隔壁型起爆管とは? わかりやすく解説

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隔壁型起爆管

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/05 02:38 UTC 版)

隔壁型起爆管(かくへきがたきばくかん、英: Through Bulkhead Initiator、略称TBI)は、火工品の一種で、金属の隔壁(バルクヘッド)を介して入力側の爆轟(ドナー・チャージ)の衝撃を隔壁を破壊せずに出力側へ伝達し、出力側の起爆薬・点火薬(アクセプタ・チャージ)を作動させる点火装置である。主に固体ロケットのモータ点火や、分離・カッタ等の機構における信頼性の高い点火手段として用いられる。[1]

概要

隔壁型起爆管は、筒状または箱状のハウジング中央に金属製の隔壁を持ち、隔壁の両側に「ドナー(donor)爆薬」と「アクセプタ(acceptor)爆薬」または点火用の pyrotechnic が配置される。ドナーが起爆すると生じる衝撃波が隔壁を伝播し、隔壁の向こう側のアクセプタを起爆または作動させることで下流側の推薬等を点火する。隔壁は作動後も破壊されず、下流側の気密性・耐圧性を維持できる設計となっている。[2]

構造と動作原理

  • ドナー(入力)チャージ:小量の高性能爆薬または起爆薬で、起爆により強い衝撃波を発生させる。
  • 隔壁(バルクヘッド):衝撃波を伝える金属薄板。厚さ・材質・形状(平板・双凹など)が性能に大きく影響する。
  • アクセプタ(出力)チャージ:隔壁を通過した衝撃で起爆または強い熱・圧を発生させ、隣接する点火薬(pyrotechnic)を点火・発火させる。[3]

動作の要点は以下のとおりである。ドナーの起爆で発生した衝撃波は隔壁に作用し、その圧力波が隔壁を透過してアクセプタに到達する。隔壁材質や厚さが適切であれば隔壁は破壊されずに気密・耐圧性を保ちつつ、十分な衝撃エネルギーをアクセプタへ伝えることができる。[4]

設計上の留意点

  • 隔壁材質と厚さ:材料の相変化(圧力での相変化)や塑性変形の有無が衝撃波伝達に影響するため、耐衝撃性と加工性を両立する材料を選定する必要がある。研究ではAISI 304/304Lなどのステンレスがしばしば採用される。[5]
  • ドナーとアクセプタの最適化:ドナー量を増すと衝撃は強くなるが、隔壁の破壊リスクや周辺機器への「パイロショック」影響が増す。アクセプタは衝撃感度を考慮して選定する必要がある。[6]
  • 形状設計:平板から双凹(bi-concave)形状への改良により衝撃伝達効率や機械的安定性が向上することが報告されている。[7]

用途

隔壁型起爆管は以下の用途で採用されることが多い。

  • 固体ロケットのモータ点火(ソリッドロケットモータの点火チェーンの一部)。[8]
  • ロケット段間の分離やナット分割、カッタなどの分離機構の駆動。[9]
  • ガイドミサイルや打上げ機器における信頼性重視の起爆伝達手段。[10]

利点と課題

利点

  • 下流側の気密・耐圧を保持しつつ起爆信号を伝達できるため、密閉系での安全性・信頼性が高い。[11]
  • 電磁妨害(EMC)や雷サージに対する耐性が高く、電気的起爆手段に比べて外的ノイズに影響されにくい。[12]
  • 可動部がなく構造が単純で小型化・軽量化が可能。[13]

課題

  • 隔壁・チャージ設計の最適化が難しく、衝撃伝達と耐圧のトレードオフ調整が必要である。[14]
  • ドナー爆薬やアクセプタの感度管理、製造品質管理が求められる点は安全面の重要課題である。[15]

関連項目

脚注

  1. ^ JIS K 4800:2000「火薬用語」。
  2. ^ H-IIロケット等の火工品システムに関する技術報告。
  3. ^ Seung-gyo Jang et al., "On Design and Performance Simulation of Through Bulkhead Initiators", Propellants, Explosives, Pyrotechnics, 2025. DOI:10.1002/prep.12074.
  4. ^ 設計上は隔壁の材料(例:AISI 304/304L 等)と形状、ドナー・アクセプタの配合・量が重要であり、衝撃伝達と耐圧のトレードオフがある。
  5. ^ Seung-gyo Jang et al., 2025.
  6. ^ 同上。
  7. ^ 同上。
  8. ^ Pyroalliance 製品情報。
  9. ^ H-II 系の火工品システムに関する技術報告。
  10. ^ Pyroalliance 製品情報、学術論文。
  11. ^ Pyroalliance。
  12. ^ Pyroalliance。
  13. ^ 学術論文。
  14. ^ Seung-gyo Jang et al., 2025.
  15. ^ JIS・技術報告等。

参考文献

  • JIS K 4800:2000「火薬用語」。https://kikakurui.com/k4/K4800-2000-01.html(参照日: 2025-10-01)
  • Pyroalliance, "Pyrotechnic Through Bulkhead Initiator (TBI)"(製品説明)。https://pyroalliance.ariane.group (参照日: 2025-10-01)
  • Seung-gyo Jang, Doo-Hee Han, Won-kyu Kang, "On Design and Performance Simulation of Through Bulkhead Initiators", Propellants, Explosives, Pyrotechnics, 2025. DOI:10.1002/prep.12074(参照日: 2025-10-01)
  • H-II ロケット用火工品システムに関する技術報告(宇宙航空研究開発機構 / 学会誌資料)。(参照日: 2025-10-01)



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