磁気共鳴血管画像
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/02 11:01 UTC 版)
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磁気共鳴血管画像([要読み仮名]Magnetic Resonance Angiography, MRA)は、磁気共鳴画像法(MRI)の発展によって実現した血管評価のための非侵襲的技術である。
放射線被ばくを伴う従来のX線血管造影やCT血管造影とは異なり、MRAは体への負担が少なく、繰り返し検査が可能という利点を持つ。
近年では、3T MRI装置や高分解能撮像技術の普及により、脳血管疾患から末梢動脈疾患まで幅広い領域での診断精度が向上している。さらに4DフローMRIなどの新技術の登場により、単なる形態評価にとどまらず、血流動態の解析や術前計画支援といった臨床的役割も拡大している。
定義と概要
磁気共鳴血管画像(Magnetic Resonance Angiography, MRA)は、磁気共鳴画像法(MRI)を応用して血管や血流を非侵襲的に描出する技術である。MRAは大きく、造影剤を用いる方法と、用いない方法に分類される[1]。
MRAには、ガドリニウム造影剤を使用して短時間で広範囲を高解像度に描出できる造影MRA(Contrast-enhanced MRA, CE-MRA)と、造影剤を使用せずに血流の物理的特性を利用して血管を描出する非造影MRA(Non-contrast-enhanced MRA, NCE-MRA)がある。前者は末梢血管や大血管の評価に有効である一方、腎性全身性線維症(NSF)のリスクが課題となる。後者には、Time-of-Flight(TOF)法、Phase-Contrast(PC)法、Quiescent Interval Single-Shot(QISS)、Fresh Blood Imaging(FBI)など複数の手法が開発されており、患者背景や対象血管に応じて使い分けられる。
非造影MRAには、Time-of-Flight (TOF) 法やPhase-Contrast (PC) 法が広く用いられており、血流の流入効果や速度情報を利用して血管を描出する[2]。これに加え、新しい非造影法としてFresh Blood Imaging (FBI)、Quiescent Interval Single-Shot (QISS)、Velocity-Selective MRAなどが報告されている[3][4]。
一方で、造影剤を用いるContrast-enhanced MRA (CE-MRA) は、広範囲かつ高空間分解能での血管描出を可能にし、短時間撮像にも適している。そのため、末梢動脈や大血管の評価に有効であるが、腎機能障害患者では腎性全身性線維症(NSF)のリスクが報告されている[5][3]。
MRAは、脳血管疾患(動脈瘤、狭窄・閉塞病変)、頸動脈病変、末梢動脈疾患の診断に広く応用されており、従来のX線血管造影(DSA)やCT血管造影(CTA)と比較して、被曝や造影剤による副作用が少ないという利点を持つ[1][2]。
原理と分類
磁気共鳴血管画像(Magnetic Resonance Angiography: MRA)は、血管内信号強度と造影剤使用の有無によって分類される。血管内信号強度に基づく分類では、血液が高信号に描出される「bright blood MRA」と、低信号に描出される「dark blood MRA」とがある。また、造影剤使用の有無により、造影MRA(CE-MRA)と非造影MRA(NC-MRA)に分けられる[6]。
非造影MRAはさらに、血流依存型(flow-dependent)と血流非依存型(flow-independent)に細分類される。代表的な手法として、Time-of-Flight(TOF)法、Phase-Contrast(PC)法、Fresh Blood Imaging(FBI)法、balanced Steady-State Free Precession(bSSFP)法などが挙げられる[6][7]。
TOF法は流入効果を利用して血流を描出する方法で、特に頭頸部や脳動脈の評価に用いられる[7][8]。PC法はスピン位相差を利用して流速や方向を計測でき、血流動態解析にも応用される[7][8]。FBI法は心周期に伴う血流速度の違いを利用し、末梢動脈などの描出に適している[7]。bSSFP法はT2/T1比を強調することで血液を高信号として描出し、心大血管や冠動脈の評価に広く利用される[6][9]。
一方、造影MRA(CE-MRA)はガドリニウム造影剤を使用する手法であり、短時間で広範囲の血管描出が可能であることから、体幹部や末梢血管の評価に有用である[6][10]。また、非造影MRAは造影剤の使用が制限される腎不全患者、小児、妊婦などにおいて特に有用とされている[9][10]。
臨床応用と適応
磁気共鳴血管画像(MRA)は、造影剤を用いた手法(CE-MRA)と造影剤を用いない手法(NCE-MRA)に大別され、脳血管・冠動脈・腎動脈・末梢動脈など多領域で臨床的に応用されている。冠動脈MRA(CMRA)は、冠動脈異常や冠動脈バイパスグラフトの開存性評価、さらには川崎病など小児心疾患における診断にも有効である[11]。特に非造影冠動脈MRAは、腎機能障害や造影剤禁忌患者に対して有用であり、放射線被ばくがないことから臨床的利点が大きい[12]。
MRAの技術的進展としては、造影法(CE-MRA)に加え、非造影法としてのTime-of-Flight(TOF)、Phase Contrast(PC)、Steady-State Free Precession(SSFP)などが確立され、臨床適応が拡大している[13]。さらに7テスラ(7T)MRIによるTOF-MRAは従来の3T装置を凌駕する描出能を示し、脳動脈瘤や脳動静脈奇形などにおいてデジタルサブトラクション血管造影(DSA)と比較しても高い診断精度を持つことが報告されている[14]。
近年のMRAは、3T装置や高分解能技術の発展、造影剤使用量の低減などにより、頭頸部、冠動脈、末梢動脈など幅広い領域において臨床応用が拡大し、従来の侵襲的血管造影に代わる非侵襲的診断手段として期待されている[15]。
他の画像診断との比較
磁気共鳴血管画像(MRA)は、従来のCT血管造影(CTA)や侵襲的血管造影と比較して、被ばくがなく低侵襲であることから重要な選択肢となっている。
近年では非造影MRA(特にQISS法)を含む技術進歩により、下肢末梢動脈疾患の評価においてCTAと同等の感度・特異度を示すことが報告されている。特に重度石灰化病変においてはCTAより優れた診断性能を持つとされる[16]。また、下肢血管におけるMRAとCTAの診断精度はいずれも侵襲的血管造影に匹敵する高いレベルにある[17]。
さらに、3.0T装置の普及により、造影剤使用量を抑えながら高画質な撮像が可能となり、非造影MRAは低リスクかつ低コストで有効な手法として注目されている[18]。最新のMRA技術は従来のCTAや侵襲的血管造影の代替として普及しており、臨床現場では造影あり・なし双方の手法が利用されている[19]。
小児領域においては、MRAは被ばくがなく低侵襲である点で有利であるが、空間分解能の点ではCTAに劣るため、症例や目的に応じた適切な選択が求められる。特に小児では被ばく回避の観点からMRAの積極的な活用が期待されている[20]。
技術的進歩とガイドライン
磁気共鳴血管画像(MRA)は、放射線被ばくを伴わない非侵襲的な画像診断法として近年大きな技術的進歩を遂げている。特に3.0テスラMRI装置の普及により、造影剤の使用量を削減しつつ高解像度画像を得ることが可能となった[1]。
非造影MRA(NCMRA)は、腎機能障害や造影剤禁忌の患者に対して有用であり、Time-of-Flight法(TOF)、位相差法(Phase Contrast)、平衡定常自由歳差運動法(bSSFP)など多様な手法が導入されている[1][21]。
小児循環器領域においては、CT血管造影(CTA)による被ばくの影響を避けるため、MRAの選択が重要となっている。川崎病後の冠動脈病変や先天性心疾患の術前評価において、MRAは有用性を示している[22]。
また、国際的なガイドラインでは、頸動脈や頭蓋内血管の評価においてMRAが推奨されている。特に非造影MRAは安全性の観点から重要であり、臨床実践での位置づけが強調されている[23]。
さらに、末梢動脈疾患においても非造影MRAは高い診断精度を示し、造影剤使用を回避できることから臨床的意義が強いとされる[21]。
今後の展望としては、造影剤を用いた高解像度撮影と非造影手法を組み合わせることで、より包括的かつ安全な血管評価が可能になると考えられる[24][1]。
脚注
- ^ a b c d e Hartung et al., Magnetic resonance angiography: current status and future directions, J Cardiovasc Magn Reson (2011)
- ^ a b 斎藤陽子. Current Status of Magnetic Resonance Angiography. Radiation Environment and Medicine. 2018;7(1):1–8.
- ^ a b Shin T. Principles of Magnetic Resonance Angiography Techniques. iMRI. 2021;25(4):209–217.
- ^ Brinjikji W, Young PM. Update on state of the art magnetic resonance angiography techniques. J Vasc Diagn Interv. 2015;3:9–16.
- ^ Riederer SJ, Stinson EG, Weavers PT. Technical Aspects of Contrast-enhanced MR Angiography: Current Status and New Applications. Magn Reson Med Sci. 2018;17(1):3–12.
- ^ a b c d 日本小児循環器学会誌
- ^ a b c d Radiation Environment and Medicine
- ^ a b British Journal of Radiology
- ^ a b Abdominal Radiology
- ^ a b Journal of Cardiovascular Magnetic Resonance
- ^ Coronary Magnetic Resonance Angiography: Where Are We Today?
- ^ Non-contrast coronary magnetic resonance angiography: current clinical use and future developments
- ^ Principles of Magnetic Resonance Angiography Techniques
- ^ Time-of-flight MRA of intracranial vessels at 7 T
- ^ Magnetic resonance angiography: current status and future directions
- ^ The diagnostic value of non-contrast enhanced QISS MRA at 3T for lower extremity peripheral arterial disease. J-GLOBAL
- ^ Magnetic resonance angiography and computed tomography angiography of lower limb vasculature. Oxford Academic
- ^ Magnetic resonance angiography: current status and future directions. Journal of Cardiovascular Magnetic Resonance
- ^ Update on state-of-the-art magnetic resonance angiography techniques. Journal of Vascular Diagnostics and Interventions
- ^ 磁気共鳴血管撮影・磁気共鳴リンパ管撮影. 日本小児循環器学会雑誌
- ^ a b AHA, Noncontrast MR Angiography for Peripheral Artery Disease, Circulation Cardiovasc Imaging (2019)
- ^ 佐藤慶介, 磁気共鳴血管撮影・磁気共鳴リンパ管撮影, 日本小児循環器学会雑誌 (2025)
- ^ ACR–ASNR–SNIS–SPR, Practice Parameter for Cervicocerebral MRA (2021)
- ^ Grist et al., Coronary MR Angiography: Technical Innovations, JACC Cardiovasc Imaging (2020)
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