アギーレの作曲により制作され、クラウディオ・グスマンとロサ・エスコバルがリードボーカルとする合唱曲スタイルで反対派陣営のCM内で使用された[4]。本曲の制作背景を含む反対派陣営の動きは、パブロ・ララインによる2012年の映画『no』のモデルにもなっている[5][6]。
本曲の曲調はポップで、歌詞にも軍政批判などの直接的な政治メッセージは含まれていない[4][6]。反対派陣営は、有権者にチリの明るい未来のための選択を促すことを意識して本曲・本曲を含むCM映像を制作する[4][7]。
影響
1988年の国民投票は当初は信任派優位とみられていたが、ピノチェト政権の成果をプロバガンダ的に表現する信任派のCMに対し、明るくチリの未来を問う反対派のCMは印象的に映り、本曲もチリ国内で人気を呼ぶようになる[2][7]。徐々に反対派優位の情勢に傾き、国民投票の終盤に反対派のCMの放送中止を決めるまでに政権は追い込まれる[7]。
本曲はピノチェト反対派を象徴する楽曲となり、チリを代表する政治キャンペーンソングの一つに数えられている[4]。

曲名の日本語訳
日本でも国民投票と同時期に本曲が紹介されており、『チリよ、喜びはもうすぐやってくる』として本曲を含む国民投票の反対派が制作したテレビCMの上映イベントが行われたほか[8]、新聞報道では『チリに歓喜は来たれり』と訳されたこともある[9]。
出典
- ^ a b 後藤政子『新現代のラテンアメリカ』時事通信社、1993年、264-277頁。doi:10.11501/13286903。
- ^ a b c 八木啓代 (1989). “チリ1989年、新しい民主化の流れと急変する音楽状況”. Latina ラティーナ : 世界の音楽情報誌 (ラティーナ) (428): 20-23. doi:10.11501/7957347.
- ^ 高橋正明『チリ・嵐にざわめく民衆の木よ』大月書店、1990年、31-33頁。doi:10.11501/13286877。
- ^ a b c d e ““Chile, la alegría ya viene”: La trastienda de cómo se creó el himno que derrotó a Pinochet” (スペイン語). CNN CHILE. CNN (2018年10月5日). 2025年8月16日閲覧。
- ^ “脅迫せず追い立てず、人を動かす方法とは? 人を動かす広告、話題のチリ映画『NO』が描いたもの”. 東洋経済オンライン. 東洋経済新報社 (2014年9月29日). 2025年8月13日閲覧。
- ^ a b “Image Migration and History;The End of the Chilean Military Dictatorship in Pablo Larraín's Feature Film NO!” (英語). Research in Film and History. Film and History at the University of Bremen (2018年11月23日). 2025年8月16日閲覧。
- ^ a b c 有延出 (1989). “チリよ、喜びはもうすぐやって来る”. 文化評論 (新日本出版社) (335): 155-170. doi:10.11501/1799569.
- ^ “テアトル・マロンの中南米イベント”. Latina ラティーナ : 世界の音楽情報誌 (ラティーナ) (428): 59. (1989). doi:10.11501/7957347.
- ^ 「チリ、大統領官邸前で数万人集会」『日本経済新聞』1988年10月7日、夕刊3面。
関連項目
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