セメントカプセル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/29 23:29 UTC 版)
セメントカプセル(英: cement capsule / capsule grout)は、岩盤やコンクリート中の穿孔に挿入したボルト・テンドンを定着させるために用いる、粉体セメント系グラウトを被膜内に封入したカプセル状の定着材の総称である。使用時に水へ浸漬して所定量を吸水させ、ボアホールへ挿入・打設することで、混練設備を用いずに無収縮性・チクソ性を有するモルタル(グラウト)を形成する[1][2]。同系統の定着材には樹脂(ポリエステル)カプセルもあり、用途や施工条件に応じて使い分けられる[3]。
用途
セメントカプセルは、主としてロックボルト/ロックアンカーの定着に用いられ、山岳トンネルや鉱山、斜面対策などで広く使用される。ボルトによる地山・覆工の補強や、耐震補強におけるあと施工アンカーの定着に適用される[4][5]。
原理
カプセルの被膜(透水性シース)内に計量済みのセメント粉末等を封入し、使用時に水浸漬で一定水量を吸収→カプセル内部でグラウト化する。これを所定本数、削孔内へ挿入し、ボルトの打設・回転等で押し潰す/充填して定着させる。水粉比が工場で制御されるため、現場練りに比べて品質のばらつきや人為誤差を低減できる[6][7]。
特徴
- 施工簡略化:水浸漬後に挿入・打設するだけで、混練/圧送機械が不要[8]。
- 品質安定化:カプセル内で水粉比が制御されるため、ばらつき低減[9]。
- 早期強度発現の品種:標準型に加え、早強型(急硬)などのバリエーションが提供される[10][11]。
- 耐火・安全性(あと施工アンカー用途):無機系であるため、樹脂系に比べ耐火性に優れ, シックハウス要因物質を含まないとされる[12]。
施工
一般的な手順は、(1)削孔、(2)カプセルを水に浸漬(数分)して吸水、(3)所定本数をボアホールへ挿入、(4)ロックボルトを挿入・打設して定着、である。可使時間内に施工を完了させ、温度条件や水質(真水推奨)に留意する[13][14]。
種類
- 標準型/早強型:施工速度や初期強度要求に応じて選定(例:標準型は24時間で所定強度、早強型は数時間で所定強度)[15][16]。
- 寸法・容量バリエーション:ボアホール径・ボルト径に合わせて外径・長さ・容量が設定される(例:φ28×600〜φ40×600 mm など)[17][18]。
- 関連品(樹脂カプセル):ポリエステル樹脂と硬化剤を区画封入したレジンカプセルも普及しており、初期把握力・硬化時間等の特性に応じて選択される[19]。
規格・指針
セメントカプセルそのもののJIS個別規格は限定的だが、トンネル工事の施工管理要領・標準示方書等でロックボルト工におけるモルタル充填・施工管理が定められている[20][21]。
日本における産業・事例
日本では、トンネル・鉱山・法面対策などで各社のセメントカプセルが供給されている。日油技研工業(NiGK)は、ケー・エフ・シー「C-タイト」(セメントカプセルタイプのロックボルト用定着材)の製造元として製品カタログに記載があり[22]、またNOF(親会社)の環境貢献製品ページでは、同社のセメントカプセルが「無機系あと施工カプセルアンカー」で、樹脂製に比べ耐火性・安全性に優れる旨が紹介されている[23]。他の供給例として、東京製綱アンカー工業のTSKセメントカプセルがあり、品種・容量・施工法が公開されている[24]。
関連項目
脚注
- ^ Minova, “Capcem™ 50 Capsules” — 「水浸漬で被膜が所定量の水を吸収し、チクソ性・無収縮グラウトを形成」等の説明
- ^ ケー・エフ・シー「C-タイト(セメントカプセルタイプのロックボルト用定着材)」製品ページ(「水に浸漬するだけで使用可能/混練・圧送機械が不要」)
- ^ Minova, “Capsule Grouts(Lokset®樹脂カプセル等の概要)”
- ^ 農林水産省『第10章 ロックボルト補強工法』— ロックボルト補強の位置づけ・適用
- ^ 東/中/西日本高速道路(NEXCO)『工程作成の手引き(トンネル編)』— ロックボルト工における「モルタル充填」の工程記載
- ^ Minova, “Capcem™ 50 Capsules” — 「controlled water/powder ratio」「ready to use dry powder encapsulated in a water permeable skin」等
- ^ ケー・エフ・シー「C-タイト」製品ページ(現場での計量混練・圧送不要/本数管理で充填容量確認)
- ^ ケー・エフ・シー「C-タイト」製品ページ
- ^ Minova, “Capcem™ 50 Capsules”。前掲
- ^ ケー・エフ・シー「C-タイト」製品ページ(「早強型(Q)は急硬タイプで早期強度発現」)
- ^ ケー・エフ・シー『C-タイト カタログ』(PDF)— 強度発現時間・可使時間の記載
- ^ NOF Corporation「環境貢献製品(化薬事業/日油技研工業㈱ セメントカプセル)」— 「耐震補強工事を主用途とした接着(無機)系あと施工カプセルアンカー」「樹脂製品に比べ耐火性に優れる/有害化学物質を含まない」
- ^ ケー・エフ・シー『C-タイト カタログ』(PDF)— 施工手順・注意事項(真水使用、可使時間、保管等)
- ^ 東京製綱アンカー工業『各種アンカー』(PDF)— 「TSKセメントカプセル」の品種・特長・施工に関する記載
- ^ ケー・エフ・シー『C-タイト カタログ』(PDF)— 標準型(S)・早強型(Q)の強度発現時間
- ^ ケー・エフ・シー「C-タイト」製品ページ
- ^ ケー・エフ・シー『C-タイト カタログ』(PDF)— 外形×長さと容量・推奨ボルトサイズ
- ^ 東京製綱アンカー工業『各種アンカー』(PDF)— TSKセメントカプセルの品番・容量
- ^ Minova, “Capsule Grouts(Lokset®)”。前掲
- ^ 東/中/西日本高速道路『トンネル施工管理要領』— 「ロックボルト工」に関する施工管理試験の規定
- ^ 北海道開発局『第5章 支保工』(トンネル標準示方書の引用を含む資料)— ロックボルト径の標準等
- ^ ケー・エフ・シー『C-タイト カタログ』(PDF)— 末尾に「日油技研工業株式会社」の記載
- ^ NOF Corporation「環境貢献製品(化薬事業/日油技研工業㈱ セメントカプセル)」— 主要用途・特性の記載
- ^ 東京製綱アンカー工業『各種アンカー』(PDF)— 「TSKセメントカプセル」解説
外部リンク
- セメントカプセルのページへのリンク