数学教育協議会とは? わかりやすく解説

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数学教育協議会

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/02 01:47 UTC 版)

数学教育協議会(すうがくきょういくきょうぎかい、: The Association of Mathematical Instruction[1])とは、1951年昭和26年)4月に発足した、数学教育に関する民間教育研究団体[8]。略称は数教協[2](AMI[1])。その目的は当時の生活単元学習の数学教育によって、児童の計算力の低下や論理的思考の意欲低下が生じていることに危機感を覚えた数学者達が、生活単元学習に代わる新しい数学教育を打ち立てることであった[9]。その研究過程で1958年に水道方式と名付けられた計算指導の理論を生み出し、数学教育の現代化を主張して指導要領や教科書を批判しつつ、「たのしい数学」の実践的研究活動を展開した[10][11]。1950-1960年代の数教協の理論・実践への取り組みは他教科・他団体にも大きな影響を与え、21世紀にも研究対象となっている[12][13][14][15]


注釈

  1. ^ 敗戦後の1947年(昭和22年)に示された学習指導要領(試案)で行われた学習方法。1949年(昭和24年)の教科書から実施され1960年(昭和35年)まで続いた。生活経験のなかから学習を展開するというスタイルで授業が行われたが[16]、遠山らは無系統的な学習内容と、低い学力水準を批判した[17]
  2. ^ 創立時に会の名称を考えたとき「数学教育者協議会」の提案もあったが、「それでは数学教師しか会員になれないから、運動の幅が狭くなる」ということで、「者」をとってこの名称となった[20]
  3. ^ 「近代化」の後[26]、1959年頃から数教協は「数学教育の現代化」を展開した[27][28]。同時代に「教育の現代化」は多く聞かれたが、数教協の現代化は他団体にも影響を与えたと言われている[29][2]。後年の教育研究では、「数学教育の現代化」や「現代化」として取り上げられている[30][31][14][32]
  4. ^ 1961年(昭和36年)から1970年(昭和45年)までは系統学習時代といわれる。生活単元学習に基づく教育に対し、学力の低下が叫ばれ、算数・数学の目標をどうとらえるのか、身につけさせるべき学力とは何かが論じられた。新しく告示された学習指導要領では、算数・数学の系統性が強調され、学習内容はおおよそ戦前と同程度のものとなった。また、この時代の学習指導要領から「試案」の位置づけではなくなり、文部省告示として示された[16]
  5. ^ 数の指導において、物の個数を直観的に把握させること、つまり集合数としての数の役割を重視する考え方を直観主義といい、物を数えるという操作を通して把握させること,つまり順序数としての数の役割を重視する考え方を数え主義という[35]
  6. ^ いつ誰が考案したか不明だが、遠山は講座でこのゲームを行っている。(1)四人一組になり、1から5までの合計20枚のトランプを、ひとり5枚ずつ配る。(2)赤札(ダイヤとハート)はプラス、黒札(スペードとクラブ)はマイナスと決める。(3)ババ抜きの要領で左の人から1枚抜いた後、自分の札の合計が一位らしいと感じたらストップをかける。(4)そこで全員の持ち札を公開し、その時の合計点が各自の点数となる。(5)ストップをかけた人のヤマが外れて一位でなかったら、最下位の人と持ち点を交換する。(6)逆に黒札が多くて自分が最下位だと思ったらストップをかけて、その通りだったら全員の得点のプラスとマイナスが逆転する。このゲームでは初めに「プラスは得」「マイナスは損」と教えておき、このゲームを何回かやるとプラスマイナスの意味から計算法まですっかりわかるという[64]
  7. ^ 1965年10月出版(NCID BA39216679)、1972年4月から1974年6月に第1回改訂(NCID BA39216103)、1979年1月以降に第2回改訂(NCID BN08589345)がなされている。
  8. ^ 1年(ISBN 9784337563018)、2年(ISBN 9784337563025)、3年(ISBN 9784337563032)、4年(ISBN 9784337563049)、5年(ISBN 9784337563056)、6年(ISBN 9784337563063)。
  9. ^ 絵は 沢田としき による(NCID BA57502443)。 文庫化される前の原本は 石原きよたか 著、沢田としき 絵『「算数」を探しに行こう! ― 「式」や「計算」のしくみがわかる5つの物語―』デジタルハリウッド出版局、駿台社 発売、1999年2月、ISBN 4925140051

出典

  1. ^ a b c d Q 数教協をAMIというようですが、何の略ですか”. 数教協(AMI)Q&A. 数学教育協議会. 2021年12月31日(UTC)閲覧。
  2. ^ a b c 香川七海 2019, p. 74.
  3. ^ 倉田令二朗 1977a, p. 894.
  4. ^ 主な役員”. 入会案内”. 数学教育協会常任幹事会. 2021年12月31日(UTC)閲覧。
  5. ^ a b c 今年度の主な役員(2019.8現在)”. 数学教育協議会. 2021年12月31日(UTC)閲覧。
  6. ^ a b AMI中央/地方事務局”. 数学教育協議会. 2020年5月15日閲覧。
  7. ^ a b c AMI数学教室”. 数学教育協議会. 2020年5月15日閲覧。
  8. ^ 遠山啓1963a, p. 151.
  9. ^ 遠山啓1963a, p. 152.
  10. ^ 遠山啓 1959, pp. 158–165.
  11. ^ 遠山啓 1977b.
  12. ^ 下司ほか 2015.
  13. ^ a b 本田伊克. “博士論文要旨 論文題目:1950,60年代の民間教育研究運動の成果と課題に関する学校知識論的考察-数学教育協議会の事例に即して- 著者:本田 伊克 (HONDA, Yoshikatsu)博士号取得年月日:2009年6月29日”. 一橋大学大学院社会学研究科・社会学部. 2020年5月15日閲覧。
  14. ^ a b c 木村元ほか. “博士論文審査要旨 論文題目:1950,60年代の民間教育研究運動の成果と課題に関する学校知識論的考察-数学教育協議会の事例に即して- 著者:本田 伊克 (HONDA, Yoshikatsu) 論文審査委員:木村 元、中田 康彦、尾崎 正峰、町村 敬志”. 一橋大学大学院社会学研究科・社会学部. 2020年5月15日閲覧。
  15. ^ a b 香川七海「戦後漢字教育実践史研究・寸描 ― 教育雑誌『ひと』誌上の漢字教育実践を中心に ―」『日本教科教育学会誌』第39巻第4号、2017年、45-58頁。
  16. ^ a b 教科書いまむかし 生活単元学習時代”. 大日本図書. 2020年5月13日閲覧。
  17. ^ 遠山啓 1959, pp. 158–159.
  18. ^ 遠山啓 1963a, pp. 148–149.
  19. ^ a b 遠山啓 1963a, pp. 150–151.
  20. ^ 遠山啓 1977c, p. 201.
  21. ^ a b 遠山啓 1963a, pp. 151–152.
  22. ^ 遠山啓 1963a, p. 156.
  23. ^ 遠山啓 1963a, p. 153.
  24. ^ 遠山啓 1963a, p. 157.
  25. ^ a b c 遠山啓 1959, p. 161.
  26. ^ a b 船山・藤岡 1970, p. 217.
  27. ^ 船山・藤岡 1970, p. 215.
  28. ^ 横須賀薫「子どもの発達と教育 ― 教育学の自立について―」『教育学研究』第44巻第4号、1977年、300-306頁。
  29. ^ 船山・藤岡 1970.
  30. ^ a b c 野中佳代 1986.
  31. ^ 柿沼ほか 1996.
  32. ^ 香川七海 2019.
  33. ^ a b c 遠山啓 1961, p. 173.
  34. ^ a b 遠山啓 1961, p. 174.
  35. ^ 集合数・順序数”. 算数用語集 ―算数用語とその指導のポイント―. 新興出版社啓林館. 2020年5月13日閲覧。
  36. ^ a b 遠山啓 1977c, p. 197.
  37. ^ a b 竹内三郎 2019, p. 296.
  38. ^ 遠山啓 1977c, p. 198.
  39. ^ 遠山啓 1977c, pp. 198–199.
  40. ^ 遠山啓 1963b, p. 178.
  41. ^ a b 遠山啓 1977c, p. 202.
  42. ^ a b 菅岡強司「授業に遊戯性を導入することの意味 ― 算数・数学教育の場合を中心に ―」『教育方法学研究』第11巻、1986年、87-95頁。
  43. ^ a b 遠山啓 1977c, p. 203.
  44. ^ 松下佳代「教材・教具の分析の枠組 ― 問題解決の観点から ―」『教育方法学研究』第17巻、1992年、67-75頁。
  45. ^ a b c d e f g h i j Q 数教協の大まかな歴史が知りたいのですが”. 数教協(AMI)Q&A. 数学教育協議会. 2021年12月31日(UTC)閲覧。
  46. ^ a b 小林道正「世界に広がる数教協 韓国での国際会議(ICME12)」『数学教室』2013年4月号。
  47. ^ a b c d e f AMI ICME情報”. 数学教育協議会. 2020年5月16日閲覧。
  48. ^ 吉田一「ICME-1O参加報告」『数学教室』2004年10月号。
  49. ^ 野町直史「立体パズル,ポスター発表」『数学教室』2013年4月号。
  50. ^ 黒田俊郎「塩の授業,ポスター展示」『数学教室』2013年4月号。
  51. ^ ISBN 4877390669
  52. ^ 大野栄三「小学生の学力は「下がった」か?」『日本物理学会誌』第60巻第6号、2005年、471-474頁。
  53. ^ 下司ほか 2015, p. 155.
  54. ^ 中村好則「算数学習におけるつまずきと支援の分析」『数学教育学会誌』第55巻第3-4号、2014年、109-118頁。
  55. ^ a b 三宅信一、駒林邦夫「教育実践と教育学研究-教科教育学研究に即して」『教育学研究』第53巻第3号、1986年、268-275頁。
  56. ^ a b c d e f 倉田令二朗 1977a, p. 895.
  57. ^ 野中佳代 1986, p. 101.
  58. ^ 野中佳代 1986, pp. 101–102.
  59. ^ 野中佳代 1986, pp. 100–102.
  60. ^ 倉田令二朗 1977b, p. 430.
  61. ^ 三村和則「教授学的単純化の原理と方法に関する一考察」『教育方法学研究』第12巻、1987年、39-47頁。
  62. ^ 仲山佳秀「ダウン症候群児の算数の指導事例」『心理科学』第20巻第1号、1998年、21-26頁。
  63. ^ 遠山啓1977a, p. 229.
  64. ^ 遠山啓 1972, pp. 180–181.
  65. ^ a b 遠山啓 1977a, p. 230.
  66. ^ a b 松下佳代 1990, p. 117.
  67. ^ 訃報”. 数学セミナー 編集部ブログ. 日本評論社. 2021年12月31日(UTC)閲覧。
  68. ^ AMI全国研究大会. 数学教育協議会. 2020年5月15日閲覧。
  69. ^ 集会情報”. 数学教育協議会. 2020年5月26日閲覧。
  70. ^ NCID AN00125138
  71. ^ 岡野勉、大田邦郎「量の測定にもとづく分数の導入」『教育方法学研究』第24巻、1999年、85-94頁。
  72. ^ 岡野勉「明治検定期算術教科書における分数の導入過程 ― 意味付け・説明の方法に注目して ―」『教育方法学研究』第25巻、2000年、79-87頁。
  73. ^ a b 森田尚人「『季刊・教育学』とその時代 : 民間教育運動が輝いていた頃(平成24年度大学院特別講義録)」『教育學雑誌』第49巻2014年、53-74頁。
  74. ^ 松下佳代 1990.


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