エイドリアン・ビームス

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エイドリアン・ビームス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』 (2023/04/18 13:24 UTC 版)

エイドリアン・ビームス（Adrienne Beames、1942年9月7日 - 2018年12月27日^[1]）は、オーストラリアの女性陸上競技（長距離走）選手で^[2]、しばしば「世界で初めてマラソンで3時間の壁を破った女性」として紹介される^[3][4][5]。

来歴

オーストラリアンフットボールやファーストクラス・クリケット（英語版）の選手で、ジャーナリストでもあったパーシー・ビームズ（英語版）を父として生まれる^[6]。ランニングを始める前はテニスやスカッシュに秀でていた。

1971年のマラソン

1970年代初頭、女性のマラソンは強い反対論に直面していた^[4][7][8]。女子の公認陸上トラック競技の最長は1500mだった^[6]。ビームズが公式にマラソンに参加しようとして拒否されると、彼女とそのコーチであるフレッド・バーウィックはビクトリア州ウェリビー（英語版）の公認コースでの女子招待レースを企画した^[4][6]。バーウィックの要求に対して、ビクトリア州女子アマチュア陸上競技協会は、レースの計時を拒否した^[6]。

1971年8月31日、ビームズがウェリビーのレースを2時間46分30秒で走り、ベス・ボナー（英語版）が3か月前にフィラデルフィアのAAU東部地区チャンピオンシップで樹立した3時間01分42秒の記録を破ったと、バーウィックは主張した^[3][9]。いくつかの文献によれば、1974年10月27日にシャンタル・ラングラス（英語版）がヌフブリザック（英語版）で2時間46分24秒の記録を樹立するまで、記録を維持した^[3]。別のいくつかの文献はビームズの記録の正当性を疑い、ボナーが1971年9月19日にニューヨークシティマラソンで2時間55分22秒を記録したのが女子初の3時間突破であったとする^[10]。当時取材に当たったスポーツライターのジョン・クレイブンは、コースが必要な距離を満たしていたかどうかを疑問視した^[11]。一方、マラソン史に詳しい日本の高橋進は、「一部の者はその記録の真偽を疑った。後日、レースの模様が詳しく伝わり、この記録の真実性が裏付けられた」と著書に記し、アメリカではビームズの記録を認めなかったとしている^[5]。高橋によると、レースの参加者は18人でそのうち完走したのはビームスを含め15人だった^{[5][注釈 1]}。

「タイム・トライアル」と報じられたビームスの記録は、公式に検証されたり認められることはなかった^{[4][7][9][12]}。国際陸上競技連盟は、マラソン世界記録の推移において、この記録を認めていない^[13]。

1972年の活動

1972年1月を通して、ビームスのコーチであるフレッド・バーウィックは、実施した私的な複数のタイムトライアルをビームスは完走して複数の世界記録を樹立したと主張した。すなわち、5000mに15分48秒6、、1マイルに4分28秒8、1500mに4分09秒6、そして10000mに34分08秒である。これらはいずれも独立した監視員がおらず、疑問視された^[11]。

ビームスはシドニーで現地の公認機関の許可なくレースに出場したため、出場停止処分を下され、1972年ミュンヘンオリンピック出場の望みを絶たれた^[4]。

その後

1970年代にビームスはアメリカ合衆国に移って学び、働き、そしてロードレースに出場した^[4][6]。ビームスは1974年まで、マラソンのほかに5000mと10000mの女子世界記録を保持した^[14]。ビームスは1977年10月10日にアリゾナ州スコッツデールのマラソンに出場して2時間46分32秒の公式記録を樹立した。しかし、コースをショートカットしたという理由で失格となった^[15]。1983年7月23日に初めて開催されたアシックス・ハーフマラソン（ゴールドコーストマラソン（英語版）と同時開催）に1時間22分15秒で優勝した^[16][17]。

1990年にスポーツ科学のグラジュエート・ディプロマを取得した^[6]。

脚注

注釈

1. ^ 高橋は、ビームスの順位を「全体の5位」と記しており^[5]、これに従えば実際は男女混合レースだったことになる。

出典

1. ^ “Farewell to a long-running enigma” (英語). Sportshounds.com.au. (2019年1月17日). https://sportshounds.com.au/2019/01/17/farewell-to-a-long-running-enigma/ 2023年4月13日閲覧。 
2. ^ “AUSTRALIAN ALL-TIME LIST compiled by Paul Jenes” (英語). ATHLETICS VICTORIA. 2010年2月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月18日閲覧。
3. ^ ^{a b c} “Women's World Record Times - 1971 to 1977” (英語). Marathonguide.com. 2023年4月14日閲覧。
4. ^ ^{a b c d e f} Howe, Charles. “Out of the bushes, ahead of the ambulance, and into the spotlight: milestones in the history of women's (mostly distance) running, Part I” (PDF) (英語). Rundynamics. 2009年6月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年6月9日閲覧。
5. ^ ^{a b c d} 高橋進『輝け!女子マラソン』碩文社、1983年、pp.71 - 72
6. ^ ^{a b c d e f} “Archived copy” (英語). 2010年1月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月14日閲覧。
7. ^ ^{a b} “Marathon & Beyond -- the web site for marathoners and ultrarunners” (英語). 2009年4月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年6月3日閲覧。
8. ^ “The Fight to Establish the Women's Marathon Race” (英語). 2023年4月18日閲覧。
9. ^ ^{a b} “World Marathon Rankings for 1971” (英語). Association of Road Racing Statisticians. 2023年4月18日閲覧。
10. ^ Benyo, Richard; Henderson, Joe (2002) (英語). Running Encyclopedia. Human Kinetics. p. 290. ISBN 9780736037341. https://archive.org/details/runningencyclope00rich. "adrienne beames." 
11. ^ ^{a b} Mark, David (2019年12月21日). “'Nobody else saw it': The mystery of a women's world record that defies belief” (英語). ABC News. 2019年12月21日閲覧。
12. ^ カール・レナルツ（ドイツ語版）「Violence at the Women’s Marathon Race (PDF) 」（英語）
13. ^ “12th IAAF World Championships In Athletics: IAAF Statistics Handbook. Berlin 2009.”. Monte Carlo: IAAF Media & Public Relations Department. p. 653 (2009年). 2011年6月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年5月23日閲覧。
14. ^ “Australian Middle and Long Distance Running in the 21st Century” (PDF) (英語). benson.com. 2009年9月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月18日閲覧。
15. ^ World Marathon Rankings for 1977 - Association of Road Racing Statisticians（英語）
16. ^ “Gold Coast Marathon” (英語). 2012年12月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月18日閲覧。
17. ^ arrs.run - Association of Road Racing Statisticians（英語）