千夜一夜物語のあらすじ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/19 15:35 UTC 版)
ジャアファルとバルマク家の最後(第994夜 - 第998夜)
教王ハールーン・アル・ラシードはメッカ巡礼の帰途、僧院で饗宴を開いていた。しかし普段陪食する大臣・ジャアファルは、医師のジブライル・バフティアス等と共に狩に出ていたためその場にいなかった。
その晩ジャアファルがテントでマンドラの演奏を聞いていたところ、教王の御佩刀持ちマスルールがいきなり訊ねてくる。胸騒ぎを覚えたジャアファルが何事か訊ねると、教王がジャアファルの首級を欲しがっていると告白された。驚いたジャアファルはマスルールに、処刑の理由を王に聞いてくるよう頼んだが受け入れてもらえなかった。観念したジャアファルは自ら目隠しをして、首を落とされることとなる。
マスルールが首級を持ち帰ったところ、教王はそれに痰を吐き掛けたばかりでなくジャアファルの遺体を磔にするなどしてバルマク一門に恥辱を与えた。また一千名に値するバルマク家の一族は投獄され、ジャアファルの父・ヤハヤーと兄のエル・ファズルは拷問に処された。
この動機については話中で以下のことがあげられている。
- バルマク家に権力が偏りすぎ、また民衆の人気がジャアファル達に傾いていることを教王が不満に感じたため。このことは医師のジブライル・バフティアスが直接教王の口から聞いたとされている。
- アッバース朝の脅威になるかもしれないと判断され、暗殺の計画が立てられていたアリー家の子供を、哀れに思ったジャアファルが逃がしてしまったため。この行為について教王が問いただしたとき、全く反省の様子を見せなかったジャアファルに怒りを抱いたとされている。
- 元来拝火教の一門でありながら回教に改宗したバルマク家だが、邪教とされた他宗教の肩を持つことが多く、信仰心が疑われたから。
- また教王は自分の妹アッバーサを深く愛していたため、これをジャアファルと結婚させた。しかし教王は二人に対し、教王の前以外で二人の逢瀬を重ねることを禁止し形式のみの結婚を強要した。ジャアファルは律儀にこれを守ろうとしたが、これに不満を抱いたアッバーサは女奴隷に扮し夜ジャアファルの部屋に行く。女奴隷の正体がアッバーサだと気づかなかったジャアファルは王との誓約を破り、一夜を共にしてしまう。これで身ごもってしまったアッバーサとジャアファルは王の逆鱗に触れることとなってしまったから。
ジャアファルの処刑後のある日、風呂屋にて詩人のムハンマドがエル・ファズルの令息の誕生を祝うために作られた自作の詞を口ずさんでいると、風呂屋の少年が気を失ってしまい、泣きながら逃げ出してしまった。 風呂から出たムハンマドがそのことについて問い詰めたところ、その少年は自分がエル・ファズルの令息だったと告白する。落ちぶれてしまった少年の身を案じたムハンマドは養子をしてその子を引き取ろうとするが、誇り高い少年はそれを断ってしまった。
教王の方はバグダードに戻ろうとはせず、ラッカーの地に居を定めにいった。しかしジャアファルを殺してしまった教王はそのことを悔やみ、他の宦官がバルマク家のことを思い出させる発言をする度不機嫌になった。また教王はジャアファルを殺したことや子供達に王位を狙われていることで苦しむ中、マスルールやジブライル等をも不信に感じるようになる。
そして教王はホラーサーンの遠征途中で眠っていたところ、頭に手が伸びてくるのを見た。その手は赤土を握り、またある声が「トゥースの町にて教王は死す」という旨のことを言った。後日病の悪化でトゥースの町に立ち寄った教王は激しい不安を感じ、マスルールに町の土を取ってこさせる。その土は赤く、教王は夢を思い出して嘆いた。そして教王はトゥースの町で崩御し、アッバース朝第5代は幕を閉じた。
- ^ 国立民族学博物館教授 西尾哲夫、NHK2013年11月6日放送「100分de名著 アラビアンナイト」第1回。NHK出版100分de名著『アラビアンナイト』2013年11月。
- ^ 「Shahryār, a "Sasanian king" ruling in "India and China"」ペンギン古典ブックス・アラビアンナイト「The Arabian Nights」, translated by Malcolm C. Lyons and Ursula Lyons (Penguin Classics, 2008), Volume 1, page 1
- ^ [1]、"The Arabian Nights", Husain Haddawy訳, Based on the text of the 14th-century Syrian manuscript edited by Muhsin Mahdi,p.9, Everyman's Library 87,1992, ISBN 0-679-41338-3(US)
- ^ Richard Francis Burton (英語), The_Book_of_the_Thousand_Nights_and_a_Night/Volume_6, ウィキソースより閲覧。
- 1 千夜一夜物語のあらすじとは
- 2 千夜一夜物語のあらすじの概要
- 3 漁師と鬼神との物語(第3夜 - 第9夜)
- 4 荷かつぎ人足と乙女たちとの物語(第9夜 - 第18夜)
- 5 斬られた女と三つの林檎と黒人リハンとの物語(第18夜 - 第24夜)
- 6 せむし男および仕立屋とキリスト教徒の仲買人と御用係とユダヤ人の医者との物語(第24夜 - 第32夜)
- 7 美しいアニス・アル・ジャリスとアリ・ヌールの物語(第32夜 - 第36夜)
- 8 ガネム・ベン・アイユーブとその妹フェトナーの物語(第36夜 - 第44夜)
- 9 オマル・アル・ネマーン王とそのいみじき二人の王子シャールカーンとダウールマカーンとの軍物語(第44夜 - 第145夜)
- 10 鳥獣佳話(第146夜 - 第151夜)
- 11 美しきシャムスエンナハールとアリ・ベン・ベッカルの物語(第152夜 - 第169夜)
- 12 カマラルザマーンとあらゆる月のうち最もうるわしい月ブドゥール姫との物語(第170夜 - 第236夜)
- 13 「幸男」と「幸女」の物語(第237夜 - 第248夜)
- 14 「ほくろ」の物語(第250夜 - 第269夜)
- 15 博学のタワッドドの物語(第270夜 - 第287夜)
- 16 美しきズームルッドと「栄光」の息子アリシャールとの物語(第316夜 - 第331夜)
- 17 色異なる六人の乙女の物語(第331夜 - 第338夜)
- 18 肉屋ワルダーンと大臣の娘の話(第353夜 - 第355夜)
- 19 地下の姫ヤムリカ女王の物語(第355夜 - 第373夜)
- 20 智恵の花園と粋の庭(第373夜 - 第393夜)
- 21 奇怪な教王(第393夜 - 第399夜)
- 22 「蕾の薔薇」と「世の歓び」の物語(第399夜 - 第414夜)
- 23 黒檀の馬奇談(第414夜 - 第432夜)
- 24 女ペテン師ダリラとその娘の女いかさま師ザイナブとが、蛾のアフマードやペストのハサンや水銀のアリとだましあいをした物語(第432夜 - 第465夜)
- 25 漁師ジゥデルの物語または魔法の袋(第465夜 - 第487夜)
- 26 アブー・キールとアブー・シールの物語(第487夜 - 第501夜)
- 27 匂える園の道話(第502夜 - 第505夜)
- 28 陸のアブドゥッラーと海のアブドゥッラーの物語(第505夜 - 第515夜)
- 29 黄色い若者の物語(第515夜 - 第526夜)
- 30 「柘榴の花」と「月の微笑」の物語(第526夜 - 第549夜)
- 31 モースルのイスハークの冬の一夜(第549夜 - 第551夜)
- 32 ハサン・アル・バスリの冒険(第576夜 - 第615夜)
- 33 陽気で無作法な連中の座談集(第616夜 - 第622夜)
- 34 眼を覚ました永眠の男の物語(第622夜 - 第653夜)
- 35 ザイン・アル・マワシフの恋(第653夜 - 第666夜)
- 36 不精な若者の物語(第666夜 - 第671夜)
- 37 若者ヌールと勇ましいフランク王女の物語(第671夜 - 第714夜)
- 38 寛仁大度とは何、世に処する道はいかにと論じ合うこと(第714夜 - 第720夜)
- 39 処女の鏡の驚くべき物語(第720夜 - 第731夜)
- 40 アラジンと魔法のランプの物語(第731夜 - 第774夜)
- 41 人の世のまことの智恵のたとえ話(第774夜)
- 42 羊の脚の物語(第787夜 - 第788夜)
- 43 運命の鍵(第788夜 - 第794夜)
- 44 巧みな諧謔と愉しい頓智の集い(第794夜 - 第806夜)
- 45 ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(第807夜 - 第814夜)
- 46 「真珠華」の物語(第814夜 - 第819夜)
- 47 帝王マハムードの二つの世界(第819夜 - 第821夜)
- 48 底なしの宝庫(第821夜 - 第826夜)
- 49 気の毒な不義の子のこみいった物語(第826夜 - 第844夜)
- 50 九十九の晒首の下での問答(第844夜 - 第847夜)
- 51 バグダードの橋上でアル・ラシードの出会った人たち(第860夜 - 第876夜)
- 52 スレイカ姫の物語(第876夜 - 第881夜)
- 53 のどかな青春の団欒(第881夜 - 第894夜)
- 54 不思議な書物の物語(第895夜 - 第904夜)
- 55 金剛王子の華麗な物語(第904夜 - 第922夜)
- 56 滑稽頓智の達人のさまざまな奇行と戦術(第922夜 - 第925夜)
- 57 海の薔薇とシナの乙女の物語(第954夜 - 第959夜)
- 58 蜂蜜入りの乱れ髪菓子と靴直しの禍をまきちらす女房との物語(第959夜 - 第971夜)
- 59 智恵と歴史の天窓(第971夜 - 第994夜)
- 60 ジャアファルとバルマク家の最後(第994夜 - 第998夜)
- 61 ジャスミン王子とアーモンド姫の優しい物語(第998夜 - 第1001夜)
- 62 大団円
- 千夜一夜物語のあらすじのページへのリンク