おらが村
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/12 07:53 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動おらが村 | |
---|---|
ジャンル | 青年漫画 |
漫画 | |
作者 | 矢口高雄 |
出版社 | 双葉社 |
掲載誌 | 漫画アクション |
レーベル | アクションコミックス |
発表期間 | 1973年 - 1975年 |
巻数 | 全3巻 全1巻(ヤマケイ文庫) |
テンプレート - ノート | |
プロジェクト | 漫画 |
ポータル | 漫画 |
『おらが村』(おらがむら)は、矢口高雄による日本の漫画作品。『週刊漫画アクション』(双葉社)において1973年から1975年まで連載された。コミックスは全3巻が刊行されている。2019年にヤマケイ文庫(山と溪谷社)から完全収録版が出ている[1]。
秋田県横手市増田町を舞台としている[2]。矢口自身の体験をもとに、冬は大雪に埋もれる出稼ぎの村で生きる農民の喜びや悲しみを描いた作品である[2]。
あらすじ
- 囲炉裏の章
- 東北地方の背梁、奥羽山脈の山懐に抱かれたY盆地、その外れの山間の戸数40戸の小さな村が作品の舞台となる。高山家は部屋の中央に大きな囲炉裏があり、黒くすすけた柱と梁が冬の豪雪を支えている。戸主の政太郎は囲炉裏の前に座り晩酌を楽しんでいる。口やかましい信江は、政信がバイクの試験に何回も実技で落ちるのは、運動神経がだれかさんに似てにぶいからなどと政太郎を責める。
- 一男が熊の肉を持って訪ねてくる。この熊は木に登ってリンゴを食べているところを射殺されたものだ。さっそく一献となり、一男はさすがに村会議員さまの家では一級酒だと褒めるが、実は二級酒であり、信江はちょっと居心地が悪い。
- 稲わらを燃やす季節になり、久助は嘉左エ門のばあさまに煙たいと水をかけられ、口げんかが始まる。しかし、ハタハタを焼く香ばしい匂いが流れてきて休戦となる。2人ともハタハタ好きであり、久助ばあさまの分も買ってきてやると約束する。
- 政太郎は家のきしむ音で目を覚した。予想を超える降雪に家がつぶれると信江を起こす。先端部の庇部分を突き落とし、残りの雪はできるだけ遠くに投げる。雪下ろしにはかつみもかり出される。さらに、正月を迎える諸準備でかつみの手も借りたいというところだ。
- 元旦の朝、高山家では初参りを済ませ、家族揃って新春の御膳に向かう。三男の義勝は友人の富田を連れて帰省した。横浜育ちの富田は納豆汁のおいしさに驚き、天井の太い梁にある種の安心感を感じる。
- 昨日も雪、今日も雪と村は雪に閉じ込められる。一男が訪ねて来て、お茶と漬け物で歓迎される。一男は政太郎をウサギ狩りに誘う。ハンター2名、勢子2名であり、政太郎ははつらつとしてウサギを追い出す。半日の収穫は11羽であった。
- 信江はカゼをこじらせて寝込んでしまう。家事はいっさいノータッチの政太郎は何の役にも立たない。かつみは学校を休んで看病となる。信江のために生魚を買いに行くというかつみに、政太郎は真冬の川でうぐい取りを教える。今日の収穫はバケツにいれるほどのウグイと数本のメメンコ(ネコヤナギ)の枝である。
- 村には雪消しの雨が降り、夜の寒さで表面が凍り、固雪となる。雪の上を歩いても沈まないので、子どもたちはそり遊びに、大人はそりを使って堆肥を田んぼに掘った穴に詰め込む。この作業にかつみもかり出されお冠である。
- こぶしの咲くころ、出稼ぎの人たちが三々五々と戻ってくる。そんなときに村で火事が発生する。村の消防団では家に火が回ったらどうしようもない。家に2人が取り残されているということで、儀衛門が火の中に飛び込み救出する。儀衛門は村会議員の政太郎にもっと考えたらどうだと説教を垂れる。
- 上野公園は桜が満開であるが故郷はまだ寒く、村へのバスは通っていない。出稼ぎから戻った政信は町の朝市を見て、里山の春の進み具合を確認する。そこで、子供をおぶった級友のタエコに出会う。家に着いた政信がタエコの話をすると両親の顔が曇る。信江からタエコの夫が出稼ぎ先の事故で亡くなったと知らされ愕然とする。政信は里山に出かけカタゴの花むしろで横になり村の春を満喫する。
- 加賀谷輝一は小さなころ、熱いみそ汁を頭にかぶり頭頂部の毛髪を失う。悪ガキたちからテル坊主と呼ばれ、早くに村を出た。輝一はかつらにより自然な頭髪となり、9年ぶりに故郷を訪ねてくる。輝一は東京で元気にやっていることを知らせに来ただけであるが、妹が結婚して家を継ぐことになっており、微妙な空気に触れる。輝一はかってトンボ取りに夢中になった池を眺めながら、おらあやっぱしこの村に戻る人間じゃなかっただとつぶやく。
- こぶしの章
- つばくろさんと呼ばれる富山の薬売りは毎年決まった時期に村にやって来る。古くなった薬を回収し、新しい薬に交換し、半年間に使った薬の代金をいただく仕組みである。つばくろはいつもおうめバッパの家に泊めてもらい、町から仕入れてきた材料で手料理をふるまう。つばくろは他の集落を回って戻ってくると、バッパは眠るように亡くなっており、枕元には新しい下駄を買っておいたとメモが残されている。
- 市太郎は生まれつき足が不自由であった。4つ違いの姉のヒデ子がずっと弟の面倒を見てきた。この時代の村には偏見が残っており、ヒデ子は器量も性格も良かったが縁遠くなる。それを苦にしてか市太郎は1年前に自死する。農作業の合間に村人は27歳になっても嫁に行かないヒデ子の口さがない噂話をするが、政太郎はあの子に何の罪があるんだと回りをたしなめる。
- 田植えの時期に徳さんがやってきて高山家で餅をつくのが恒例となっている。徳さんは目が見えないがカタツムリの動く様子まで感じ取る。山一つ先の集落に嫁いだシゲ子が姑の横暴さに耐えかねて逃げ出してくる。父親は帰れと平手打ちにする。高山家で久しぶりにぐっすり寝て落ち着いたシゲ子に徳さんはオドの気持ちも分かってやれと言う。餅つきでシゲ子は徳さんの合い取りをする。シゲ子はこれからのことを父親と話し合うことにする。
- 桑の実の章
- 農作業の合間に村人たちはカッコウの鳴き声を語呂合わせで表現して楽しむ。かつみは生活の苦労がにじみ出ているとはやす。かつみがアバが切ったタクアンは全部つながっていると続け、信江におめえごそ自分で切ったらどうだと反撃され、タクアンなんか触ったらボーイフレンドが寄りつかないと言って逃げ出す。親子のなにげない会話を、母親と祖母が家を出た由太郎は複雑な思いで聞いている。
- 長女のよしみから会社の先輩を連れて帰るというハガキが届き、信江はあわてる。かつみは二人の結婚について口にすると、信江は親のおらだつをさしいおいてと反応する。実際、2人が到着すると信江はよく来てくれましたと上機嫌に対応する。結局、二人の関係は分からずじまいで帰ることになり、両親は今どきの若者の気持ちは分からないと嘆く。
- キャンプ中の大学生が空を飛ぶ光る物体を撮影し、これが新聞に載り、おらが村はUFO騒ぎで持ちきりである。一男はUFOを撃ちに行くかと政信を誘う。満月の夜、一同が待ち構えていると、ギャー、ギャーと鳴き声が聞こえ、一男は銃を構え光る物体を仕留める。それは天敵の気配を察したオスキジであった。森田家では夏の終わり恒例のズダ餅を作る。
- 暑くて寝付かれない政信のカヤの中にはたおり(ウマオイ)が入り込みスイーッ・チョンと涼しげに鳴く。稲刈りの最中に政太郎は腰を伸し、政信のあざやかな手さばきに見とれる。両親は29歳になった跡取り息子の嫁ッコについて思い悩む。都会への人口流出でおらが村は嫁ききんである。
- 嫁ききんの章
- 稲刈りの最中に田んぼの横を無茶な運転のトラックが通り、若い女性の引いていたリヤカーが横の堰に落ちてしまう。政信が駆け寄り、二人がかりでリヤカーを道路に戻す。政信はリヤカーの肩当てに残る娘のにおいに強く引かれる。キノコ採りに山に入った政信はリヤカーの娘の近くに熊がいるのを見つけ、飛び出して、眼力で熊を追い払う。娘は政信を知っており、栗山集落の律子と名乗った。
- 政信は律子の夢を見るようになり、かつみに起こされる始末である。昨日は風が吹いたので栗拾い日よりである。栗の木の下にはたくさんのイガが落ちており、大収穫である。かつみは政信にかまをかけてふさいでいる理由を知る。ある日、女性からの切手のない手紙がかつみに託されて届けられる。
- かつみは差出人の名前を言わず、配送料3000円を要求する。手紙には政信に対する律子の想いがつづられていた。政信は4000円を手渡す。かつみはプラスの1000円は両親に対する口止め料と解釈できると口する。
- かつみの通学バスは栗山集落を通るので政信からの返信はバスから律子に投げ落とされる。二人は村外れの橋で逢い引きとなるが、お礼の柿を受取り、ほとんど会話もせず別れる。口べたな政信は明日も、あさってもこの橋で待っていますというメモを手渡すのが精一杯である。
- 霜の季節となり、花はしおれ、里芋の葉はまだら模様になる。高山家の次男信義が連絡なしに帰郷する。信義はぼくが帰ってきたのはと言って口ごもる。政太郎はピンときて信江に耳打ちする。政太郎はおまえの好きなようにしろと相手のことを聞かないまま結婚を認める。律子からどうして結婚なさらないのと聞かれ、政信は律子さんのような人なら今すぐだっていいと告げる。
- しかし、律子は一人娘であり、家の跡取りとして婿をもらう話が進んでいた。それを知った政信は思い出の橋の上で来ちゃダメだと告げる。俺たちはどっちも家を継がなければならない。一時の感情で家や故郷を捨て、親兄弟を悲しませてなんになると、二人で村を出ることを言下に否定する。政信は出稼ぎに向かう。
- 律子はカゼを引き、心労も加わり寝込んでしまう。無医村なので両親は昔からの知恵で対応するしかない。その甲斐があり律子は快復し、激しい感情から解放されたようである。かつみは律子からもらった毛糸で慣れない編み物を始める。
- 正月に政信は帰ってこなかったが、義勝とよしみが加わり、森田家の朝食となる。よしみは機嫌が悪く朝から酒を飲み、信江にたしなめられる。どうやら東京で結婚を考えていた男と別れたらしい。政太郎はよしみを外に連れ出し、自分の人生観について語る。政太郎が仕掛けたイタチビラにはなんとテンがかかっていた。よしみはテンが欲しいと言い出し、ありがとう、オド、正月に帰ってきて本当に良かったと抱きつく。
- 政太郎は母校の中学校を久しぶりに訪問する。中に入るとすぐにあのころの追憶の世界に入ることができる。村議会の報告書では中学校の生徒数はピークに比べ半分以下になっている。村議会の定例会の議題は中学校の統廃合であった。傍聴席にはかつみがぽつんと座っている。討議が始まると政太郎は統廃合は仕方がないが、旧校舎を企業に売却する件は反対する、村の公共施設としてそのままの姿で管理すべきだと反対意見を述べる。
- 政信は思い出の橋で律子と出会う。政信は元気そうだねと声をかけ、2人は歩いた。家の都合で結ばれなかった2人である。政信は昨日まで澱のようにたまっていたものがすっかり溶けて、すがすがしい気分になる。
- 再び春が巡ってきて出稼ぎから帰る人が増え、村は活気づく。高山家でも三早の雪消し作業が始まった。出稼ぎから戻った村人と政信の嫁っこの話になり、信江としては世間体が悪いのか泣くほど悔しがる。その夜、政信が東京からオナゴがおらの嫁っこになるため来ると言って手紙を両親に見せる。女性の名前は両角ゆかりといい、政信の出稼ぎ先の社長の娘だという。信江の反応は短大卒かだか社長の娘だか知らねえが東京の娘っこなんか来てみれ、村の人だつに何とゆわれるだっと世間体重視のものであった。政太郎は文字はきれいだし、文面もしっかりしていると賛成の方向である。
- 政信本人は信江の拒否反応を見てなにやら口ごもるだけである。その夜更けに予定より早くゆかりが一人で高山家にやってきた。家に入ったゆかりは思わず政信に抱きつき、かつみは目をパチクリさせ、政太郎はあさっての方を向いている。政江はお風呂である。
- 段落の章
- 政江が風呂から上がり、ゆかりと対面となる。ゆかりは信江には自分で見立てた反物を、政太郎には父からと言ってパイプをお土産に差し出す。信江がお茶を入れようとすると、ゆかりはおかあさん、あたしが入れますと言う。お茶を入れながら信江は化粧も控えめであり、しゃべり方もはきはきして気さくな感じだと評価するが、農作業ができなければ村の笑いものになると心配は尽きない。
- 翌朝、トイレをがまんして、信江がようやく起きるとゆかりはもう拭き掃除をしている。ゆかりは今日からはお掃除もお食事の支度もみんなオレがやるだと方言を交えて言い、信江を驚かす。この事態は村中に知れ渡り、婦人会ではさすが村会議員の家だけあっていい嫁っこが授かるもんだと言われ、世間体の問題は信江の中では氷解したようだ。家に帰ってゆかりが帰ったと聞き、信江はバカッと政信をなじる。政信は走って追いつき、ゆかりを呼び戻す。
登場人物
登場人物は多岐にわたるが、本作品のあらすじを理解するのに必要な高山家の人たちだけを取り上げる。
- 高山 政太郎(たかやま せいたろう)
- 高山家の戸主。村会議員を2期努めている。お人好しで自分のことはさておいても他人の世話をする。
- 高山 信江(たかやま のぶえ)
- 政太郎の糟糠の妻というか山の神。負けん気が強く、亭主を尻の下に敷いている。世間体が判断基準になっていることが多い。
- 高山 政信(たかやま まさのぶ)
- 高山家の長男で跡取り息子。茫洋とした性格で万事に控えめである。
- 高山 信義(たかやま のぶよし)
- 高山家の次男。警視庁の機動隊に勤務している。
- 高山 よしみ(たかやま よしみ)
- 高山家の長女。吉祥寺の靴店に勤務している。
- 高山 義勝(たかやま よしかつ)
- 高山家の三男。横浜市の運送店に勤務している。
- 高山 かつみ(たかやま かつみ)
- 高山家の末っ子で高校生。プロポーションに自信をもっており、農作業は好きではない。
- 両角 ゆかり(もろずみ ゆかり)
- 政信が出稼ぎで働いている段ボール工場の社長の娘。政信の嫁になるため高山家にやって来る。
書誌情報
- 矢口高雄『おらが村』双葉社〈アクションコミックス〉、全3巻 - ISBNはない。
- 矢口高雄『おらが村』翔泳社、全2巻
- 1995年4月初版発行[6]、ISBN 4881351826
- 1995年4月初版発行[7]、 ISBN 4881351834
- 矢口高雄『おらが村』山と渓谷社〈ヤマケイ文庫〉、全1巻、2019年出版[8]、 ISBN 9784635048644
脚注
- ^ “若者の流出、空気に逆らえない人々……矢口高雄の40年前の名作漫画『おらが村』と現代日本、山と渓谷社2019年8月12日 掲載”. ブックバン. 2021年6月25日閲覧。
- ^ a b “「釣りキチ三平」の矢口高雄さんから発掘!”. NHK番組発掘プロジェクト通信. NHK (2019年11月22日). 2021年6月29日閲覧。
- ^ 第1巻奥付
- ^ 第2巻奥付
- ^ 第3巻奥付
- ^ “おらが村、翔泳社”. 国会図書館サーチ. 2021年6月25日閲覧。
- ^ “おらが村、翔泳社”. 国会図書館サーチ. 2021年6月25日閲覧。
- ^ “おらが村(ヤマケイ文庫)”. 国会図書館サーチ. 2021年6月25日閲覧。
外部リンク
- おらが村のページへのリンク