コピアポ鉱山落盤事故
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/27 05:57 UTC 版)
作業員の健康
8月23日、鉱夫たちと音声での交信が可能となった。健康上の問題はほとんどないことが報告された。「地下700メートルに閉じ込められ、高温多湿な中で18日間も過ごしたわりには想定していたほど彼らは不調をきたしていない」と救助隊の医師はメディアに語っており、また5 %ブドウ糖液と過度の空腹による胃潰瘍を抑える薬が彼らのもとに届いていることも伝えた[36]。物資は伝書鳩の役割にちなんで palomas(鳩)と名づけられた1.5メートルの青いプラスチックのカプセルによって1時間かけて搬送された[19][37]。エンジニアたちはボーリング穴をゲルで覆い、シャフトを補強するとともにカプセルが通過しやすくした[38]。高濃度のブドウ糖液や補水液、薬品などのほか、鉱夫たちが空気不足を伝えると酸素も送られるようになった[37]。固形食も数日してから運ばれている[37][39]。ボーリング穴は他にも2つ開けられた。1つが酸素を送るためで、もう1つが鉱夫の家族とビデオチャット用の装置を通すために使われた[39]。親族は手紙を書くことも許可されていたが、前向きな内容にするように要求された[19]。
鉱夫の士気を案じて、救助隊は検討されている計画では救出に数か月かかるかもしれないことを鉱夫たちに伝えることをためらった。
救助隊と顧問医は鉱夫たちが非常に統率のとれた集団だったとしている[32]。救助隊とともに働いた心理学者や医師は彼らを暇にさせず、精神を集中させるようにした[37]。タイマーつきの蛍光灯が届けられ、擬似的に再現された昼夜によって人間の通常の生活リズムが保たれるようにした[39]。鉱夫たちは救出に向けて尽力する人々の能力を確信し、「この地底から助け出すために、大勢のプロがいてくれている」と言った[40]。心理学者は鉱夫たちが悲観的にならず気力を保つためにはそれぞれに見合った仕事を受け持つことが大切だと確信した[40] 。彼らは8時間ごとのシフトを組む3つの班にわかれ、輸送カプセルの受け渡し、環境保全、それ以上の落盤を防ぐ安全管理、コミュニケーションや衛生関係の仕事を分担した[40][41][42][43]。ウルスアが全体を統括するリーダーとなり、最年長のゴメスが精神的な指導者に選ばれた[40]。精神衛生の専門家は集団が規律と規則を守ることが精神衛生のために重要だと信じ、集団が階級構造をとるよう補助した[44]。
医療の仕事を任せ、健康について相談させるのにはジョニ・バリオスが最適だというのが医師たちの判断だった。彼はかつて医療トレーニングを受けたことがあったためである[45]。彼は毎日回診をして診断票を作り、鉱夫たちのカルテを更新していた。地上の医療班とも毎日ミーティングをもっていた。彼が非常に忙しくなると、ダニエル・エレラを助手にして記録をつけるようになった[46]。バリオスは破傷風やジフテリア、インフルエンザ、肺炎の予防注射も行った[32]。鉱夫たちの多くは高温多湿の環境のため皮膚に大きな問題を抱えるようになった[32] 。速乾性の衣服やマットレスなどが送られたために、地面に直に眠る必要はなくなっていた[32] 。9月には止血帯や点滴薬、副木を含めた応急手当のキットが彼らのもとに届き、ビデオで応急処置を学習した[47]。
温度と湿度が高い環境では衛生は重要な問題となる。場所決めを徹底することで清潔さは保たれた。「どうすれば環境が保てるのか彼らはよくわかっていた。トイレとゴミ捨て場を決め、リサイクルさえしていた。プラスチックと生ごみの分別もしていた。自分たちのいる場所に気を使っていたということだ」と医師のアンドレス・リャレナは語った。彼らは天然の落水を日常のシャワーとして使い、石鹸とシャンプーを palomas から受け取った。汚れた衣服は送り返した。彼らはいくつかの水源も掘り上げ、医師により飲料に適すると判断されたうえで、井戸の浄水剤が送られた[46]。
環境と安全は第一の課題であった。19歳ともっとも若いジミー・サンチェスは「環境アシスタント」に任命され、毎日携帯用の機器で酸素と二酸化炭素を測定し空気の質を確かめた。温度は平均して31度であった。鉱夫たちによる班は落盤の危険のある箇所や天井から落石の危険のある箇所を特定するためにパトロールを行ったり、採掘作業の際に生じた水の流れを変える作業に従事したりした[46]。
ハイメ・マニャリク保健相は「今の状況は宇宙ステーションの片隅で数か月過ごす宇宙飛行士の生活にとてもよく似ている」と語った[48]。8月31日、NASAのスタッフがチリに到着し、救助を支援した。精神科医が2人、心理学者とエンジニアが1人ずつの4名である[49]。
救出後、チリの大学でトラウマ、ストレス、災害に関する学部を統括しているロドリゴ・フィゲロア博士は、地上の家族と鉱夫たちが交わした手紙を読んだり彼らの行動をモニターした結果、そこには深刻な欠陥が見られ、地下の鉱夫たちは急に「赤ん坊」に戻ってしまったかのようだったと述べた。しかし「33人」の生来の強さは健在で、災害に立ち向かうため彼らが自然とチームとして組織化されたのもまた人間の持つ脅威への対応のひとつである。また、鉱夫たちの健全な精神は一貫して見られ、その精神はこれからも再開した地上生活で試されるだろう[50]。
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