アラビア語 言語分布

アラビア語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/23 04:20 UTC 版)

言語分布

アラビア語話者の分布。濃い緑はアラビア語話者が多数を占める地域、薄い緑は少数のアラビア語話者が居住する地域を指す

現代標準アラビア語を公用語とする国家

アジア
アラブ首長国連邦 - イエメン共和国 - イラク共和国 - オマーン国 -
カタール国 - クウェート国 - サウジアラビア王国 - シリア・アラブ共和国 -
バーレーン王国 - パレスチナ国 - ヨルダン・ハシミテ王国 - レバノン共和国
アフリカ
アルジェリア民主人民共和国 - エジプト・アラブ共和国 - エリトリア国 - コモロ連合 -
西サハラ - ジブチ共和国 - スーダン共和国 - ソマリア - ソマリランド - チャド共和国 - チュニジア共和国 -
モーリタニア・イスラム共和国 - モロッコ王国 - リビア国

アラビア語を公用語としている国家のうち、アラブ首長国連邦、イエメン、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、シリア、バーレーン、パレスチナ、ヨルダン、レバノン、エジプト、リビア、チュニジアにおいては国民のほとんどがアラブ人で構成されており、公用語としてのフスハーと日常語としてのアーンミーヤのみを使用している。これはイスラム教徒以外のアラブ人も同様で、たとえばレバノンにはマロン派などのキリスト教徒も多数存在するが、民族的にはアラブ人であるためそのほとんどはフスハーとアラビア語レバノン方言を話す。アルジェリアにおいては国民の大半がアラビア語を話すものの、カビール語などのベルベル語諸語話者も存在する。レバノン、アルジェリアでは旧宗主国語のフランス語も通じる。ただし同国の公用語はアラビア語のみとなっている[3]。アラブ人多数の上でベルベル人がかなりの数存在するのは隣国のモロッコにおいても同様であるが、モロッコでは公用語はアラビア語とベルベル語の2言語体制となっている[4]。モロッコと領有権を争っている西サハラではアラブ語と共にスペイン語も使われる。イラクにおいては北部にクルド人が居住しているためにクルド語も公用語となっているが、アラビア語話者は多数派を占めている[5]。モーリタニアはアラビア語を使用するムーア人が多数を占め、アラビア語が公用語となっているが、南部を中心にアラビア語を使用しない黒人も多く、また旧フランス領だったためフランス語の影響力も強い。スーダンもアラブ系が多数を占めるものの、西部のフール人などのようにアラビア語を使用しない民族も多く存在し、紛争が絶えない。公用語はアラビア語と英語の二言語使用となっている。

こうしたアラブ人が多数を占める国家に対し、住民のほとんどがソマリ語を話すソマリ人であるソマリアや、同じくアファル人イッサ人が多数を占めるジブチ、スワヒリ語に近いコモロ語を主に使用するコモロなどのような、日常語としてアラビア語をほとんど使用しない地域においてもアラビア語が公用語とされることがある。これはこれら諸国がアラブ諸国との経済的・文化的結びつきが強く、またイスラム教徒がほとんどであるため典礼用言語であるフスハーを理解できるものが多く存在するためである。

アラビア語を公用語としている国家は増加傾向にある。これは、かつてイギリスやフランスの植民地だったアラブ人国家が独立後、公用語を英語やフランス語からアラビア語に変更する傾向が強いためである。特にアフリカにおいては、アラビア語圏以外のほとんどの新独立国が旧宗主国の公用語の使用を継続していることと明確な対比をなしている。こうした公用語の切り替えはアラブ人国家すべてで行われたものの、その深度や速度には国によって違いがみられた。旧英領諸国ではほとんどの国で公用語のアラビア語切り替えが実施されたものの、旧フランス領諸国ではモロッコやモーリタニアのように公用語をフランス語とアラビア語の2言語とする国家がいくつか存在し、アルジェリアのように積極的に言語切り替えが行われた国との差異が目立った。またアルジェリアにおいても、教育課程のアラビア語化は進んだものの官僚など政府の指導層がフランス語話者によって占有されている状況を打破することはできなかった[6]。アラビア語教育によって大衆のアラビア語化は進んだものの、エリート層はフランス語話者のままだったため、この二言語の話者間に階層的な対立が生じた[7]。さらにアルジェリアにおけるアラビア語化はイスラム主義と結びついていたために、イスラム主義の台頭を招き[8]、1990年代のアルジェリア内戦へとつながっていくこととなった。

現代口語アラビア語を公用語とする国

マルタ共和国マルタ語は、現代アラビア語口語の一変種である。語彙などの面でヨーロッパ諸語、特にイタリア語からの借用が多く、またラテン文字で綴られる[9]。現代アラビア語口語諸語の中で国家の公用語となっているのはマルタ・アラビア語のみである。

イスラエルにおけるアラビア語の状況

イスラエルにおけるアラビア語自治体の分布

英国委任統治領時代のパレスチナにおいては、英語、アラビア語、ならびにヘブライ語の3か国語が公用語とされた。そして、1948年のイスラエル建国後は、アラビア語とヘブライ語のみがイスラエルの公用語とされ[10]、英語は公用語ではなくなった。しかしながら、ユダヤ系イスラエル人の児童や生徒を対象とした初等教育ならびに中等教育機関においては、公用語であるアラビア語よりも公用語ではない英語の教育を重視している。アラブ系イスラエル人の児童や生徒を対象とした初等教育ならびに中等教育機関においては、ユダヤ系イスラエル人よりもアラビア語やアラブ文学などに割り当てられる時間数が多い。また、イスラエルにおける雇用条件において、多くの場合は「ヘブライ語と英語が話せること」が語学的な条件として課されており、公用語であるアラビア語は全く理解できなくても、イスラエル社会においては特に問題視されない。それ故、イスラエルにおけるアラビア語は、公式には公用語であるにもかかわらず、事実上はアラブ系イスラエル人というマイノリティのみが用いる言語になっている。イスラエルのアラブ人のかなりが、アラビア語のほかにヘブライ語も使用することができる[11]。また、現在のイスラエルにおける通貨や切手などは、ヘブライ語、アラビア語、ならびに、英語の3か国語で記載される。このような状況は建国以来70年近く続いてきたが、ベンヤミン・ネタニヤフ政権は2017年5月7日にアラビア語を公用語から外して国語へと格下げし、ヘブライ語のみを公用語とする閣議決定を行った。この閣議決定に対し、同国のアラブ人政党からは強い反発が起こった[12]

その他諸国におけるアラビア語

トルコ各県におけるアラビア語を母語とする住民の割合(1965年統計)
イラン各州におけるアラビア語を母語とする住民の割合(2010年統計)

イスラム教においてアラビア語は典礼用言語となっており、アラビア語のもの以外はクルアーンとして扱われないため、礼拝においては必ずアラビア語によってクルアーンを唱えることとなる。ただしクルアーンが翻訳されたものが注釈書として多くの言語圏において出版されているため、イスラム教徒にとってアラビア語は礼拝において必要であっても、内容の理解までは必ずしも必要ではない。このためアラビア語ができないイスラム教徒も非常に多く存在する。ただしクルアーンの内容を詳しく知るためにはアラビア語の知識は不可欠であり、このためイスラム教諸国においては熱心な信徒を中心に薄く広くアラビア語話者が存在する。

このほか、少数民族としてアラブ人が居住している地域においてもアラビア語は使用されている。イランの南西部にあるフーゼスターン州にはアラブ人が多く住み、アラビア語が多く話されている[13]

アラビア語を公用語とする国際機関

アラビア語は世界で4番目の話者人口を持ち、さらにその話者が一地方に集住しているため、言語として大きな影響力を持つ。このため、アラビア語は多くの国際機関において公用語とされている。なかでもアラブ連盟はアラブ人国家の地域協力機構であるため、アラビア語は唯一の公用語となっている。イスラム協力機構も、イスラム教の典礼用言語がアラビア語でありイスラム教圏のほとんどにアラビア語が広まっているためにアラビア語の影響力は大きく、英語、フランス語とともに公用語の一つとなっている。アフリカ連合においても、大陸北部を中心にアラビア語諸国は一大勢力を保っているため、英語、フランス語、ポルトガル語スワヒリ語とともに公用語とされている。アラビア語使用諸国は数も多くひとつの文明圏を形成しているため、国際連合においても1973年にアラビア語は公用語に追加され[14]、英語、フランス語、ロシア語中国語スペイン語とともに6つの公用語のひとつとされている。


注釈

  1. ^ Modern Standard Arabic
  2. ^ 関連する記事にタフスィールがある。
  3. ^ 学説によってはハムザを1文字と数えて29文字とする。また、27文字とすることもある。

出典

  1. ^ 「イスラーム世界のことばと文化」(世界のことばと文化シリーズ)p84-85 佐藤次高・岡田恵美子編著 早稲田大学国際言語文化研究所 成文堂 2008年3月31日初版第1刷
  2. ^ 「イスラーム世界のことばと文化」(世界のことばと文化シリーズ)p85-86 佐藤次高・岡田恵美子編著 早稲田大学国際言語文化研究所 成文堂 2008年3月31日初版第1刷
  3. ^ http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/algeria/data.html#section1 「アルジェリア基礎データ」日本国外務省 2017年6月21日閲覧
  4. ^ http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/morocco/data.html 「モロッコ基礎データ」日本国外務省 2017年6月21日閲覧
  5. ^ http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/iraq/data.html#section1 「イラク基礎データ」日本国外務省 2017年6月21日閲覧
  6. ^ 「アルジェリアを知るための62章」p357 私市正年編著 明石書店 2009年4月30日初版第1刷
  7. ^ 「アルジェリアを知るための62章」p153 私市正年編著 明石書店 2009年4月30日初版第1刷
  8. ^ 「アルジェリアを知るための62章」p358 私市正年編著 明石書店 2009年4月30日初版第1刷
  9. ^ 「アラビア語の世界 歴史と現在」p415-416 ケース・フェルステーヘ著 長渡陽一訳 三省堂 2015年9月20日第1刷
  10. ^ http://mfa.gov.il/MFA_Graphics/MFA%20Gallery/Documents%20languages/FactsJapanese08.pdf 「イスラエルの情報」p142 イスラエル外務省 2017年6月21日閲覧
  11. ^ 「イスラエルを知るための60章」p342 立山良司編著 明石書店 2012年7月31日初版第1刷 
  12. ^ http://www.afpbb.com/articles/-/3127540 「イスラエル、アラビア語を公用語から外す法案を閣議決定」AFPBB 2017年05月08日 2017年6月21日閲覧
  13. ^ 『イランを知るための65章』 岡田久美子・北原圭一、鈴木珠里編著 明石書店  2009年11月20日 p.74 ISBN 9784750319803
  14. ^ http://www.unic.or.jp/info/un/charter/membership_language/ 「加盟国と公用語」 国際連合広報センター 2017年6月21日閲覧
  15. ^ a b 「アラビア語の世界 歴史と現在」p345 ケース・フェルステーヘ著 長渡陽一訳 三省堂 2015年9月20日第1刷
  16. ^ 「アラビア語の世界 歴史と現在」p348-354 ケース・フェルステーヘ著 長渡陽一訳 三省堂 2015年9月20日第1刷






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